超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

19

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 カダンと二人だけの車の中はやけに広く、ランプの明りは灯っているのにも関わらず薄暗く感じる。

 寝返りをうった拍子に、首から下げていたペンダントが冷やりと胸の上を滑り落ちた。

 孝宏はシャツの中からペンダントを取り出し、天井のランプにかざしてみたが、光るでも透けるでもなく、黒を主張するばかり。


(そういや、これは取らなかったな)


 特別でない、ただの石のペンダント。あの男たちの目にも留まらなかった代物だ。

 詫びと礼と言われたのだから、正直にいうとそれなりの物を期待していたが、拍子抜けしてしまった。


(携帯は直す以上のことしてもらったし、贅沢は言えないか)


 壊れた携帯電話は元通りになったどころか、いくら時が経っても電池切れにもならず、開けば当たり前のようにディスプレイが表示される。


(これは本当にありがたい)


 「うぅ……」


 隣で寝ているカダンが夢の中、低く唸った。彼もまた、辛い夢の中にいるようだ。額には薄っすらと汗が浮かび、一筋の涙が頬を伝い床に小さなシミを作る。


「お…さん、助けて……お…さん……だれか……」


(ああ、まただ)


 カダンの口から零れた言葉に孝宏は目を逸らし、彼に背を向け何も聞くまいと、頑なに耳を塞いだ。


 カダンは夢にうなされている時、うわ言でよくを呼んだ。


 今も包まった薄い毛布を握り締め、苦悶の表情で彼らを必死に呼んでいる。

 普段の彼からは想像もつかない、どこか幼さの残るあどけない寝顔に、静かな悲しみが浮かび、見ているだけで悲しみが伝染する。

 目を閉じるのが怖い。もう眠れる気がしない。


(あぁ、これは嫌だな)


 こんな時は決まって足元が崩れるような錯覚が襲い、いつも身を竦め固まってしまうのだ。

 それは孝宏にとって、恐怖以外の何物でもなかった。


 もっともこんな時ばかりでなくそれは、昼でも夜でも関係なく襲ってきた。

 日が陰った時、明りのない部屋の中だったり、夜窓ガラス越しの見る外の風景だったり、ふと目を閉じた時に訪れる瞬間的な闇であったり。


 それは着実に孝宏を支配していった。


「ああ、今日も眠れないのかもしれない」


 孝宏は諦めがちに零した。







 後一時もすれば夜空に明りが指そうかという時分、カダンは体を振るわして飛び起きた。夢の続きか否か、心がざわついていて体が異様に重くだるい。

 車の木枠に張った幌の向こうで、ぼんやりとオレンジ色の明りが灯る。声は聞こえてこない。

 たき火がパチパチと弾け、風が木々を揺らすばかりの静かな夜。

 車内はカランとしており、カダンと孝宏の二人っきり。妙に居心地が悪く、落ち着かない。

 ふと、横で寝ている孝宏が血まみれの姿と重なり、カダンは焦って手を伸ばした。

 肩までかけてある毛布をめくり、記憶にある傷の部分を確かめると、そこには包帯が巻かれてあった。手当はしたが、やはり治癒魔法は効かなかったのだろう。

 カダンは掌を孝宏の口元にかざした。生暖かい息が掌にあたる。


(息はある)


 次に緊張する指先で、軽く孝宏の頬に触れる。


(暖かい……生きてる)


 それまでしてカダンはようやく胸を撫で下ろした。

 カダンは車を揺らさないよう静かに移動し、外の様子を伺った。

 毛布に包まって寝ている塊が二つと、パチパチ音を立て燃える焚火の前で、座ったまま眠りこけるカウル。

 外は至って静かだった。
 他には誰もおらず、今起きているのはカダン一人だけ。不用心と思いつつも、カダンにとっては寧ろ幸いだった。

 車の幕をしっかりと閉じると、床に書かれた術式を指でなぞり、きわめて小さな声で呟いた。


「魔力補給用の陣…………これがあるならいけるかもしれない」


 カダンは幌の内側に指で文字をなぞり始め、同時に小声で口にしたのは術式だった。息が上がり、術式を紡ぐ声が途切れながらも、それでもカダンは最後の一文字まで書き綴った。


「紡いだ糸を繋げ。先は王立魔術研究所、所長ア・タツマ」


 そう言った数秒の後、幌に灰色の影が映るのだが、不鮮明で形すら上手く留めていない。

 ただ今の状態ではこれすらも上出来と言える。声だけでも鮮明に聞こえるのが幸いだ。


「こんな時間になぁに?まだ夜も明けていないじゃない」


 幌に映る灰色の影はゆっくりと頭を振って、表情が写らなくとも不機嫌でいるのは見て取れる。
 とはいえ、皆の前で連絡を取るわけにもいかず、他が全員寝ている今しか連絡を取れる機会はない。先方の都合を伺っている場合ではないのだ。


「すみません。でもどうしても確認したいことがあったので」


 不鮮明な映像ではこちらも影でしか映っていないだろうが、カダンはあえて表情を付けた。声は潜めたもののトーンをいつもより高く、肩をちょっと竦める。少なくとも謝る態度ではない。


「今じゃなきゃダメなの?何よ、確認したいことって」


 相手はカダンに合わせて、声を潜めて言った。


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