超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

文字の大きさ
131 / 180
夢に咲く花

57

しおりを挟む



「大丈夫。死なない。多少の怪我くらい覚悟の上よ」


 ニッと歯を見せ、笑った口元が強張った表情と不釣り合いで、だが、あまりにも彼女らしい。

 カダンはこれまで共に生活してきた中で、彼女の性格はいくらかは分かっていた。
 マリーは自分の恐怖心を抑え込む術を持ち、他人の為に力を振るえる出来る人だ。

 それが、日常的なちょっとした事なのか、それとも命を張る程の事なのかは、おそらく、彼女の中では大した問題でないのだろう。

 説得している時間はないし、だからと言って彼女に暗示をかけて不必要に魔力を消耗するのも避けたかった。
 カダンはカウルに声をかけた。


「カウル、行くぞ」


「ああ、解ってる」


 カダンとカウルは視線を交わし、互いに短く確認し合った。

 二人にそれ以上の会話は不要だった。
 カダンが唸り声を上げ、身をよじり背を反らせると一気に体が膨張し、同時に全身を白い毛が覆い、四本の足で地面を捉える。
 カダンは瞬きをする間に、大きな獣へ姿を変えた。

 白い獣が狼にしては大きすぎる尻尾を、上下に振り背中に乗るよう促す。身を屈めると、すかさずカウルがマリーをカダンの背中に押し上げた。

 マリーをカダンの背中に乗せると、カウルも慣れた仕草でさっと飛び乗った。

 それまでの僅かな間で、カダンは耳をピンと立て、自慢の鼻で化け物の嗅ぎ慣れぬ臭いを探っていたが、徒労に終わってしまった。
 というのも、そこかしこから化け物の匂いが漂い、まるで役に立たなかったのだ。

 無理やり乗せられたマリーは腹這いに、カダンの胴と交差するように乗っているだけだが、背中をカウルに押さえつけられ思うように動けなかった。

 降りようとしてもすぐにカウルに戻される。そんな状況で剣を振り回すのは危険であると、マリーはすぐさま剣を元の指輪に戻した。


「ちょっと、危ないじゃない!私は……」


「そう思うなら大人してろ」


 カウルの抑揚のない声がマリーをピシャリと黙らせた。



 カウルが腹を蹴ったのを合図に、カダンは植木の合間を抜け大通りに出た。

 逃げ惑う人々に、道路に放置されたいくつか空の車。通りは黒に染まり、薄気味悪い目をギラつかせ、奴らは獲物を貪り食っていた。

 一匹の巨大蜘蛛がカダンが飛び出したすぐ前で獲物を――大柄でお腹の大きな男を――逃げないよう八本の足をしっかり絡め取っていた。
 男の柔らかな腹に自身の鋭い牙を突き立て、皮膚と肉を裂き貪り食っている。男は逃げるどころか動くことすらままならない様子で、全身を小刻みに震わせながら口から泡を吹いていた。焦点のあっていないうつろな目が空を仰いでいる。

 カダンは一歩、二歩、三歩、後ずさった。


「こんな……酷い……」


 マリーは唇を噛みしめ、自身の背中を押さえつけるカウルを睨み付けた。

 これを見捨てられるのか。故郷を化け物に蹂躙されなくしたあなたが、こんな行為を許せるのか。

 わざわざ言葉にしなくてもマリーの瞳が雄弁に語っている。

 もちろんカウルも悲惨な光景を見て、何も感じない程非道ではない。けれども、助けたい気持ちよりも、化け物たちへの復讐心が勝っているのが事実で、ならば確実に殺せる方法を取りたかった。

 しかし、そんなことより何より、優先順位を付けるのであれば、目の前で食われている男の命は、ルイや自分たちよりもずっと下であるのだ。

 なのでここに残ると言い出したマリーに対する苛立ちと、次から次へと起こる災難とですこぶる気が経っていた。


「ルイが心配なんだ!……………頼むから……」


 つい声を荒げ、絞りだす様な苦し気なカウルの声に、マリーはハッとし唇を噛んだ。

 マリーのルイに対する信頼は厚い。知り合って一か月と少しだが、それまでの間に、彼の凄さをどれだけ見せつけられたか解らない。

 それは単に、マリーが魔術に馴染みのない地球人だからだ、と言われれば否定はできないが、少なくともルイが本気で戦った関所での戦闘は、本職が圧倒されていたのだからマリーの思い違いでもないはずだなのだ。

 ソコトラで襲われた件を加味しても、ルイはもちろん、孝宏だって例の炎があるだから、何かが起こると考えてもいなかった。

 だが両親を亡くし、火傷が治ったばかりのルイの身を、カウルが案じないわけがなかった。今のカウルにたった一人の兄弟を信じろと言うのは酷と言うものだ。


 正義に陶酔するあまり大事な物を見落としてしまった。大事な人の心情を推し量ることすらできずに何が勇者か。独りよがりの正義心程見苦しいものはない。


「私あなたの気持ち考えてなかった。ゴメンなさい」


 考えなくとも解ることに気づかず、マリーは恥ずかしさのあまり顔を上げられず俯いたまま言った。待ってもカウルから返事はなかったが、マリーはやはり顔を上げられず、カダンの体毛をしっかり握った。

 カウルが上体を前に倒しマリーに身を寄せた。マリーを固定しつつカダンの毛を掴み、両足にぐっと力を込めて閉めた。

 この時、恥ずかしいとか言っていないで、体勢を変えておくべきであったと、マリーはすぐに後悔することになる。


「振り落とされないようしっかり掴んでて」


 カウルの緊張した声が降ってくる。


「わかった」


 マリーは全身に一層の力を込めた。






しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

ハズレスキル【地図化(マッピング)】で追放された俺、実は未踏破ダンジョンの隠し通路やギミックを全て見通せる世界で唯一の『攻略神』でした

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティの荷物持ちだったユキナガは、戦闘に役立たない【地図化】スキルを理由に「無能」と罵られ、追放された。 しかし、孤独の中で己のスキルと向き合った彼は、その真価に覚醒する。彼の脳内に広がるのは、モンスター、トラップ、隠し通路に至るまで、ダンジョンの全てを完璧に映し出す三次元マップだった。これは最強の『攻略神』の眼だ――。 彼はその圧倒的な情報力を武器に、同じく不遇なスキルを持つ仲間たちの才能を見出し、不可能と言われたダンジョンを次々と制覇していく。知略と分析で全てを先読みし、完璧な指示で仲間を導く『指揮官』の成り上がり譚。 一方、彼を失った勇者パーティは迷走を始める……。爽快なダンジョン攻略とカタルシス溢れる英雄譚が、今、始まる!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...