超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

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夢に咲く花

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「飛び降りるよ!」

 甘ったるい二人だけの世界をぶった切ったのは、当然と言えば当然か、カダンだった。

 マリーから見て、左の建物から飛び降りてきた。

 カダンは普通の人間ならどうにかなりそうな高さから、事もなさげに二本足で着地する。背中を膝を深めに曲げただけ、彼の足と地面とが接した時は音もなく静かなものだった。

 マリーがあの高さから落ちても無事だったのはカウルがクッションになったからだが、当のカウルはそのまま地面に叩きつけられたはずなのに、少し苦しそうにする程度で済んでいる。


「あり得ない……」


 散々異世界に憧れ思いを馳せたマリーでも、やはり物事の基準は地球の常識であり、自分にとってこの世界は異質なのだと思い知らされる。


――giikikikikikikiiii――


 不意に不気味な鳴き声が聞こえてきた。それをなんと形容してよいか見当もつかない。

 地を這う唸り声の様であるし、また金属が擦れる耳障りな音にも聞こえる。

 見上げると巨大蜘蛛が二匹、こちらを見下ろしていた。右側の建物と左側の建物、それぞれの屋根に一体ずつ。巨体が邪魔をして降りて来れそうもないのは明白なのに、それらは大口を開き笑っていた。


「さっさと逃げよう。やばいからっ」


 カダンはそう言ってまた狼の姿に変態しようと身構えた。背中を丸め前かがみなり唸る。カウルも立ち上がりマリーの手を取った。

 しかし次の瞬間、三人ともが動きを止めた。
 カダンは小さく舌を打ち、カウルはマリーを自身の方へ引き寄せた。


――kiikikikikikiiii――

――iiiikikikikiiiiikiki――


 道幅もさほどない裏路地の、左右から巨大蜘蛛が幾体か現れた。
 胴に比べて小さな頭を九十度に捻り、赤目の中の小さな瞳がクルクルッとバラバラに動く。間地かに近づけば近づくほど、奴らの不気味さに身の毛もよだつ。

 マリーはカウルの手を振りほどき、拳の中に出現させた剣を握り構えた。


「こいつら…………叩ききってやる!」


 カウルに蹴飛ばされ屋根に着地し、カダンが気が付いた時には、今しがたまでいた白い平屋建ての屋根にも巨大蜘蛛がしがみ付いていた。

 地上を行くにしても、そこかしこに巨大蜘蛛はいるのだから、ぐずぐずしていれば集まってくるかもしれず、この時、カダンはすぐに再び屋根伝いに逃げるべきだと考えていた。

 屋根を伝って走った、僅かな間で見ただけだが、地上を行けば遭遇せずにいるのは不可能な程に、奴らは我が物顔で横行闊歩していた。

 しかしどの個体も移動する速度は遅く、獲物を襲っている時も、間違いなく自身の体重を武器にしていた。

 ならば少なくとも三角屋根にいる方はバランスを崩すのを恐れ、素早く動けないはずで、やはり地上を行くよりはましだろうと思えた。

 できるだけ早くと思った時にはすでに遅かった。右も左も上も奴らに囲まれてしまっている。
 カダンは獣の姿になるのを諦め、両腕を左右に広げ胸を張った。


「俺は制限の一部を開放する。音を紡ぎ糸を絡め操る指を持つ、巧は神のごとく絶対を有する稀有なもの。俺は宣言する。成長を続ける見えない壁は敵意のみを通さず押しのけ、助けとなり、強固な盾となる。俺たちに届く牙はない」

 この場に六眼を持つ者がいたのならば、カダンを取り巻く魔力が膨れ上がる様子に驚いだだろう。

 森で賊に襲われた時の孝宏の様に呆気にとられ、あるいは見事な魔術に見とれたかもしれない。それほどまでにカダンを取り巻く魔力は常人のそれとはかけ離れており、彼の紡いだ魔術は上級の魔術師と遜色なかった。

 もちろん六眼を持っていなくとも、魔術に正通していなければ驚いただろう。実際マリーは解りやすく驚いていた。


「何!?何!?何が起こってるの?」


 迫って来ていた巨大蜘蛛たちが、突如、じりじりと何かに押されているかのように後退し始めたのだ。それは地上にいる物だけでなく、屋根にいる巨大蜘蛛も同じだった。
 カダンが何かをしたと分かっても、カダンが魔術を使える事を知らなかったマリーは、理解が追いついていかない。


「もう大丈夫……なの、か?」


 カウルは不安げにしながらも、押される巨大蜘蛛に多少なりとも気を緩めたが、用心の為マリーの腕掴みを引き寄せた。

 マリーもまた、握る剣を下ろし引かれるままにカウルの腕の中に納まったが、カダンだけが苦々しく唇を噛み舌打ちした。


「音を紡ぎ糸を絡め操る指を持つ、巧は神のごとく絶対を有する稀有なもの。俺は宣言する。見えない壁は敵意のみを通さず押しのけ、助けとなり、強固な盾となる。俺たちに届く牙はない。壁は決して壊れない。成長は止まらない。絶対にだ!」


 長い呪文を繰り返すカダンの表情はますます険しく、以前状況が好転していないと優に物語っていた。

 巨大蜘蛛たちは一匹、また一匹と数を増やし、決して早い動きでないものの、確実に距離を詰めてきている。

 マリーが思うに、巨大蜘蛛はカダンでなくとも人の足で逃げられそうな程鈍い。特に獣姿のカダンならば、あれが何かをする前に、あれらの前から消えるのも可能だろうと容易に想像が付く。

 それなのにどうしてカダンは、彼らの合間を縫って逃げないのか、マリーは不思議でならなかった。

 ルイならまだしも、カダンの魔術ではこの場を切り抜けるのは難しいのではないか。少なくともマリーはそう考え直していた。

 なぜならカダンの壁の魔術は、発動した傍から消えているようだったからだ。


 その為巨大蜘蛛はほんの僅か動きを止め、gitigiti鳴いたと思えば、再び距離を詰める。そんなことを繰り返していた。
 顔から血の気は失せ、息を震わせ歯を食いしばっているカダンの、切羽詰まっているのは様子を見れば、カダンに余裕がなのが分かる。

 カウルも同じように考えたのだろう。カダンに≪逃げよう≫と持ち掛けた。


「ここから全力で走って合間を縫って行こう!カダンの足なら逃げれる!これ以上は無理だ!」


「駄目だ、出来ない。理由は後で説明する。それよりも二人ともあのマンホールの所へ!早く!」


 カダンの左斜め後ろ、マリーとカウルの右側約二メートルの所にそのマンホールはあった。円形の、鉄でできた重厚な蓋は人の顔が彫り込まれ、ぽっかりと開いた口が取っ手になっている一風変わったデザインだ。


「でも、このままじゃ………」


「早く!時間がないのは見ればわかるだろう!?」


 時間の余裕など全くない状況で、まったく聴く耳を持たないカダンに対しカウルの方が折れた。納得してないマリーを無理やり連れ、先にマンホールへ移動した。








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