超空想~異世界召喚されたのでハッピーエンドを目指します~

有楽 森

文字の大きさ
155 / 180
夢に咲く花

81

しおりを挟む
ーーピィィィィーー


 再びあの耳障りな笛の音がなった。すぐ近く、だが別働隊の笛の音だ。

 ほぼ同時に、孝宏たちの隊列の向かう先でも、巨大蜘蛛が次々と現れた。先頭の兵士が笛を鳴らし、まるでこだまのように次々と笛の音が重なっていく。

 巨大蜘蛛がボトリ、ボトリと落ちては、孝宏の方に迫ってきた。遠くからではない。すぐ目の前にだ。ちょうど兵士とカダンの間に続けて二体も。


「ひぃっ」


 孝宏は息を呑み腰にぶら下がる短剣に手を伸ばし、ハッとし手を止めた。使えるかどうかも分からない短剣より、凶鳥の兆しの炎で応戦した方が慣れている分マシかもしれないと考えたのだが、すぐに問題が起きた。


「あれ?」


「どうしたの?」


 カダンは鞘から大刀を抜きがら尋ねた。視線の先はすでに巨大蜘蛛を捉えており、孝宏が次に口を開くと同時に、巨大蜘蛛の首が飛ぶ。


「火が……ってすげぇ」


「だからどうしたの?」


「火、火が出ないんだ。凶鳥の兆しが反応しない」


 カダンの電光石火の早業に感心しつつも焦る孝宏に対して、カダンは巨大蜘蛛を相手にしているとは思えない程の余裕で、ため息をついた。


「こんな所で炎なんて使ったら危ないよ。逃げ場少ないんだし」


 狭い路地で炎に巻かれれば、蜘蛛だけでなく兵士たちも危険に晒される。孝宏は当初の予定通り、危なくないよう避難すれば良い。そのための護衛もいる。

 言われて孝宏はそうだったと、思い直す。


「そう……だよな。ごめん」


「大丈夫、俺に任せて。孝宏は作戦通りに」


 カダンは一度、頭上を大きくかき混ぜるように大刀を振り回した。


「よし!」


 カダンは頷き、勢いよく巨大蜘蛛のほうへ駆けだしていく。

 兵士たちの間を駆け抜け、立ち塞がる巨大蜘蛛を早技で切り伏せ、人とは思えない身体能力で次々と巨大蜘蛛に襲いかかるカダンは、まさに獣を彷彿とさせた。孝宏と違い、カダンはこういうことになれているのだろう。


(まさか、狩りってああやってするのか?)


 さて、どこなら比較的安全で邪魔にならないだろうか。孝宏は周囲を見渡した。気が付けば、恐ろしいことにさっきまでいた護衛役の兵士がおらず、孝宏はぐっと唇を噛む。握る拳に一層力が入った。


 マンホールを探すべきだろうか。建物の中に避難しようか。でもこの状況でドアを開けてくれるかどうか怪しい。いや、むしろここから動かないほうが良いかもしれない。


 考えを巡らせている時、孝宏は壁の一部が剥がれ落ちていくのが見えた。


(地震か?)


 それとも巨大な蜘蛛のせいで揺れてるのか。

 大型のダンプカーが傍を通ると側の建物や橋などは揺れるが、これは巨大といえども蜘蛛にしてはで、せいぜい大人一人より大きいか位だ。とても揺れるとは思えない。


(そもそも崩れるくらい、揺れてたら気付くか)


 ならば何だろうか。


(あれ?そういや壁といえば……あの時壁に光が……)


 先ほど蜘蛛の巣の見落としがあった際、ロープとは別に光っていたのは何もない空中ではなく、確かに壁だった。

 それを蜘蛛の巣の端だと思っていたが、もしも違っていたとしたらどうだろう。例えば、壁を固めるための魔術とか、綺麗にするための魔術とか。

 でも、この世界でそういった類いのものを見聞きしたことがあっただろうか。
 ルイとこの町を巡っている時も気が付かなかった。

 ならここだけがたまたま魔術で加工しているのか。でも場所が限定的過ぎるし、位置が高い。高いからこその魔術加工なのかもしれないが、それなら他にもあって良いはずだ。



「もしも壁に張り付いてるとしたら……でもありえるか?いやぁ、俺が見えてないだけで…………この、壁に?」


 考えれば考えるほど分からなくなってくる。

 孝宏は壁を見上げた。

 古めかしいレンガ造りの建物に木製の扉。窓に格子がついている所もあるが、窓ガラスだけの建物も多い。

 あの牙なら食い破るのも可能だろう。それならばどうして巨大蜘蛛は窓やドアを破って中の人間を襲わないのだろうか。

 中に人がいると理解できないのか。


「それとも…………やっぱり……」


 再びパラパラと壁の一部が崩れ落ちてくる。

 壁の一部が崩れ、中から現れるのはなんだろうか。あの絵本がそうだったように、壁の中は何かを隠すには絶好の場所だ。

 孝宏は壁際まで駆け寄った。

 崩れ落ちてくる部分はやや高めだが孝宏が届かないこともない。孝宏が夢中でその箇所を拳で叩くと、その度に欠片が落ち拳に細かな石の破片が付いた。


「こんな所で何をしている!安全な場所に……」


 わざわざ比較的安全な中央から隊列の端までやってきた孝宏を、兵士の一人が咎めた。巨大蜘蛛がどこから降ってくるかも分からないのだから安全な場所などないのだが、少なくとも前方後方から迫ってくる巨大蜘蛛からは守ってやれるだろう。


「壁の中に何か隠れてる!あの蜘蛛かもしれない!」


 孝宏は何度も拳で壁を叩いた。その度に崩れる石を見て、兵士も違和感に気が付いたようだった。


「蜘蛛の巣が見えるのか?」


「見えないです!でもこれは普通なんですか!?」


 叩くだけで崩れ落ちる、細かな破片で作られた壁は普通か否か。睨む孝宏を兵士は壁から引き剥がし、自身の後ろへ追いやった。


「少なくともレンガ造りではあり得ないな。確認する!退いてろ!」


 兵士は両手の掌を壁に向けた。


「我は黄昏の使者 かはたれに帰る者 箱庭より生み出されし偉大なる根源を抱かふ汝らが一人 我に属する混沌たる力の源 古よりの盟約に従い顕現せよ」


 それが呪文らしいことは孝宏にも理解できたが、一体どういう意味を持つ文なのかさっぱり理解できない。

 やがて兵士の掌で、圧縮された空気が具現化されるかのように、小さなゴリラが現れた。掌にのってしまう程度の大きさのゴリラの背中には、細長い蝶の羽が生えている。

 兵士はマスクをずらし、口元を拭った。召喚の代償の血を得る為に、口の中を歯で噛み切ったためだ。刃物を取り出すのが億劫な時はいつもそうしていた。

 傷口は魔術で塞ぐので大事にはならない。ただ血でマスクが濡れると都合が悪かった。なので拭った、ただそれだけのこと。

 この兵士にとってはよくある事だった。



「ああ、頼む…………そうかじゃあやはり…………間違いないようだな。ありがとう」


 孝宏に精霊の声は聞こえないが、兵士の言葉だけで、少なくともそこに都合の悪い物が隠れていたのだと確信できた。

 やはり蜘蛛の巣が隠れていたのか、孝宏は兵士に尋ねようとして、ぎょっとして目を見開いた。兵士の口から血が流れ出て、拭った上から鮮血が落ちてくる。


 いつもよりも深く切ってしまい、手で拭う程度では収まらなかったのだが、兵士はさほど気にしていなかった。それすらも兵士にとって、さほど珍しくもなかったからだ。実際、兵士はゴリラの精霊が消えた後、すぐに治癒魔術で傷口を塞いでいる。

 ただ孝宏は兵士が口の中に溜まっていた血を吐き出したのに慌てた。


「血、血が出てます!何か……拭くもの……」


 普段ならハンカチくらい入っていると、孝宏はポケットを探るが、身につけている防具に阻まれ手が届かない。ただ届いたところで何もないのだが、孝宏は気付いていない。

 この状況で口についた程度の血を気にしていられる度胸に感心するべきか、見た目には分かりにくいがパニックに陥っているのか、兵士は一瞬だけ迷った。


「傷口はふさいだからもう問題ない。それよりも君の言うとおりだったよ。ここは私に任せて、君は隊列の中央に戻りなさい」


「えぇ!?……いやでも…………はい……」


 今は自分の身を守ることを第一に考えろ、兵士の目は孝宏にそう訴えていた。 







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

アイテムボックスの最も冴えた使い方~チュートリアル1億回で最強になったが、実力隠してアイテムボックス内でスローライフしつつ駄竜とたわむれる~

うみ
ファンタジー
「アイテムボックス発動 収納 自分自身!」  これしかないと思った!   自宅で休んでいたら突然異世界に拉致され、邪蒼竜と名乗る強大なドラゴンを前にして絶対絶命のピンチに陥っていたのだから。  奴に言われるがままステータスと叫んだら、アイテムボックスというスキルを持っていることが分かった。  得た能力を使って何とかピンチを逃れようとし、思いついたアイデアを咄嗟に実行に移したんだ。  直後、俺の体はアイテムボックスの中に入り、難を逃れることができた。  このまま戻っても捻りつぶされるだけだ。  そこで、アイテムボックスの中は時間が流れないことを利用し、チュートリアルバトルを繰り返すこと1億回。ついにレベルがカンストする。  アイテムボックスの外に出た俺はドラゴンの角を折り、危機を脱する。  助けた竜の巫女と共に彼女の村へ向かうことになった俺だったが――。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...