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夢に咲く花
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──メキッ──
「ひぃっ」
蜘蛛の下から這い出してきた孝宏を、目聡く見つけた別の巨大蜘蛛が孝宏の横っ腹に食らいついてきた。
──kiiiiikkikkikkikkikkiiieee──
先ほどよりやや大きめ。赤い目がギラつき、捕らえたと言わんばかりに蜘蛛は声高く笑う。
防具のおかげでさほど痛みはないが、圧迫され苦しい。固い鎧がへこむのだから奴らの顎の力は侮れず、このままでは防具ごと肋骨を砕かれかねない。
先程まで見向きもされず、立っているだけで良かったというのに、次から次へとやってくる。これは一体どういう事だろうか。
これは孝宏も酷い感想だと自覚しているが、貧相な自分よりも兵士たちの方が鍛えている分美味しそうに思える。
(もしかして動く物なら何でも食べるのか?)
孝宏は短剣を振り上げた。
(確かさっきは即死だった)
頭を庇い上を見ていなかった孝宏は、短剣が巨大蜘蛛のどの部分を貫いたのか知らない。
視界の端に映る事切れた蜘蛛の胴が、折れ曲がり頭に乗っているが見た目は綺麗なものだ。どこにも傷を負っていない。となると短剣は頭に突き刺さったにちがいない。
(けど、どこだ?脳天か?目か?喉か?奴らの弱点は……)
巨大蜘蛛を語る上で一番印象的なのは何かと尋ねられたなら、それは蜘蛛のような八本の足か、闇色の体か、鋭い二本の牙か、または何物も寄せ付けない強力な防御魔術か。
人によって様々であろうが、もし孝宏であったなら、赤い目と答えるだろう。
巨大蜘蛛の赤い目は常にギラギラと攻撃的な光を放ち、地球の動物ではあり得ない複数の目を持つ。六眼が衰えた目で、壁に見た物もやはり赤い目だった。
孝宏は振り上げた短剣を構え直し、巨大蜘蛛の目を横から引き裂いた。続けて額に刃をグッと差し込み、そのまま縦に下ろす。
よく見れば初めの一振りで蜘蛛は動かなくなっていたが、孝宏はその後も、何度も目に短剣を突き刺した。安心できるまで何度も。
「はあ……はあ……はあ……はあ…………」
気が付けば蜘蛛の頭は原型が解らないまでに崩れていた。
短剣もそれを握る手も腕も新たな血肉に塗れている。孝宏は今にも泣き出しそうな、震える小さな声で呟いた。
「もう……嫌だ……」
その様子をカダンは離れた場所から見ていた。
カダンは孝宏の身が危なくなったら大刀を投げるつもりで、常に振るっていた。
壁まで追い詰められていっている時も、頭上に巨大蜘蛛が現れた時も目を離さなかった。脇腹に食いつかれた時は投げようと構えたが、孝宏自身で何とかできた。
振り上げた短剣をすぐに構え直したのは、きっと孝宏なりに考えてのことだろう。
むしろそれを見て、冷静でいると判断したから投げずに様子を見たのだが、カダンから見て孝宏はまだ危うい。だからこうして守ろうと同じ班になったのに、中々近づけないでいる。巨大蜘蛛が多すぎるのだ。
「早くタカヒロのところへ行かないと!」
カダンが焦って前へ出ようとすると上から巨大蜘蛛が降ってきて、切り伏せようとすると横から別の個体が現れる。回り込んで行こうとすると、巨大蜘蛛に押された兵士が道を塞いだ。
次から次へと降ってくるあたり、蜘蛛の巣を一度で廃棄したのは作戦だったのだ。
完全に失敗した。
こんなことなら孝宏から離れるべきではなかったと、カダンは今更ながら後悔した。カダンと孝宏の距離は三十メートルしかないというのに、嫌に遠く感じる。
「……!?」
壁の低い位置、孝宏のすぐ背後、再び巨大蜘蛛が染み出してきた。
孝宏は動かなくなった巨大蜘蛛に、執拗に短剣を振り下ろしており周囲に注意が向いていない。
巨大蜘蛛がゆっくりと体を現しながら、大きく口を開いた。音もなく、牙を孝宏の首にあてがう。
「……チッ」
カダンは今度こそ大刀を投げつけた。
大刀はいくつかの障害物を貫き飛んだ。とある蜘蛛の頭を貫き、足を切断し、兵士の盾と鎧を破壊しながらも、勢いを落とすことはなかった。
巨大蜘蛛が孝宏の首筋に噛みつこうとしたその瞬間、巨大蜘蛛の横っ腹に穴を開け、最後は壁にも大穴を開けた。
「もう……嫌だ……」
──giiiiiiiiiyaaeeeeee──
嫌だ、そう呟いた次の瞬間、背後で上がった瓦礫が崩れ落ちる音と、一拍遅れて聞こえた化け物の悲鳴に、孝宏はハッとして顔を上げた。
背後の壁を崩し、見覚えのある大刀に突き刺された巨大蜘蛛が建物の中でのびている。
「は?な、な、な、な、なんで!?」
建物の中には隠れている民間人がいるはずだろうに、穴が開いてしまうのは非常にまずいのではないか。孝宏は血の気が引き奥歯を噛み締めた。
この大刀の一撃で巨大蜘蛛が死んでいなかったら、他の巨大蜘蛛が穴から侵入したら、逃げ場のない建物内ではどうなるか想像に難くない。
それからあの武器はカダンが振るっていた大刀によく似ている。
「なんで……」
どうして唯一の対抗手段を手放したか。
孝宏は自身のすぐ後ろに空いた壁の穴を見つめ、そこにいたはずの巨大蜘蛛を想像し身震いした。
「早くカダンに渡さないと……」
カダンが武器を持たずに巨大蜘蛛と対峙しているのを見て、孝宏はのろりと立ち上がった。
「早く……早く……」
頭や顔、手が血に塗れていても、孝宏自身は怪我の一つだってしていない。だというのに足はガクガク震え、息は荒い。
緊張すると視野が狭くなる。
「カダンに……早く……」
崩れたレンガに足を取られ転び、壁につけて置かれていた低いタンスを乗り越えるのに手間取る。ここまで来ても孝宏はまだ冷静ではなかった。
孝宏が階段の麓で横たわる蜘蛛に片足を乗せ、大刀の柄に手を飛ばした時悲鳴が聞こえた。
「ひぃっ」
蜘蛛の下から這い出してきた孝宏を、目聡く見つけた別の巨大蜘蛛が孝宏の横っ腹に食らいついてきた。
──kiiiiikkikkikkikkikkiiieee──
先ほどよりやや大きめ。赤い目がギラつき、捕らえたと言わんばかりに蜘蛛は声高く笑う。
防具のおかげでさほど痛みはないが、圧迫され苦しい。固い鎧がへこむのだから奴らの顎の力は侮れず、このままでは防具ごと肋骨を砕かれかねない。
先程まで見向きもされず、立っているだけで良かったというのに、次から次へとやってくる。これは一体どういう事だろうか。
これは孝宏も酷い感想だと自覚しているが、貧相な自分よりも兵士たちの方が鍛えている分美味しそうに思える。
(もしかして動く物なら何でも食べるのか?)
孝宏は短剣を振り上げた。
(確かさっきは即死だった)
頭を庇い上を見ていなかった孝宏は、短剣が巨大蜘蛛のどの部分を貫いたのか知らない。
視界の端に映る事切れた蜘蛛の胴が、折れ曲がり頭に乗っているが見た目は綺麗なものだ。どこにも傷を負っていない。となると短剣は頭に突き刺さったにちがいない。
(けど、どこだ?脳天か?目か?喉か?奴らの弱点は……)
巨大蜘蛛を語る上で一番印象的なのは何かと尋ねられたなら、それは蜘蛛のような八本の足か、闇色の体か、鋭い二本の牙か、または何物も寄せ付けない強力な防御魔術か。
人によって様々であろうが、もし孝宏であったなら、赤い目と答えるだろう。
巨大蜘蛛の赤い目は常にギラギラと攻撃的な光を放ち、地球の動物ではあり得ない複数の目を持つ。六眼が衰えた目で、壁に見た物もやはり赤い目だった。
孝宏は振り上げた短剣を構え直し、巨大蜘蛛の目を横から引き裂いた。続けて額に刃をグッと差し込み、そのまま縦に下ろす。
よく見れば初めの一振りで蜘蛛は動かなくなっていたが、孝宏はその後も、何度も目に短剣を突き刺した。安心できるまで何度も。
「はあ……はあ……はあ……はあ…………」
気が付けば蜘蛛の頭は原型が解らないまでに崩れていた。
短剣もそれを握る手も腕も新たな血肉に塗れている。孝宏は今にも泣き出しそうな、震える小さな声で呟いた。
「もう……嫌だ……」
その様子をカダンは離れた場所から見ていた。
カダンは孝宏の身が危なくなったら大刀を投げるつもりで、常に振るっていた。
壁まで追い詰められていっている時も、頭上に巨大蜘蛛が現れた時も目を離さなかった。脇腹に食いつかれた時は投げようと構えたが、孝宏自身で何とかできた。
振り上げた短剣をすぐに構え直したのは、きっと孝宏なりに考えてのことだろう。
むしろそれを見て、冷静でいると判断したから投げずに様子を見たのだが、カダンから見て孝宏はまだ危うい。だからこうして守ろうと同じ班になったのに、中々近づけないでいる。巨大蜘蛛が多すぎるのだ。
「早くタカヒロのところへ行かないと!」
カダンが焦って前へ出ようとすると上から巨大蜘蛛が降ってきて、切り伏せようとすると横から別の個体が現れる。回り込んで行こうとすると、巨大蜘蛛に押された兵士が道を塞いだ。
次から次へと降ってくるあたり、蜘蛛の巣を一度で廃棄したのは作戦だったのだ。
完全に失敗した。
こんなことなら孝宏から離れるべきではなかったと、カダンは今更ながら後悔した。カダンと孝宏の距離は三十メートルしかないというのに、嫌に遠く感じる。
「……!?」
壁の低い位置、孝宏のすぐ背後、再び巨大蜘蛛が染み出してきた。
孝宏は動かなくなった巨大蜘蛛に、執拗に短剣を振り下ろしており周囲に注意が向いていない。
巨大蜘蛛がゆっくりと体を現しながら、大きく口を開いた。音もなく、牙を孝宏の首にあてがう。
「……チッ」
カダンは今度こそ大刀を投げつけた。
大刀はいくつかの障害物を貫き飛んだ。とある蜘蛛の頭を貫き、足を切断し、兵士の盾と鎧を破壊しながらも、勢いを落とすことはなかった。
巨大蜘蛛が孝宏の首筋に噛みつこうとしたその瞬間、巨大蜘蛛の横っ腹に穴を開け、最後は壁にも大穴を開けた。
「もう……嫌だ……」
──giiiiiiiiiyaaeeeeee──
嫌だ、そう呟いた次の瞬間、背後で上がった瓦礫が崩れ落ちる音と、一拍遅れて聞こえた化け物の悲鳴に、孝宏はハッとして顔を上げた。
背後の壁を崩し、見覚えのある大刀に突き刺された巨大蜘蛛が建物の中でのびている。
「は?な、な、な、な、なんで!?」
建物の中には隠れている民間人がいるはずだろうに、穴が開いてしまうのは非常にまずいのではないか。孝宏は血の気が引き奥歯を噛み締めた。
この大刀の一撃で巨大蜘蛛が死んでいなかったら、他の巨大蜘蛛が穴から侵入したら、逃げ場のない建物内ではどうなるか想像に難くない。
それからあの武器はカダンが振るっていた大刀によく似ている。
「なんで……」
どうして唯一の対抗手段を手放したか。
孝宏は自身のすぐ後ろに空いた壁の穴を見つめ、そこにいたはずの巨大蜘蛛を想像し身震いした。
「早くカダンに渡さないと……」
カダンが武器を持たずに巨大蜘蛛と対峙しているのを見て、孝宏はのろりと立ち上がった。
「早く……早く……」
頭や顔、手が血に塗れていても、孝宏自身は怪我の一つだってしていない。だというのに足はガクガク震え、息は荒い。
緊張すると視野が狭くなる。
「カダンに……早く……」
崩れたレンガに足を取られ転び、壁につけて置かれていた低いタンスを乗り越えるのに手間取る。ここまで来ても孝宏はまだ冷静ではなかった。
孝宏が階段の麓で横たわる蜘蛛に片足を乗せ、大刀の柄に手を飛ばした時悲鳴が聞こえた。
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