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第一章~王女の秘密~
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しおりを挟むこうして私の通いが始まった。
勉強に忙しいネイノーシュを追いかけまわし、それと同時に、私が恋人と堂々と会えるのに浮かれているとの噂を流した。
ネイノーシュは本当に忙しくて、王族としての一般教養だけではなく、私との婚約後に就く役職に必要な勉強もある為に、本当なら私と会っている時間はないに等しい。そんな暇があったのは婚約者として城で初めて会ったあの日くらいだ。
だからこそ、頑張った甲斐もあり、たった数日で私の浮かれっぷりは城中に広がっていった。
噂の受け止め方が、好意的か批判的かは人によりけりでしょうが、そんな些細な事はどうでも良かった。批判的な方が、早く噂が広がるというのであれば、むしろそちらの方が私にとってはありがたかった。
それから私たちが流した二つ目の噂。
マンナが婚約前であるのに、私がネノスに会う事を面白く思っていない、というもの。
初日にマンナがネイノーシュに礼儀作法に難癖をつけて、面会時間をなくしたのを利用したのだけれど、こうしておけば、私がマンナの目を盗んで、一人で行動していても不自然にはならないし、敵方が私とマンナの分離を計りやすくなる。
ここまでしても、敵方がすでに諦めた、実は目的を達成していたという可能性もあるのだから、私の中には、すべてが無駄になるのではないか、という不安が常に存在していた。
だってそうでしょう? もしも敵方に狙われていないのなら、私がここにいる意味がないもの。
ここ数年、敵方の動きは皆無といっても過言ではない。
けれども、私が幼い頃は何回か殺されかけたらしい。
らしいと言うのは、私が物心付くずっと前の話だから。その度に真っ先に気が付いたマンナが救ってきた過去がある。ある頃からパタリとなくなったそうだけれど、詳しくは知らない。
でも確かに、お父様とお母様の睨んだ通り、敵方も私を殺すことを諦めてなかった。
ここ数日、何故か、マンナが私の側を離れる用事が増えた。
彼女の家庭の問題だったり、どうしてだが、彼女に淑女としての教育の申し込みがあったり。
さらには私の周辺で、不可解なトラブルが頻発するようになっていった。
それを知った時、私はごく自然に歓喜し、それでいて、夜ベッドで隠れて泣いた。
私がネイノーシュの部屋に通い初めて早十日目。
毎日毎日、本当は乗り気じゃないのに、無理してはしゃいで、廊下を早めに歩いたりして。
今日も同行する侍女が、後ろから息を上げてついてくる。
私がちょうど玄関ホールの二階へと続く、中央階段に差し掛かった時だった。
この玄関ホールは扉を開けると、真っ先に目に入る様、正面の階段の踊り場の壁に、国王と王妃の肖像画が掲げられており、玄関ホールを横切るならどうしても目に入ってしまう。
しまうと表現したけれど、私は何も、お父様とお母様が嫌いというのではない。
それでもこの肖像画は、今の私にとって増悪させる物に成り下がっている。
肖像画の中のお父様は今よりもずっと若く、式典でしか着ないような立派な衣に身を包み、威厳たっぷりで遠くを見据える黒い瞳が力強い印象を受ける。
普段顔を合わせる時よりも数段キリリとした表情は、ここ数日毎日見る誰かを彷彿させ、見る度に私はゾッとした。
もしかすると、アートが本物の王子かもしれない。
私は心臓がギリギリと、捻れるような錯覚に陥った。
でもいくら何でも、これはあり得ないわよね。
確かに意識して見れば、髪の色や目の色が同じアートは、お父様とよく似ていると思い込める。
でも鳥人は幼少期と成長してからでは、毛の色が変わる事も非常に多く、私は違うけれど、幼少期だけカラス羽だという鳥人も少なくない。
だから、アートがお父様とよく似ていても、お父様と同じく髪が黒から白へ生え変わっていたとしても、私はアートが本物の王子だとは思っていなかった。
だってそうでしょう?
偽物がいるのに、どうして本物を送り込んでくる必要があるのか、さっぱり分からないじゃない。
王子の安全をはかる為の偽物だというのなら、一緒に被害を被る可能性がある以上、悪手といえる。
だからきっと、ネノスが偽物だっていう、私の考えの方が間違えているの。
今まで気づかなかったけど、たぶん私は私の見た目が幼いから、他人の見た目から年齢をはかるのが苦手なのね。
世間一般の16歳はきっとネノスくらいなのよ。きっと、そう……よね?
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