いと

hakua

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子供

集団で行動するとはどういうことか。住む世界が少しずつ広がる大学生の苦悩とは。

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 「個の時代」 黙れ。

 頭に浮かぶ人間の内、何人が友達と言えるだろうか。少なくとも俺にとっては、全員が友達だ。日頃から顔を合わせている友人に面と向かって、「お前は友達だ。」と言ったことはない。そんなこと言うのは照れくさいし、言わずとも友達という関係性は形成されるからだ。

 隆太は人を嫌うことは滅多にない。そんな性格だと自覚している。実際、周りの評価も「人懐っこい」「友達が多い」「悪口を言っているところ見たことがない」と、その対人能力を肯定するものばかりである。そのような評価は嬉しいのだが、隆太は大きな違和感を覚えた。
「みんなそうじゃないの?」
この二十年間の人生で薄々気づいてはいたが、隆太が思っているより、人間は人間のことが好きではない。

「てか、隆太って彼女いるんだっけ。今。」
 スマホに目線を残したまま問いかけたのは第二外国語で同じ授業を取って以来、何気なくいつも一緒にいる圭人(けいと)である。
「いるよ。前話した人から変わってないよ。」
「あの高校の人だっけ。めぐちゃんだ。」
 圭人が出した名前は、隆太が現在交際している彼女を呼ぶ際の愛称である。本名を教えてあるはずであるが、あえて愛称を使って呼んだのは隆太を多少、揶揄うつまりなのであろう。この空きコマの後には、何故か必ず通いづらい時間へと振られる第二外国語の授業がある。いつもならこの時間にその課題を済ましてしまうのだが、先週の講義で講師が課題を出さなかったため、ただの雑談タイム兼休憩時間となった。
 隆太の中では、圭人は大学で出来た友達の中でも仲の良い友達に分類される。別に友達を一人一人区別して考えるつもりはないが、一緒に過ごした時間で差が生まれるというのは仕方のないことである。みんなと仲良くして、常に楽しくいたいというのが本音である。隆太自身、みんながそうであると思って生きてきた。しかし、そうでもないことが近年分かってきたのである。「みんなと仲良くすること」が不可能であるとする人もいるし、好まない人もいる。それが隆太にとっては衝撃でならなかった。難しいと評価するのであれば理解できる。
「あいつ面倒くさくない?だるいよな。」
「正直、来ないでとすら思ってる(笑)」
 そんな言葉を聞いて、驚いたのだ。確かに面倒臭いと思う人もいるし、話の相性が悪いと感じることは多々ある。ただこの二十年間で培ってきた対人スキルというものがある。相対する人によって、話し方や接し方を変えれば良いだけだ。

「新台打った?」
「おっきーは?」
「俺、パチンコやらないんすよねー。」
 有名チェーンのファミレスの事務所では、頻繁にギャンブル、特にパチンコの話題があがる。二個だったり、四個だったり年齢が離れている先輩たちはその多くがギャンブルに手を染めている。先ほど隆太のことを「おっっきー」と呼んだ、四つ上の先輩でここに七年近く勤めている大斗(だいと)さんはパチンコにハマっている。ギャンブル狂とまではいかないが、月の給料の四分の一をパチンコに使うくらいには、その沼に浸かっている。ちなみにおっきーというあだ名は隆太の名字である「沖野」を略したものである。
「アガリ、一緒でしょ?飯行こうよ。」
「行きましょ。行きましょ。」
 ラッキーだ。大斗さんがこの言い方をする時はご飯を奢ってくれる時である。バイトしか収入のない大学生にとって、ご飯一食分が浮くというのは非常にありがたい。
「何食いたいか考えといて。」
「了解っす。」
 威勢よく「焼肉でお願いします!」と答えたい気持ちもあるが、日頃からご馳走になっている身としては流石に気が引けてくる。ラーメンが妥当なところかななどと考えていたら、休憩が明けて仕事に戻った。
 結局、バイト先から自転車で、十五分弱で到着できる家系ラーメンのお店に入った。
「三ヶ月前に入った大二の子いるんじゃん。隆太と同い年の人。」
「たけるっすか?」
「そそ。あいつさ、めんどくない。話長いし、あとシンプルに使えん。」
 建人(たける)は一生懸命に働くが、確かに独特の間があって、どこかボケッとしている。それが故に周りから動きが遅いと言われることが結構な頻度であった。
「確かにタイミングとかちょっとわからない時あるっすよね。」
 一応同い年だし、特に何かされたことがあるわけでもないし、嫌いというわけではないので否定とも、肯定とも取られない曖昧な回答をしておいた。人間を愚痴でも吐かなければ心がパンクしてしまう。そして今はその吐口に、ご飯をご馳走していただいている隆太がなるべきであろう。
「そーなんだよ。雑談はいいんだけどさ、こっちも仕事してるんだから、タイミングは考えてほしいよね。」
「確かに。」
 先輩の愚痴に苦笑いという表現がしっくり来る表情で答えた。ちなみにこの愚痴大会はすでに三十五分を経過したところである。ラーメンは食べ終わり、空の食器と結露でびしょびしょのお冷グラスがテーブルの上に残されている。これは愚痴ではなくて「悪口」なのかもしれない。大斗さんは俺にこの話をして、何がしたいのか。最初はバイト中にムカついたことを後輩に聞かせて、ストレスの発散をしているのだと思っていた。しかし、それだけなら同じ話題を三十分以上も続けるだろうか。そう考えたところで分かった。
「大斗さんは、たけるが嫌いなんだ。」
 この話を俺に聞かせることで、自分と同じ考えを持つ人間を生み出そうとしているのだ。その相手が後輩ならば、考えを植え付けることは他の人と比べて、容易である。先輩が言うことに、「それは違うんじゃないですか。」と言う人はどれ程いるのだろうか。まして、隆太は今ご飯をご馳走になっている。少なくとも、この状況で隆太は否定することはできなかった。ただ、「そんなこと言わない方が良いんじゃないか」と心の中では思っていた。だって同じ職場で働く同僚だからだ。仲が良い状態の方が、働く環境としては良いのではないか。大斗さんはそうは思わないのだろうか。そう考えながら、ご馳走になったお礼を丁寧にしてから帰路に着いた。
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