英雄の末裔も(語り継がれないけど)英雄

Ariasa(ありあーさ)

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一章 -幼少時代-

-故郷の記憶- 1

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 人間王が統べる国、『アークス=ナヴァル大王国』の『大都市・クィントス』から少し離れた所に、特に目立った産物や産業があるわけでもない、とてものどかで平和な『ナシュ村』という村が存在する。
 村全体はとても平和だが、とある一軒家では穏やかな村には似つかわしくない男の怒鳴り声と子供の泣き声が毎日のように響いていた。
「いつまでもビービー泣いてんじゃねぇ!」
 そんな怒鳴り声と共にダンッと何かが叩き付けられたような音が家の中から聞こえ、近くにいた村の者達はその荒れように眉をひそめて子供達を心配する声がどこからともなく上がった。そして村の者達は心配そうに怒鳴り声と子供の泣き声を聞いていた。
 しかし、一人の女性は男の怒鳴り声と子供の泣き声を聞き付けると、村人と同じように眉をひそめつつも迷わずに家の中に入っていった。
 部屋に入ってみると、物は強盗に遭った後のように散乱していて、部屋の中央で酒瓶を手にいきり立っている男が、部屋の隅で泣きじゃくる二人の男の子を睨み付けていた。深い紫の髪色をした男の子は大きな声を上げて泣きじゃくっていたが、黄緑の髪色をした男の子は泣きながらも、深い紫の髪色をした男の子を守ろうと、震えながら深い紫の髪色をした男の子の前にいた。
「ヴェルフさん、そのように大声で怒鳴らないであげてください。外にまで貴方の声が響いていますし、ザギ君もドラゴン君も怯えています。離婚をして気持ちが荒れるのも分かりますが、その苛立ちを子供にぶつけるのは親としてどうかと思いますよ」
 女性は、深い紫の髪色の男の子、ドラゴン・ロディアノスと黄緑の髪色の男の子、ザギ・ロディアノスを怒鳴っていた男『ヴェルフ・ロディアノス』の前に立ち、臆することなくハッキリとヴェルフに言い放った。すると、ヴェルフは女性の物言いが気に入らなかったのか、標的を子供達から女性へと向けて、女性を睨み付けた。
「またアンタか。毎度毎度勝手に俺の家に入ってくるのを止めろって言ってるのが理解できねぇのか? いい加減、部外者はすっこんでろ! いいか、これはしつけだ! 親は子をしつけるのが義務ってもんだろうが!」
「これの何処がしつけですか。私にはただ自分の苛立ちを子供達にぶつけているようにしか見えません。それに、その様何です? 働きもせずに昼間から酒を呑み、酒に呑まれて己をコントロール出来ていないではありませんか。堕落しているのにも程があります。恥を知りなさい」
「うるせぇ! アンタに何がわかる! 最愛の妻に逃げられた俺の気持ちが、アンタごときに理解できるわけがねぇだろうが! いい加減出ていきやがれ! ここは俺の家だ!」
 感情のままに叫ぶヴェルフに、今まで静かにヴェルフを見据えていた女性は睨み返すようにキッと目を鋭くさせて、静かな威圧がヴェルフを包んだ。それによりヴェルフは一瞬勢いを失い、口をつぐんだ。
「ヴェルフさんが堕落した生活からきちんと抜け出し、ザギ君とドラゴン君への虐待行為を止めれば、私はもう来ません。いいですか? きちんと理解してください。貴方はこの子達の父親であるということ、そして、今親の愛情をこの子達に与えられるのは、ヴェルフさんだけなのだということを。分かりましたか?」
 女性の言葉にヴェルフは悔しそうな、悲しそうな、苛立ったような複雑な表情を浮かべてそのまま黙り混み、そのまま踵を返すと家を出ていった。女性はそれを見送ると、ザギとドラゴンの方に向き直り、しゃがんで目線を合わせると優しく微笑んだ。
「怖かったわね。もう大丈夫よ」
 その言葉に二人はワッと泣きながら女性に抱き付き、すがるように女性を抱き締めた。そんな二人を女性はしっかりと抱き止め、二人が落ち着くまで優しく「よしよし」と背中を擦り続けた。
 そしてようやく二人が落ち着くと、女性はホッとしたように息を吐き、二人の表情を見るためにそっと体を離した。しかし、その表情を見た瞬間に女性はホッとした表情からすぐに痛々しい表情に変わり、胸が締め付けられるような思いで緩めた腕にもう一度力を込めた。
 二人は泣き止んだものの、その表情は晴れず、とても悲しそうで、寂しそうな表情だったのだ。そしてザギがその表情のまま、女性を見上げた。
「どうして、お父さんは僕達を怒るの…? お兄ちゃんの僕が泣き虫だから?」
「いいえ、ザギ君は悪くないわ。ドラゴン君を守ろうとしていた、とてもいい子ですもの」
 ザギの言葉に女性はゆるゆると首を横に振り、励ますようにポンポンと背中を優しく叩きながら精一杯の優しい笑顔を作ってそう言った。するとドラゴンが、涙で頬を濡らしている顔を上げて、まだ少ししゃくりあげながら訴えるように女性にこう言った。
「じゃあ、何で僕達、は、お父さんに怒られ、てるの…!? えうっ、僕、もうヤダよぉぉ……。お母さんの、ところ、行きたい……グスッ、お母さん……」
 最後の言葉は切実な願いが込められていて、それだけ二人のは辛い思いをし、親の愛に飢えているのだと女性は痛感した。
 幼いからこそ、そして一度幸せな家庭を知ってしまったからこそ、二人はその落差に強い悲しみと寂しさを覚え、またその幸せな時を取り戻したくて涙を流していた。
 女性はそんないたいけな二人をどうにかして慰めたく、おもむろに口を開いた。
「いつか……二人が大きくなって働ける歳になったら、この村を出ていけるようになるわ。そうしたら、お母さんを探しに行けばいいの。それまで、私がザギ君とドラゴン君を守るから」
 女性の言葉に二人とも少しだけ安心したように頷き、一度ギュッと抱きつくと女性から離れた。女性はそんな二人にフッと笑い掛けて「ありがとう」と言うと、二人ともようやく表情を綻ばせて「うん」と少し照れ臭そうに頷いた。
「じゃあ、ご飯を作ってから帰るから、二人で仲良く食べるのよ?」
「やったぁ! ご飯だ! やったね、兄ちゃん!」
「うん、そうだね。ありがとう、お姉さん!」
 女性の言葉にドラゴンはパッと表情を明るくしてザギに抱きつきながら喜び、ザギは抱きついてきたドラゴンを抱き止めながら満面の笑顔で女性に礼を言った。女性はそんな二人を見て優しく微笑むとキッチンを借りて簡単な夕食を作り、二人に夕食を食べさせてからその家を後にした。
 この日は結局、ヴェルフは帰ってこなかった。
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