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 すると次はティタとティオンがアリアナのところに来て、興味津々な様子でテトとジャンを押しのけて強引にアリアナの隣を陣取った。
「ねえねえ、アリアナちゃん。料理はもう食べてくれた? どんな料理が好き?」
「好みを聞きに行こうと思ったが、寝ていたから聞けなくてな。口に合う味付けになっているか」
「え、あっ、えーっと…話をしていて、まだ食べてないです」
 正直に答えると、双子はそれぞれ両脇に座っていた二人を睨んだ。
「ちょっと、はしゃいでないでちゃんと食べさせてよね~」
「会話も大切だろうが」
「そうですよ~! 親睦を深めるにはおしゃべりが一番!」
「食べていないなら、俺達が一つずつ説明をしながら食べさせてやる。まずこの料理だが…」
 ティタが二人を無視して手前の料理から一つずつ説明をし始め、ティオンが断るのをはばかられるような笑顔でアリアナに餌付けしていく。完全に二人のペースに持っていかれたジャンとテトはそろって口をとがらせるが、こうなった双子の間に無理やり入る事は自殺行為に等しいため、大人しく食事に専念するのが賢い付き合い方だった。
 そして半分ほど料理を食べさせてもらっていたアリアナだが、そもそもそこまで大食いではない上に、きつめのドレスを着用しているためそろそろお腹の限界が来ていた。
「それでこの料理は俺達の故郷の料理で、自信作だ。生地の上にハム、トマト、チーズ、ゆで卵を乗せて半月型に包んで焼いた料理なんだ。今日は宴だからな。贅沢に三種類くらいチーズを入れた」
「はい、あーん♡」
「あ、あの…ごめんなさい。そろそろお腹一杯になってきてしまって…これ以上食べられないです。どれも素敵で、おいしい料理でした」
 アリアナがおずおずと断ると、双子はとても驚いたような表情を浮かべて顔を見合わせた。
「遠慮はしなくていい。今のうちにたらふく食っておかないと、あとで困るぞ」
「そうそう。この船は基本的に朝と夕の二食で、食糧が減ったら朝の一食のみになるからね。だから、たくさん食べられるときに食べないと死んじゃうよ」
「でも…」
「とりあえず、俺達の自信作だけは食べてって♡」
 ティオンはそう言うや笑顔で言葉を発するために開けたアリアナの口の中に無理やり料理を押し込んだ。
「むぐっ⁉」
 突然入ってきた料理にむせそうになりつつも、口の中に広がるトマトとチーズ、そしてハムの味が絶妙にマッチした美味しさに、目を大きく見開いたあと、へにゃ~と笑顔になった。
「とても美味しいです。どの料理もおいしいけど、これが一番好きです」
「その表情からも伝わってきた。俺達も気に入ってくれて嬉しい」
「いい顔~、可愛いね」
 双子もアリアナの幸せそうな笑顔を見て釣られるように笑顔になると、これ以上は無理に食べさせようとせずにあっさりとその場から去っていった。
「ったく、ようやく向こうに行ったか」
「アリアナちゃん、大丈夫だった? 二人は料理のことになると熱くなって、興味なくても語ってくるから迷惑だよね~」
「そうですか? 私はいろいろな国の料理の話を聞けて楽しかったですけど」
「それよりよ、もう食わないなら酌をしてくれねぇか? 俺はまだ満足してねぇんだ」
 ずいっとさかずきを差し出すジャンに、アリアナはハッと近くに置いてあった酒瓶を手に取って空の杯に並々と酒を注いだ。
「おっ、良いね良いね~」
「あ、じゃあ僕も注いでくれると嬉しいな~」
 人懐っこい笑顔で杯を差し出すテトに、アリアナは笑顔で「はーい」とテトの杯に酒を注ぐ。するとそれを偶然見ていたロゼが「ちょっと~」と声を上げる。
「あなた達だけズルいわよ~! アリアナ、私にもお酒ちょうだーい」
 大きなクッションに横たわるようにして飲み食いしているロゼの姿は女性のアリアナから見てもセクシーで、思わずゴクリと生唾を飲んでしまうほどだった。
「はーい、今行きます!」
 パタパタと小走りでロゼの所に行くと、皆よりもひときわ豪華な杯に並々と酒を注ぐ。
「一生懸命走ってくる様子、可愛かったわ。でも、この白衣は無粋ね。せっかくのドレスが全部隠れちゃってるわ」
 咎めるようにデュオを見るロゼに、デュオはしれっと「冷えは女性の大敵ですよ」と言葉を返す。
「じゃあ、あとで誰かに体を温めてもらうと良いわ。私もネオに温めてもらうもの」
 そう言うやロゼはアリアナが着ていた白衣を脱がせて適当に丸め、デュオに投げ渡した。白衣を脱ぐと夜風がダイレクトに肩に吹きつけるため、温まっていた体は一気に冷えてブルッと身震いした。
「とりあえず、お酒を飲みなさい。温まるわよ」
 ロゼはそう言って今しがた注がれた酒をアリアナに飲ませ、アリアナは想像以上に強い酒にクラッとしつつ、体の内側から温まるのを感じた。
「温まったかしら? じゃあ、皆にお酒を注いできて。で、今夜一緒に寝たい男を選んでくるのよ。今アリアナは、まだ部屋を持っていないから誰かと一緒の部屋になる他ないのよ。あ、ちなみに私はダメよ。今夜、ネオと楽しむから♡ ね、ネオ」
「ん、そうだな。まあ、どうしても見つからなかったら俺の部屋を貸してやるから、とりあえず気軽にみんなと交流してくると良いさ」
 抱きついてきたロゼを受け止めつつ、ロゼの言葉を聞いて緊張を隠せないアリアナを安心させるように笑顔でネオはそう言った。その言葉にアリアナはホッとしつつ、飲んでしまった分をロゼの杯に注ぎ直し、隣にいるネオにも感謝の気持ちを込めながら酒を注いだ。
「ネオさん、どうぞ」
「おう、ありがとな」
「アリアナ。宿探し、頑張ってね~」
 にこにこと笑いながら酒をあおるロゼに見送られ、アリアナは料理を堪能しているクルーたちにお酌をしに行った。

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