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 ナティアの言葉にアリアナは思わず息を呑んだ。このままナティアを信じて開放するべきか、それともチャンスを諦めてロゼたちにナティアを任せるか、アリアナは一瞬の間にありとあらゆる可能性を考えて目を閉じると、苦渋の決断をして首を横に振った。
「…できません。もう、居場所を失いたくないんです。両親の無実の罪は確かに晴らしてほしいけど、私、それ以上にこの居場所を失うのが嫌なんです。だから、できません」
 ごめんなさい、と頭を下げるアリアナに、ナティアは「そうか」と声のトーンを下げて先ほどの親しみやすい雰囲気から軍人へと雰囲気がガラリと変わり、これ以上何も言うつもりはないと言わんばかりに口を閉ざした。
 これで無実であることを確認するチャンスは失った。そう思うと胸が締め付けられるほど辛く、今にも未練がましくナティアにすり寄ってもう一度チャンスをくれと言いたくなるほどだった。苦しい胸をギュッと握りしめて椅子に座り直すと、両親への罪悪感がどろどろとあふれ出して涙がとめどなく流れ、アリアナは嗚咽をこらえて静かに涙を流した。
 ごめんなさい。アリアナは小さな声でそう何度も懺悔する。
「……そこまでして、なぜロゼのために尽くす。お前は、入りたくてこの海賊船に乗ったわけではないだろう。俺を開放して、俺に保護される選択肢もあると思うが」
 口を閉ざしていたナティアがシクシクと涙を流すアリアナに耐えかねて声をかけると、アリアナが口を開く前に部屋のドアが開いた。
「アリアナ、見張りをしていてくれてありがとう。…って、なんで泣いてるの⁉ もしかして、ナティアにいじめられた? ネオ、なんで猿ぐつわもしなかったのよ。あぁ、可哀想なアリアナ」
「猿ぐつわは必要ないと思ったが、しておくべきだったか」
 目を赤く腫らせて涙を流すアリアナを優しく抱きしめ、よしよしと背中を撫でるロゼとそんな二人とナティアの間に入ってナティアを見下ろすネオに、ナティアは苦笑を漏らす。
「いじめたとは人聞きが悪い。少し話をしただけだ」
「うるせぇよ。捕まってる自覚あるのか? あと、ロゼが泣かせたと言ったらお前はアリアナを泣かせたことになるんだよ」
「ネオは相変わらずロゼの下僕のようだな。アリアナ、また俺と話をしたくなったらいつでも来ていいからな」
「アリアナ、こいつの言葉なんて聞かなくていいわ。さ、こんな部屋さっさと出ましょう。怖かったわね」
 フワッとアリアナを抱き上げてロゼは部屋を出ていき、ネオがナティアの見張りに付いた。部屋を出たロゼは、廊下を進みながら静かな声でアリアナに声をかけた。
「…アリアナ、ナティアに何を言われたの?」
「……えっと…その…私の両親が本当に王家に反逆をしようとしていたのか調べるから、縄を解いてくれ、と…」
「そう。それでも、アリアナは縄を解かずにいてくれたのね。ナティアの縄を解きたかったでしょうに…我慢したのね、偉いわ。そして残酷な選択をさせてごめんね。…でも、私を選んだことを後悔させないわ。だから、安心して私達と一緒にいてね」
 ギュッとアリアナを抱く手に力がこもり、真っすぐに前を見るロゼは怒りをこらえているような真剣な表情をしており、また自分のために怒ってくれているのだと自分の選択が間違っていなかったことを実感した。

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