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痛む体に夢から現実へ引き戻され、きしむ体を起こすアリアナは、少しぼーっとした後昨夜は食堂の床でそのまま寝てしまったことを思い出した。
「あ、アリアナちゃんおはよ~。ごめんね~。本当は部屋に連れて行ってあげたかったんだけど、皆泥酔しちゃって運べなかったんだ。あと少しで朝食が出来上がるから、着替えておいで~」
ティオンが厨房から顔を出して笑顔で挨拶をすると、アリアナも覚醒してあくびを噛み殺した後に「おはようございます」と挨拶を返した。
「こちらこそ、食堂で寝てしまってすみませんでした。ちょっと着替えてきます」
「うんうん、飛び切り可愛くなってきてね~」
ひらひらと手を振るティオンに見送られて食堂を出ると、アリアナは不意にポケットの中にあの部屋の鍵が入っていることを思い出した。デュオの言葉からナティアは大怪我を負っているとのことだが、昨日ナティアに問われた質問に答えていなかった事が気になり、起きていたら答えようと拷問部屋へ足を向けた。
鍵は案の定閉まっており、アリアナは何となくいけない事をしているような気持になりながら鍵を開けると、恐る恐る中をのぞいた。
ドアを開けた瞬間、汗と鉄さびの臭いがムワッとアリアナの鼻腔を突き刺し、その濃厚な臭いにアリアナは思わず顔をしかめた。しかしすぐに血まみれの壁に吊るされてぐったりとしているナティアを見つけて思わず「ひっ」とひきつった悲鳴を上げてしまった。その小さな悲鳴に、ナティアの瞼がぴくっと動いて「うっ」と呻きながらけだるげに開かれた。
「……逃げ遅れた…市民…か。今…助ける…」
まだ意識がもうろうとしている様子で、うつろな瞳でアリアナを見つけると傷だらけの体で動こうとした。それを見たアリアナはたまらずナティアに駆け寄ってナティアの両頬を手で挟むと「しっかりして下さい!」と叫んだ。
「ここは海賊船です。ナティアさんは今捕まっているんですよ」
アリアナの言葉に、ナティアはようやくハッと意識を覚醒させて目の前にいる人物を正確に認識すると、苦笑をした。
「こんな所に何しに来たんだ?」
「昨日、ナティアさんに聞かれたこと…なんでロゼさんに尽くしているのか…を答えに来ました。私は、ロゼさんに尽くしてなんていません。ロゼさんが私に尽くしてくれているんです。私を、愛してくれているんです。確かに最初はちょっと強引な人だなと思いました。でもこの一週間、それ以上に大切にしてくれているんです。だから私は今、自分の意志でこの船に乗っています。自分の意志でこの船に乗っている以上、罪人のレッテルから解放されることはありませんよね。……両親は無実ですが、私はもう海賊の一員なんです」
一歩下がってナティアから離れると、スカートをめくって入れ墨をさらした。それを見たナティアは「そうか」と残念だと言わんばかりにため息を吐いてアリアナを見据えた。
「でもロゼは海軍に宣戦布告しようとしているぞ? 実際に開戦されれば、いくら実力者ぞろいの海賊団とはいえ数に劣る以上負け戦になる確率の方が高い。戦えないお前はみんなのお荷物になるだろうな。しかも、宣戦布告をする理由がお前だ」
「えっ」
ナティアの言葉にアリアナは目を見開いて驚くと、ナティアはさらに言葉を続ける。
「ロゼはお前の両親の無実を晴らすために、俺を人質に使ってケンカを売るんだとよ。よほどお前のことが大切らしいな。でも、危険を冒してまでそんなことをするロゼの愛は重くないか? 俺を開放してくれれば、礼としてお前の両親の事を調べてやる。俺が直接調べれば、ロゼに余計なリスクを負わせなくていいだろう?」
「……調べてくれると、どうやって信じればいいですか」
「そうだな。じゃあ俺の首と弟妹の首もかけてやろう。俺がもし調べなかったら、ロゼにでも頼んでいつでも俺達の首を刎ねに来るといい。ただ、三ヶ月ほどの時間をもらうぞ。すぐには動けないからな」
「……アリアナ、何してるの?」
不意に後ろから声が聞こえ、アリアナはビックリして肩を震わせた後振り返ると、そこには無表情でアリアナを見つめるロゼがいた。美人の無表情ほど怖いものはなく、アリアナはその迫力に思わずたじろいだ。
「答えなさい」
「あ、えっと、その…昨日、ナティアさんに聞かれたこと、答えてなかったから答えてました…。えっと、その、勝手に入ったことは謝ります。でも、私ロゼさんを裏切ろうなんて――」
「今、俺と交渉していたんだよな。ロゼが宣戦布告をするって教えたら怖がってたぞ。だからそれを避けるために交渉をしていたんだよな?」
「っ」
ペラペラと話すナティアに、アリアナは絶望感に包まれて言葉を失い、すがるようにロゼを見つめた。
「言っただろう? 裏切るかもしれないぞって」
「違う…! 私、ロゼさんを裏切ろうなんて考えてない…!」
「アリアナ、黙っていなさい」
ニッと笑いながらロゼを見つめるナティアに、アリアナは必死になって叫ぶも、ロゼは無表情のまま冷たく突き放す。そして、深いため息を吐いた後にナティアを睨みつけた。
「あ、アリアナちゃんおはよ~。ごめんね~。本当は部屋に連れて行ってあげたかったんだけど、皆泥酔しちゃって運べなかったんだ。あと少しで朝食が出来上がるから、着替えておいで~」
ティオンが厨房から顔を出して笑顔で挨拶をすると、アリアナも覚醒してあくびを噛み殺した後に「おはようございます」と挨拶を返した。
「こちらこそ、食堂で寝てしまってすみませんでした。ちょっと着替えてきます」
「うんうん、飛び切り可愛くなってきてね~」
ひらひらと手を振るティオンに見送られて食堂を出ると、アリアナは不意にポケットの中にあの部屋の鍵が入っていることを思い出した。デュオの言葉からナティアは大怪我を負っているとのことだが、昨日ナティアに問われた質問に答えていなかった事が気になり、起きていたら答えようと拷問部屋へ足を向けた。
鍵は案の定閉まっており、アリアナは何となくいけない事をしているような気持になりながら鍵を開けると、恐る恐る中をのぞいた。
ドアを開けた瞬間、汗と鉄さびの臭いがムワッとアリアナの鼻腔を突き刺し、その濃厚な臭いにアリアナは思わず顔をしかめた。しかしすぐに血まみれの壁に吊るされてぐったりとしているナティアを見つけて思わず「ひっ」とひきつった悲鳴を上げてしまった。その小さな悲鳴に、ナティアの瞼がぴくっと動いて「うっ」と呻きながらけだるげに開かれた。
「……逃げ遅れた…市民…か。今…助ける…」
まだ意識がもうろうとしている様子で、うつろな瞳でアリアナを見つけると傷だらけの体で動こうとした。それを見たアリアナはたまらずナティアに駆け寄ってナティアの両頬を手で挟むと「しっかりして下さい!」と叫んだ。
「ここは海賊船です。ナティアさんは今捕まっているんですよ」
アリアナの言葉に、ナティアはようやくハッと意識を覚醒させて目の前にいる人物を正確に認識すると、苦笑をした。
「こんな所に何しに来たんだ?」
「昨日、ナティアさんに聞かれたこと…なんでロゼさんに尽くしているのか…を答えに来ました。私は、ロゼさんに尽くしてなんていません。ロゼさんが私に尽くしてくれているんです。私を、愛してくれているんです。確かに最初はちょっと強引な人だなと思いました。でもこの一週間、それ以上に大切にしてくれているんです。だから私は今、自分の意志でこの船に乗っています。自分の意志でこの船に乗っている以上、罪人のレッテルから解放されることはありませんよね。……両親は無実ですが、私はもう海賊の一員なんです」
一歩下がってナティアから離れると、スカートをめくって入れ墨をさらした。それを見たナティアは「そうか」と残念だと言わんばかりにため息を吐いてアリアナを見据えた。
「でもロゼは海軍に宣戦布告しようとしているぞ? 実際に開戦されれば、いくら実力者ぞろいの海賊団とはいえ数に劣る以上負け戦になる確率の方が高い。戦えないお前はみんなのお荷物になるだろうな。しかも、宣戦布告をする理由がお前だ」
「えっ」
ナティアの言葉にアリアナは目を見開いて驚くと、ナティアはさらに言葉を続ける。
「ロゼはお前の両親の無実を晴らすために、俺を人質に使ってケンカを売るんだとよ。よほどお前のことが大切らしいな。でも、危険を冒してまでそんなことをするロゼの愛は重くないか? 俺を開放してくれれば、礼としてお前の両親の事を調べてやる。俺が直接調べれば、ロゼに余計なリスクを負わせなくていいだろう?」
「……調べてくれると、どうやって信じればいいですか」
「そうだな。じゃあ俺の首と弟妹の首もかけてやろう。俺がもし調べなかったら、ロゼにでも頼んでいつでも俺達の首を刎ねに来るといい。ただ、三ヶ月ほどの時間をもらうぞ。すぐには動けないからな」
「……アリアナ、何してるの?」
不意に後ろから声が聞こえ、アリアナはビックリして肩を震わせた後振り返ると、そこには無表情でアリアナを見つめるロゼがいた。美人の無表情ほど怖いものはなく、アリアナはその迫力に思わずたじろいだ。
「答えなさい」
「あ、えっと、その…昨日、ナティアさんに聞かれたこと、答えてなかったから答えてました…。えっと、その、勝手に入ったことは謝ります。でも、私ロゼさんを裏切ろうなんて――」
「今、俺と交渉していたんだよな。ロゼが宣戦布告をするって教えたら怖がってたぞ。だからそれを避けるために交渉をしていたんだよな?」
「っ」
ペラペラと話すナティアに、アリアナは絶望感に包まれて言葉を失い、すがるようにロゼを見つめた。
「言っただろう? 裏切るかもしれないぞって」
「違う…! 私、ロゼさんを裏切ろうなんて考えてない…!」
「アリアナ、黙っていなさい」
ニッと笑いながらロゼを見つめるナティアに、アリアナは必死になって叫ぶも、ロゼは無表情のまま冷たく突き放す。そして、深いため息を吐いた後にナティアを睨みつけた。
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