転生少女は海賊の愛を得る

Ariasa(ありあーさ)

文字の大きさ
58 / 74

55

しおりを挟む
 翌朝、ナティアがどのような結論を出すのか気になりすぎてよく寝付けなかったアリアナは、朝一番に再び拷問部屋を訪れた。
 おずおずと鍵を開けて中に入ると、相変わらず強い血の臭いがアリアナを迎えて吐き気に悩まされる。しかし昨日同様、吐くことは堪えて吊るされているナティアの所まで行くと小さな声で「おはようございます」と声をかけた。
「……ん、あぁ、朝か…」
「はい。昨日の答えが気になって、来ました」
「……あぁ、お前の下僕になるかどうかの話か」
 まどろみの中にいるのか、はたまた意識を保つことで精いっぱいなのか、目の焦点が合わないまま呟くと、しばらく沈黙してから大きく呼吸をして再び言葉を紡ぎ始めた。
「……ウトウトとしている中で、夢を見た。昔の夢だ。……その夢は、幸せな子供の頃の夢だった。可愛く愛しい弟妹は俺の大切な宝……。弟妹を守るために、約束をした……。だから…弟妹のために生きよう。俺はここで死ぬわけにいかない。海賊王ロゼをこの手で捕えるため、今はどんな屈辱にも耐えてやろう。だから、今だけはお前の…いや、アリアナ嬢のしもべになりましょう」
 口調こそ丁寧だが、衰弱している中でも虎視眈々とロゼの首を狙う事を隠さないナティアに対し、アリアナは意外とあっさり承諾したナティアに拍子抜けしてポカンと口を開けたままナティアを見つめた。しかしじわじわとナティアの命を救うことが出来た事を実感し、嬉しさに思わず表情が緩むと喜びのまま「やったー!」と両手を上げて飛び跳ね、走ってロゼの部屋へ直行した。
「ロゼさん!」
 ノックも忘れてロゼの部屋のドアを開けると、デュオと抱き合って眠っていたロゼが駄々洩れの色気と情事後の甘い空気をそのままに、のっそりと上半身だけを起こして「何?」と不機嫌そうな声で返した。その色気に当てられたアリアナは一気に勢いを失い、うろたえて口ごもった。
「あっ、えっと…ごめんなさい。その…あとでにします」
「いいわよ。そんな嬉しそうな顔をして、何を私に伝えたかったの?」
「私も気になりますね。良い知らせなのでしょう? 私にも聞かせてください」
 ベッドサイドに置いてある眼鏡を掛け、暴力的な色気を振りまきながらアリアナを見るデュオの姿はアリアナの心臓に悪く、何もされていないにもかかわらず赤面してしまう。それを見てデュオが面白そうに「可愛い人ですね」と笑った。
「うぅ…その……ナティアさんが私の下僕になってくれると言ってくれたんです。だから、嬉しくて…思わずロゼさんの所に来ちゃいました」
「まあ、あのナティアが? 案外あっさりと屈服したわね。……ふふふっ、あははははっ! あぁ、気分がいいわ。海軍将校が海賊に屈服する。あいつの名誉も地位も、何もかも奪えた。あぁ、本当によくやってくれたわ、アリアナ。ありがとう」
 衣服を身にまとわないまま心から嬉しそうに笑ってアリアナのもとへ行き、優しく抱き締めるロゼに、アリアナは目の前にあるロゼの柔らかい胸にあわあわしながらも、アリアナもおずおずとロゼを抱き締め返した。
「ふふ、こんなに嬉しそうなロゼは久し振りに見ました。ぜひ私も仲間に入れてください」
 デュオも嬉しそうなロゼを見て自分の事のように喜びながら、一応腰にタオルを巻いた姿でロゼとアリアナを一緒に抱き締めた。
「何よデュオ。嫉妬?」
「いいえ、ロゼの嬉しそうな顔を見られて私も嬉しいだけですよ。でも、今は私との時間ですからね。ほったらかしにされたら私も悲しいです」
「そうね、デュオとの時間はまだ終わってないものね。アリアナ、ごめんね。ナティアは私が行くまであのままにしておいて。欺く言葉だった場合、アリアナが危険だから私があいつの拘束を解くわ。さ、良い子は二度寝の時間よ。部屋に戻ってもうひと眠りしなさい」
「おやすみのキスは必要ですか?」
「い、いえ! いらないです!」
 デュオの言葉にアリアナはロゼから離れたあとブンブンと首を振りながら遠慮すると、デュオは面白そうに笑いながら「残念」と言ってロゼの腰を抱いてベッドの方へ促した。それを見たアリアナはすぐに「お邪魔しました!」と言ってロゼの部屋を出て行き、言いつけ通りに自分の部屋へ戻ってゆっくりと忍び寄る睡魔にまどろみながら身をゆだねたのだった。
 二度寝から起きた時、太陽はすでに高く昇っていた。その事に気付いたアリアナは、慌てて身なりを整えて走って食堂へ行くと食堂のドアを開けた。しかし食堂には誰もおらず、アリアナがいつも座る席に【アリアナちゃんの分だよ】とメモ書きがあり、パンと簡単なおかずが用意されていた。その気遣いと優しさを嬉しく思いながら食事をし、とりあえず誰かが居るはずの甲板へ向かった。
 甲板にはジャンとティタがおり、その珍しい組み合わせに少し驚きながらアリアナが二人に近づくと、二人はすぐにアリアナに気付いて笑顔を向けた。
「おう、おはよう。お寝坊さん」
「おはよう。朝ごはん、分かった?」
「おはようございます。寝坊してすみませんでした。朝ごはんありがとうございます。今日のご飯も美味しかったです」
「良かった。ティオンも喜ぶよ」
 アリアナの感想を聞いたティタは嬉しそうに笑いながらそう言うと、それを隣で聞いていたジャンが続いてアリアナに言葉を掛けた。
「アリアナが飯を食べている時の顔は本当に幸せそうだもんな。見ている俺も幸せになる。っと、そうそう。ロゼからアリアナを見かけたら言うよう言われてたんだった。今日のアリアナの仕事は、繋がれている海兵野郎の世話だと。ロゼがあの部屋で待ってるってよ」
「ロゼさんが待っててくれているんですか? じゃあ早く行かなきゃ! ジャンさん、ありがとうございます!」
 ジャンの言葉を聞いてアリアナはすぐに拷問部屋の方へ体を向け、走りながら振り返ってジャンに礼を言うアリアナに、ジャンは笑いながら「転ぶなよ」と声をかけてアリアナを見送った。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

猫なので、もう働きません。

具なっしー
恋愛
不老不死が実現した日本。600歳まで社畜として働き続けた私、佐々木ひまり。 やっと安楽死できると思ったら――普通に苦しいし、目が覚めたら猫になっていた!? しかもここは女性が極端に少ない世界。 イケオジ貴族に拾われ、猫幼女として溺愛される日々が始まる。 「もう頑張らない」って決めたのに、また頑張っちゃう私……。 これは、社畜上がりの猫幼女が“だらだらしながら溺愛される”物語。 ※表紙はAI画像です

甘い匂いの人間は、極上獰猛な獣たちに奪われる 〜居場所を求めた少女の転移譚〜

具なっしー
恋愛
「誰かを、全力で愛してみたい」 居場所のない、17歳の少女・鳴宮 桃(なるみや もも)。 幼い頃に両親を亡くし、叔父の家で家政婦のような日々を送る彼女は、誰にも言えない孤独を抱えていた。そんな桃が、願いをかけた神社の光に包まれ目覚めたのは、獣人たちが支配する異世界。 そこは、男女比50:1という極端な世界。女性は複数の夫に囲われて贅沢を享受するのが常識だった。 しかし、桃は異世界の女性が持つ傲慢さとは無縁で、控えめなまま。 そして彼女の身体から放たれる**"甘いフェロモン"は、野生の獣人たちにとって極上の獲物**でしかない。 盗賊に囚われかけたところを、美形で無口なホワイトタイガー獣人・ベンに救われた桃。孤独だった少女は、その純粋さゆえに、強く、一途で、そして獰猛な獣人たちに囲われていく――。 ※表紙はAIです

女の子がほとんど産まれない国に転生しました。

さくらもち
恋愛
何番煎じかのお話です。 100人に3~5人しか産まれない女の子は大切にされ一妻多夫制の国に産まれたのは前世の記憶、日本で亭主関白の旦那に嫁いびりと男尊女卑な家に嫁いで挙句栄養失調と過労死と言う令和になってもまだ昭和な家庭!でありえない最後を迎えてしまった清水 理央、享年44歳 そんな彼女を不憫に思った女神が自身の世界の女性至上主義な国に転生させたお話。 当面は2日に1話更新予定!

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

私が騎士団の司令官ってなんですか!? ~聖女じゃなかった私は得意の料理で騎士たちの心を掴んだら食堂の聖女様と呼ばれていました~

あんねーむど
恋愛
 栄養士が騎士団の司令官――!?  元社員食堂の職員・白城千鳥は、ある日突然「聖女」として異世界アルゼリオン王国に召喚される。  しかし期待された聖女の力はまったく発現されず、判明したのは彼女がただの一般人だという事実。  役立たずとして放逐されるかと思いきや、千鳥は王宮食堂で料理人として働くことに。慣れない異世界生活の中でも、栄養管理や献立作りを通して騎士たちの体調を支え、静かに居場所を築いていく。  そんなある日、問題児ばかりを集めた新設部隊アルゼリオン王国騎士団戦術騎士隊【アルタイル】 が発足。なぜか千鳥が司令官に任命されてしまう。  戦えない、魔法も使えない、指揮の経験もない。  困惑する千鳥を待っていたのは、王子である身分を隠している隊長のエドガー、年下で聡明だが一途すぎるノエル、俺様で口の悪い元衛士隊のクラウディオ、外見に反してサディスティックでマッドサイエンティストのフェルナンド、癖も事情も抱えたイケメン騎士たちだった。  最初は反発され、軽んじられ、失敗も重ねる千鳥。それでも彼女は騎士一人ひとりと向き合い、少しずつ信頼を勝ち取っていく。  聖女でも悪役令嬢でもない。戦場に立つことすらできない彼女は、やがて隊員たちを導く司令官として成長していく。    ★にキャラクターイメージ画像アリ〼  ※料理モノの物語ではありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

婚活に疲れたアラサーOLの私、癒やし的存在の弟分(高校生)に「もう待てない」と外堀を埋められています ~10年分の執着は、甘すぎて重すぎる~

ダルい
恋愛
「29歳? 子供産むならもっと若い子がよかったな」  中堅企業で働く早川結衣(29)は、婚活市場における年齢の壁と、デリカシーのない男たちにすり減らされる日々を送っていた。  そんな結衣の唯一の癒やしは、マンションの隣に住む幼馴染の高校生・瀬戸湊(16)。  両親が共働きの彼に代わって、幼い頃はお世話をしてあげていた……はずが、いつの間にか立場は逆転。 手料理を振る舞われ、愚痴を聞かれ、マッサージまでされる始末。「湊がお嫁さんならいいのに」なんて冗談を言っていたけれど。 「今の結衣姉が一番綺麗だよ。……早く、誰も手出しできない『おばさん』になってくれればいいのに」  可愛い弟分だと思っていた彼が、時折見せる『オス』の顔。 16歳の高校生と、もうすぐ30歳のアラサー。  13歳差の常識と理性に抗いながら、生意気な年下男子に外堀を埋められていく、甘くて重い現状維持(ラブストーリー)。 「俺が大人になるまで、誰とも結婚しないで」 癒やされたいすべての女性に贈る、最強の年下幼馴染による溺愛包囲網、開始。

処理中です...