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第六 熱帯雨林の住人達
お城作りの名人
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「タケル、付いてきて」
そう言うと、チッチはお城とお城の間を縫うように歩いて行く。結構な早足。
僕はチッチを見失わないように、必死で後を追った。
それにしても、どうしてこんな森の奥深くにお城があるんだろう。しかも、こんなにたくさん。
そこにあるお城のひとつひとつは決して大きくはなかったが、それらは確かにお城の形をしており、ちゃんと、中に人も住めそうだった。
しかし、実際には人の住んでいる気配はまったく感じられない。
どうやら、人が住む目的で作られたわけではなさそうだ。
柱や壁をよく見ると、塗装にムラがある。プロの職人ではなく、素人が手作りで作った感じ。
しばらく進むと、先のほうから、ガリガリとなにかを削るような音が聞こえてきた。
チッチは速度を緩めることなく、音がするほうに向かって歩いて行く。
歩くに連れて、ガリガリという音はどんどん大きくなり、そして遂に、僕達は音の発信源に辿り着いた。
なんと、そこにいたのは、僕と同じくらいの歳の男の子。ガリガリという音の正体は、その男の子がお城の柱をヤスリで削る音だったのだ。
「こんばんは、アルテラ。今日もお城作りを頑張っているわね」
チッチが言うと、アルテラと呼ばれた男の子は作業をしていた手を休めて、振り返った。
「なんだ、チッチか。また夜中にこっそり抜け出して来たのかい」そう言いながら、ちらっと僕のほうを見る。
「この子はタケルっていうの。あなたと同じように、レイリアの外からやって来たんですって」
チッチが僕を紹介すると、
「僕の名前はアルテラ。五十年前にヨーロッパの国からこのレイリアに来たんだ。それからずっと、毎日、ここでお城を作ってる」
アルテラは言った。
五十年前? それが本当だとすると、アルテラは立派なおじさん、いや、おじいさんのはずだ。僕は目の前でヤスリを握り締めているどう見ても自分と同じくらいの年齢にしか見えない男の子を見ながら、首を傾げた。
アルテラは僕の疑問を察したらしく、
「この森の中ではね、毎日好きなことをしていると、歳をとらないみたいなんだ。歳をとらないどころか、どんどん若返って、今ではご覧の通り、子供の姿になっちゃったんだよ」そう言って笑った。
アルテラはヨーロッパのとある国で生まれた。家の近くには、中世に建てられた立派なお城があり、そのお城を見ながら育ったアルテラは、小さな頃からお城に住むことに憧れていた。もともと手先が器用だったアルテラは、大人になると時計屋さんで働き始め、そこで時計職人になった。しかし、時計職人の給料はあまりに安く、これではいつまで経ってもお城を買えそうにない。焦ったアルテラは、もっと給料の高い仕事に転職しようと思い、ある時、偶然見付けた求人広告を見て、広告に書かれていた住所に履歴書を送った。すると数日後、レイリア行きの列車のチケットが自宅に送られてきたそうだ。あとは僕と同じ。地元の駅から列車に乗ったはずが、気が付くとレイリア西部鉄道に乗っていた。その後はいろいろあったらしいが、最終的に終着駅の『バレイロ』まで来ると、しばらくの間、そこで鉱山労働者として働いていたという。そして、ある日、あの岩山に掘られた不気味なトンネルを抜けてこの森までやって来た。その後はお城を作る毎日。
「この森の土は、お城を作るのに適しているんだ。粘り気があって、うまい具合に水と調合すれば、頑丈な城壁が作れる」
僕は改めて周りを見回した。
そこらじゅうに、アルテラが作った手作りのお城がある。中には古いものもあり、それらのお城の壁や柱には、苔や草などの植物が生えていた。植物で緑色に装飾されたお城を、月明かりが照らす。その姿は実に神秘的で、とても現実のものとは思えない。まるで、おとぎ話の中の風景。
「ここにあるお城、本当にすべてアルテラが作ったの?」
僕は念を押すように聞いた。
「そうさ、すべて僕が作ったお城さ。すごいだろ。レイリアには高い給料を求めてやって来た。たくさん稼いでお金を貯めて、いつかはお城を買うつもりでいた。お城に住むのが、僕の小さな頃からの夢だったからね。でもさ、実際にレイリアに来てみたら、高い給料を貰える都合のいい仕事なんてなかった。そして最後にこの森に辿り着いた時、僕は気付いたんだ。お城を買えないのならば、自分で作ればいいってね。実に簡単なことさ。おかげで、今ではこんなにたくさんのお城に囲まれて、幸せな毎日を送っている」
その時だった。
グォーッ、グォーッ、グォーッ。
どこからか、動物の唸り声のような低い音が聞こえてきた。
僕とチッチとアルテラの三人は、音のする方向に揃って顔を向けた。
「帰ってたの? ファンメル師匠」
チッチが言うと、
「うん、二日前に」
アルテラが頷いた。
「ファンメル師匠って誰?」
僕が首を傾げると、
「魔法使いだよ」
アルテラはさらりと言った。
「ま、魔法使いって……。な、なに言ってるのさ。そんなものいるわけない……」
「タケルのほうこそ、なに言ってるのよ。ジニー酋長も言ってたでしょ。神のごとき偉大な魔法使いがいるって」
「確かに言ってたけど……、あれは昔からの伝説かなにかだと思ってたんだけど……」
「伝説は伝説でも本当の話。ファンメル師匠は、昔も今もこの森の守り神よ」
グォーッ、グォーッ、グォーッ。
「それにしても、相変わらずうるさいわね。ファンメル師匠のイビキは」
「イビキ?」
あまりに驚いて、僕は思わず大きな声を出してしまった。この動物の唸り声にしか聞こえない大きな音が、ただのイビキだなんて。
「僕がこんな夜中に起きて城作りをしているのは、これが理由なんだ」
アルテラは頭を掻いた。「ファンメル師匠が寝ている時はイビキがうるさ過ぎて、とてもじゃないけど、こっちは一睡もできないからね」
「まったく、迷惑な話よね」
チッチが言うと、まるでこちらの話を盗み聞きしたかのように、ファンメル師匠のイビキはピタッと止んだ。
「師匠が起きたかもしれない。せっかくだから、タケルに師匠を紹介するよ」
そう言うと、チッチはお城とお城の間を縫うように歩いて行く。結構な早足。
僕はチッチを見失わないように、必死で後を追った。
それにしても、どうしてこんな森の奥深くにお城があるんだろう。しかも、こんなにたくさん。
そこにあるお城のひとつひとつは決して大きくはなかったが、それらは確かにお城の形をしており、ちゃんと、中に人も住めそうだった。
しかし、実際には人の住んでいる気配はまったく感じられない。
どうやら、人が住む目的で作られたわけではなさそうだ。
柱や壁をよく見ると、塗装にムラがある。プロの職人ではなく、素人が手作りで作った感じ。
しばらく進むと、先のほうから、ガリガリとなにかを削るような音が聞こえてきた。
チッチは速度を緩めることなく、音がするほうに向かって歩いて行く。
歩くに連れて、ガリガリという音はどんどん大きくなり、そして遂に、僕達は音の発信源に辿り着いた。
なんと、そこにいたのは、僕と同じくらいの歳の男の子。ガリガリという音の正体は、その男の子がお城の柱をヤスリで削る音だったのだ。
「こんばんは、アルテラ。今日もお城作りを頑張っているわね」
チッチが言うと、アルテラと呼ばれた男の子は作業をしていた手を休めて、振り返った。
「なんだ、チッチか。また夜中にこっそり抜け出して来たのかい」そう言いながら、ちらっと僕のほうを見る。
「この子はタケルっていうの。あなたと同じように、レイリアの外からやって来たんですって」
チッチが僕を紹介すると、
「僕の名前はアルテラ。五十年前にヨーロッパの国からこのレイリアに来たんだ。それからずっと、毎日、ここでお城を作ってる」
アルテラは言った。
五十年前? それが本当だとすると、アルテラは立派なおじさん、いや、おじいさんのはずだ。僕は目の前でヤスリを握り締めているどう見ても自分と同じくらいの年齢にしか見えない男の子を見ながら、首を傾げた。
アルテラは僕の疑問を察したらしく、
「この森の中ではね、毎日好きなことをしていると、歳をとらないみたいなんだ。歳をとらないどころか、どんどん若返って、今ではご覧の通り、子供の姿になっちゃったんだよ」そう言って笑った。
アルテラはヨーロッパのとある国で生まれた。家の近くには、中世に建てられた立派なお城があり、そのお城を見ながら育ったアルテラは、小さな頃からお城に住むことに憧れていた。もともと手先が器用だったアルテラは、大人になると時計屋さんで働き始め、そこで時計職人になった。しかし、時計職人の給料はあまりに安く、これではいつまで経ってもお城を買えそうにない。焦ったアルテラは、もっと給料の高い仕事に転職しようと思い、ある時、偶然見付けた求人広告を見て、広告に書かれていた住所に履歴書を送った。すると数日後、レイリア行きの列車のチケットが自宅に送られてきたそうだ。あとは僕と同じ。地元の駅から列車に乗ったはずが、気が付くとレイリア西部鉄道に乗っていた。その後はいろいろあったらしいが、最終的に終着駅の『バレイロ』まで来ると、しばらくの間、そこで鉱山労働者として働いていたという。そして、ある日、あの岩山に掘られた不気味なトンネルを抜けてこの森までやって来た。その後はお城を作る毎日。
「この森の土は、お城を作るのに適しているんだ。粘り気があって、うまい具合に水と調合すれば、頑丈な城壁が作れる」
僕は改めて周りを見回した。
そこらじゅうに、アルテラが作った手作りのお城がある。中には古いものもあり、それらのお城の壁や柱には、苔や草などの植物が生えていた。植物で緑色に装飾されたお城を、月明かりが照らす。その姿は実に神秘的で、とても現実のものとは思えない。まるで、おとぎ話の中の風景。
「ここにあるお城、本当にすべてアルテラが作ったの?」
僕は念を押すように聞いた。
「そうさ、すべて僕が作ったお城さ。すごいだろ。レイリアには高い給料を求めてやって来た。たくさん稼いでお金を貯めて、いつかはお城を買うつもりでいた。お城に住むのが、僕の小さな頃からの夢だったからね。でもさ、実際にレイリアに来てみたら、高い給料を貰える都合のいい仕事なんてなかった。そして最後にこの森に辿り着いた時、僕は気付いたんだ。お城を買えないのならば、自分で作ればいいってね。実に簡単なことさ。おかげで、今ではこんなにたくさんのお城に囲まれて、幸せな毎日を送っている」
その時だった。
グォーッ、グォーッ、グォーッ。
どこからか、動物の唸り声のような低い音が聞こえてきた。
僕とチッチとアルテラの三人は、音のする方向に揃って顔を向けた。
「帰ってたの? ファンメル師匠」
チッチが言うと、
「うん、二日前に」
アルテラが頷いた。
「ファンメル師匠って誰?」
僕が首を傾げると、
「魔法使いだよ」
アルテラはさらりと言った。
「ま、魔法使いって……。な、なに言ってるのさ。そんなものいるわけない……」
「タケルのほうこそ、なに言ってるのよ。ジニー酋長も言ってたでしょ。神のごとき偉大な魔法使いがいるって」
「確かに言ってたけど……、あれは昔からの伝説かなにかだと思ってたんだけど……」
「伝説は伝説でも本当の話。ファンメル師匠は、昔も今もこの森の守り神よ」
グォーッ、グォーッ、グォーッ。
「それにしても、相変わらずうるさいわね。ファンメル師匠のイビキは」
「イビキ?」
あまりに驚いて、僕は思わず大きな声を出してしまった。この動物の唸り声にしか聞こえない大きな音が、ただのイビキだなんて。
「僕がこんな夜中に起きて城作りをしているのは、これが理由なんだ」
アルテラは頭を掻いた。「ファンメル師匠が寝ている時はイビキがうるさ過ぎて、とてもじゃないけど、こっちは一睡もできないからね」
「まったく、迷惑な話よね」
チッチが言うと、まるでこちらの話を盗み聞きしたかのように、ファンメル師匠のイビキはピタッと止んだ。
「師匠が起きたかもしれない。せっかくだから、タケルに師匠を紹介するよ」
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