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第1章 本章

第17話 作戦開始・前編

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 目覚ましが鳴り、私は起床する。作戦決行日だ。準備をして私たち3人は現地まで向かう。

 指定された場所に集合し、他の異世界人や、森繁さんとも顔を合わせる。

 これから突入する敵のアジト。それは意外というか、普通の貸ビルにしか見えない場所だ。怪しげな雰囲気もない。だからこそ、今まで雲隠れできていたのかもしれない。

 警察関係者と思われる人も加わり、作戦開始までに再度、細かい打ち合わせをする。表口班と、裏口班に分かれ、同時に内部へと突入する。警察関係者の人は事後処理が主な役目のため、最後まで出番はない。
 
 村瀬さんは、陣頭指揮を執るため、森繁さんと共に正面から突入する。
 私とマリの二人は、他の異世界人数名と共に裏口の外で待機する事になった。
 外に逃げてきた敵を捕まえる役目だ。

 新しく支給されたマリの専用装備は、ボーラと呼ばれる武器。
 ロープの先端に石等を取り付けた投擲武器で、主に捕獲用に使われる。
 物体操作の能力が使えるマリとは相性の良い武器となっている。
 私はマリのサポート役として、傍で行動する。

 まだ肌寒い、朝日が昇ろうとする時間である。澄んだ空気の中、その時を待つ。
 すぐに始まるはずなのに1秒が長く感じる。私は今か今かと待っている。
 裏口から突入する部隊の人たちの顔にも緊張が走る。その雰囲気は私にまで伝わってくる。

 ついちょっと前まで、普通の一般人だった私。まさか、このような事をすることになるとは、普通にサラリーマンの仕事をしていた頃の私なら考えられなかっただろう。
 村瀬さんと出会い、彼女の使命と関わりを持つようになってから、戦いに巻き込まれることもあった。
 でもそれは私が望んだ結果でもある。今、ここに私がいる事は、彼女の使命から私の使命に変化しているのかもしれない。

 ――時は来た。作戦開始と共に、部隊が突入していく。

 表玄関のほうはこちらからは確認できないが、同時に突入しているはずだ。

 私とマリは、裏口の外で待機をしている。

 大きい音は聞こえないが、建物の中から争う音が外まで振動で伝わってくる。

 無事に上手くいくことを願い、私はただ只管ひたすらに待つ。
 恐らくは戦闘に入る間もなく、敵側は拿捕だほされていくはずだ。

 裏口に焦点を当てて観察していると、中から外へ走り込んでくる人影が2人。

 向こうも当然のごとくこちらに気づき、走りながら手のひらをこちらに向け、何かを発射するかのように攻撃をしてくる態勢を取っている。

 しかし、相手二人が裏口から出てきた時点で、もう、避けようがないなのである。

 敵の死角から、物陰に潜ませた捕獲用のボーラを、マリは物体操作の能力で射出させる。

 ボーラは二人の足元に絡み、一瞬で行動不能にさせる。気づいたときには手遅れである。

 さらに両手、口、体ごと縛られていく捕獲までの流れは、芸術的とも言える。

 私は、身動きすら取れず地面に倒れ伏す敵の二人から異物を回収し、
 <<膂力のカルマ>>で担ぎながら見えない物陰に連れていく。

 異物と同調しているうちは奪ったところで安心はできないが、それについては対策がある。
 すぐ傍で待機していた異世界人に異物を渡して、その場で転移魔法で異物を転送してしまうのだ。

 すべすら失った犯罪者たちは、その目から闘争の色がせていく。

 私たちは、再び裏口の前に立ち、陣形を整えなおす。

 また一人、走ってくる人影。やはりこちらに気づき攻撃をしかけようとしてくるが、
 それでも相手が優位に立つことはない。

 逃げ出そうとする敵の心理は――。
 目の前に立つ相手(マリ)に意識が行ってしまうのである。
 意識がマリに集中した時点で、逃げる事を第一とした結果の反射行動は必ず攻撃の態勢を取る。

 死角から飛んでくる捕獲用の罠に、思考を張り巡らせる余裕すら与えない。

 足元にボーラが絡みつき、気づいたときにはもうお終いだ。

 地面に倒れ、何かを叫ぼうとしているが、口まで塞がっているボーラのおかげで喋る事すら封じている。

 私は異物を回収し、物陰に連れていき、その場の安全を確保してから異世界人の人に渡していく。

 その流れるように無駄のない連携は、私たちに安定感を与えている。

 このまま無事に終わるのか? ――そう思った瞬間、上層階から窓が割れる音がする。
 私たちは落ちてくるガラスの破片に注意しながら、真上を見上げた。

 人が、空を飛んでいる。落ちているわけでは無い。文字通り自由自在に空を飛び、一直線にその場から離れていく。人影が3つあった。

 あれが魔法使いなのか? 後を追う様に森繁さんと思われる人も窓から飛び出し、飛行しながら追いかけていく。

 裏口から、内部に突入した部隊の人たちが出てきた。状況はどうなったか聞いてみると、建物の中はもう無事に終わったらしい。
 主犯格となる魔法使いとその側近二人だけが、窓から逃げ出してしまったと教えてもらった。
 村瀬さんは現場の指揮を執るため、動くことはできないそうだ。
 部隊の人たちは飛ぶことは出来ないが、これから追撃をすると言っていた。

 そのことを聞いたマリが、次の行動を私に提案してきた。

《中島さん。私は自身の能力を応用して、飛ぶこともできます。これから逃げた敵を追いかけますが、中島さんはどうしますか?》

 答えは決まっている。

「マリ。僕たちも追いかけよう」
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