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番外編「早すぎる倦怠期?」1
【秀一視点です】
十二月三十一日。大晦日。
「パパ! おもちゃのおかたづけできたよ!」
五歳の息子、純が腰に手を当てながら、顎を上げて誇らしげな顔を見せる。この時、オレ達は新しい年を迎えるべく、家の中の大掃除に励んでいた。
とはいえ、まだまだ幼い純にできることは限られている。純には主に、自分の部屋の片付けと雑巾がけというミッションを与えた。それでたった今、片付けの方が終わり、こちらへ自信満々に報告しにきたわけだが、それは整理整頓というには惜しい出来映えだった。
それでも彼なりに自分で考え、工夫して玩具や人形の類を収納ボックスへ入れたのだから、ここは褒める一択だ。
「おー、綺麗に片付けたな。すごいすごい」
「ふふーん! ぼく、いい子だもーん」
頭を撫でてやると、さらに胸を張っていい子アピールをする純。親の贔屓目抜きにしても、純は素直でいい子に育った。だが、彼自身がわざわざそこをアピールしてくるのには理由があった。
「ねぇ、パパ。ぼく、いい子だからまたサンタさん、来てくれるかなぁ?」
つい先週、クリスマスという子どもにとっての一大イベントを終えたばかりだというのに、もうサンタクロースを恋しがっている。純からしたら、タダで好きなプレゼントを運んでくれるおっさんだ。一年に一度とは言わず、二度でも三度でも来て欲しいくらいだろう。
オレもガキの頃、こんなんだったかなぁ? と思いながら、「そうだな」と一瞬だけ目線を上にした。
「こっから一年、いい子にしてたら、プレゼントが入った大きな袋を担いで来てくれるよ」
「いちねん……」
「今日が一日。それを三百六十五回迎えたら一年な」
純に向かってそう言うと、彼は「さんびゃくろくじゅうご……」と自分の両手を見つめて、真剣に指を折り始めた。
「両手じゃ、ちと足りないな」
改めてその小さな頭にポンポンと手の平を乗せると、今度はパタパタとこちらへ駆けてくる足音が聞こえた。
開放された部屋の扉からぴょこっと顔を出すのは、エプロン姿のオレの妻こと藍時だった。
「純。秀一さん。お蕎麦ができましたよ」
年末といえば年越し蕎麦だ。藍時が扇家にやって来るまで、我が家の年越し蕎麦はカップ麺だったわけだが、今回は豪奢にも海老を殻から剥くところから始め、調理した天ぷら蕎麦だ。味見はせずとも、廊下から漂う出汁のいい香りがそれを美味いと言っている。
サンタクロースに会える日を夢中で数えていた純も、蕎麦ができたと耳にするなり、ママの下へと駆け出した。
「おそば! ぼくのえびさんのってる!?」
「純がスーパーで選んでくれた海老さんは、天ぷらにして乗せてあるよ」
「天ぷら! おっきい? おっきい?」
「大きいよ。これくらい」
「わあ! ママ、ありがとう!」
藍時が両手を使って作った天ぷらのサイズを伝えると、純は両手を上げて喜んだ。
そんな純の笑顔に、口元を緩ませる藍時。うちの嫁さん可愛いなぁ、と思いながら「オレの天ぷらも?」と尋ねて藍時に近づき、その細い腰を抱こうと手を伸ばした。
だが。
「えっ? あ……はい。よ、用意してます」
藍時はサッと身を翻したかと思えば、純と同じ目線までしゃがみ込んだ。
オレの行き場のない手は空を掴み、低くなった藍時を見下ろした。
「ぁ……えっと……」
「ママ、早くおそば食べよ?」
「そ、そうだな。うん。一緒に行こうか」
藍時は言い訳を探すように、キョロキョロと視線を泳がしたものの、純に急かされともに部屋を後にした。
「何でオレは駄目なんだ……?」
息子と手を繋ぐ妻の後ろ姿を眺めながら、オレはボソリと呟いた。
ここ数日、オレは妻に避けられている。
十二月三十一日。大晦日。
「パパ! おもちゃのおかたづけできたよ!」
五歳の息子、純が腰に手を当てながら、顎を上げて誇らしげな顔を見せる。この時、オレ達は新しい年を迎えるべく、家の中の大掃除に励んでいた。
とはいえ、まだまだ幼い純にできることは限られている。純には主に、自分の部屋の片付けと雑巾がけというミッションを与えた。それでたった今、片付けの方が終わり、こちらへ自信満々に報告しにきたわけだが、それは整理整頓というには惜しい出来映えだった。
それでも彼なりに自分で考え、工夫して玩具や人形の類を収納ボックスへ入れたのだから、ここは褒める一択だ。
「おー、綺麗に片付けたな。すごいすごい」
「ふふーん! ぼく、いい子だもーん」
頭を撫でてやると、さらに胸を張っていい子アピールをする純。親の贔屓目抜きにしても、純は素直でいい子に育った。だが、彼自身がわざわざそこをアピールしてくるのには理由があった。
「ねぇ、パパ。ぼく、いい子だからまたサンタさん、来てくれるかなぁ?」
つい先週、クリスマスという子どもにとっての一大イベントを終えたばかりだというのに、もうサンタクロースを恋しがっている。純からしたら、タダで好きなプレゼントを運んでくれるおっさんだ。一年に一度とは言わず、二度でも三度でも来て欲しいくらいだろう。
オレもガキの頃、こんなんだったかなぁ? と思いながら、「そうだな」と一瞬だけ目線を上にした。
「こっから一年、いい子にしてたら、プレゼントが入った大きな袋を担いで来てくれるよ」
「いちねん……」
「今日が一日。それを三百六十五回迎えたら一年な」
純に向かってそう言うと、彼は「さんびゃくろくじゅうご……」と自分の両手を見つめて、真剣に指を折り始めた。
「両手じゃ、ちと足りないな」
改めてその小さな頭にポンポンと手の平を乗せると、今度はパタパタとこちらへ駆けてくる足音が聞こえた。
開放された部屋の扉からぴょこっと顔を出すのは、エプロン姿のオレの妻こと藍時だった。
「純。秀一さん。お蕎麦ができましたよ」
年末といえば年越し蕎麦だ。藍時が扇家にやって来るまで、我が家の年越し蕎麦はカップ麺だったわけだが、今回は豪奢にも海老を殻から剥くところから始め、調理した天ぷら蕎麦だ。味見はせずとも、廊下から漂う出汁のいい香りがそれを美味いと言っている。
サンタクロースに会える日を夢中で数えていた純も、蕎麦ができたと耳にするなり、ママの下へと駆け出した。
「おそば! ぼくのえびさんのってる!?」
「純がスーパーで選んでくれた海老さんは、天ぷらにして乗せてあるよ」
「天ぷら! おっきい? おっきい?」
「大きいよ。これくらい」
「わあ! ママ、ありがとう!」
藍時が両手を使って作った天ぷらのサイズを伝えると、純は両手を上げて喜んだ。
そんな純の笑顔に、口元を緩ませる藍時。うちの嫁さん可愛いなぁ、と思いながら「オレの天ぷらも?」と尋ねて藍時に近づき、その細い腰を抱こうと手を伸ばした。
だが。
「えっ? あ……はい。よ、用意してます」
藍時はサッと身を翻したかと思えば、純と同じ目線までしゃがみ込んだ。
オレの行き場のない手は空を掴み、低くなった藍時を見下ろした。
「ぁ……えっと……」
「ママ、早くおそば食べよ?」
「そ、そうだな。うん。一緒に行こうか」
藍時は言い訳を探すように、キョロキョロと視線を泳がしたものの、純に急かされともに部屋を後にした。
「何でオレは駄目なんだ……?」
息子と手を繋ぐ妻の後ろ姿を眺めながら、オレはボソリと呟いた。
ここ数日、オレは妻に避けられている。
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