【完結】生まれ変わってもΩの俺は二度目の人生でキセキを起こす!

天白

文字の大きさ
45 / 49
生まれ変わったΩが起こしたキセキ

しおりを挟む
 腹を擦りつつ、ハラハラしながら見守っていると宗佑は席を立って角の方に行ってしまった。例のシーツに被さった荷物が置いてある方にだ。まさか、詫びの品? わざわざ用意してくれたというのか。

 申し訳ないと耀太君に目を合わせると、彼はふるふると首を横に振った。耀太君も知らないものなのか? それはいったい何だろう。

「実は、陸郎殿に是非とも受け取って頂きたいものがございます。少々、荷物になってしまいますが……」

「ふん! 金か? 金ならたんと持っとるわ! 一千万や二千万そこらじゃ、この圭介はやらんぞ。最低でもこのテーブル一面に敷き詰めるくらいのもんじゃないとなぁ!」

「ろくっ……曾祖父ちゃん! 宗佑は俺の番なんだから、ちょっとは謙虚に……」

「だってなぁ、母ちゃん!」

「だから母ちゃんは止めなさい!!」

 この騒がしい俺達のやり取りに、事情を知らないだろう耀太君が一人、ポカンと口を開けている。我が息子よ。母はとても恥ずかしいぞ。

 しかしこれでも宗佑は動じなかった。どころか、この後の彼は俺が最も驚くことを口にしたのだ。

「陸郎殿の仰る通りです。圭介は金では買えません。一億積もうが、二億積もうが、その価値は決して決められないでしょう。ですが、ある人物がこう言ったのです。『私を抱きたきゃ、札束をこの床一面に敷き詰めろ』と」

「え?」

「なのでご用意させて頂きました」

 何処かで聞いたことのある台詞だと、俺は一瞬硬直した。

 そんな俺をニヤリと見下ろす宗佑は、シーツを被る大きな箱の方に手をかけた。バサッと勢いよく剥ぎ取られるシーツの下からは、その場にいる全員が口をOの字に開けてしまう「モノ」があった。

「なっ……な、ななっ……!?」

 そこにあったのは、皺一つない新札の束だ。しかしその数が尋常ではない。山。そう、山だ。

 シーツに被り、てっきり大きな箱だと思っていたがそうではなく、ただ大きな直方体のように一束ずつが丁寧に積まれていただけなのだ。札束一つでも驚くというのに、それを初めて目にした俺は心臓が止まるかと思った。

「いっ……いいっ、いったい……いくらあるの、これっ……いくらあるの、これぇ!?」

 さすがの陸郎もこんな大金を目にしたことはないらしい。顎が外れんばかりに口を開け、背もたれに全身を預けている。そしてそれは耀太君も同様だった。長い舌が今にも落ちてしまいそうだ。

 そんな俺達を前に、宗佑は変わらず淡々とした様子で言葉を続けた。

「きっとこれでも足りないと思います。一ヶ月で用意できたのはこれが限界でした。申し訳ない」

「じゅっ、充分だからっ! いやっ! 充分以上だし、こんな大金っ……というか、アレ! 聴いていたのか!?」

 一ヶ月前、俺を襲おうとした連中に放った自身の台詞。それが宗佑の口から再現されようとは思いもしなかった。しかし何故? どうしてそれを知っている?

 俺は金魚のように口を開閉させると、宗佑は自分の首にトントンと指を当てた。

「最新型だって言っただろう?」

 このチョーカー、そんな機能もあるのか!? なら、今まで陸郎と会っていた時や、一人でいる時や、トイレで用を足している時などは……嘘だろう? さすがにずっと聴いていたわけではないだろうが、性格悪いぞ、宗佑!

 顔から火が出そうな俺の隣で、どうにか持ち直した陸郎は姿勢を正しながら宗佑に向かってビシッ! と人差し指を突きつけた。

「ふ、ふん! 宗佑とやらの誠意はわかったわ……だがな! 母ちゃんを金で買えんと言ったのはそっちだぞ!」

 まだ言うか、この子は!

 これだけの札束を前にしても引かないとは……これ以上何を差し出せば快く認めてくれるのというのか?

 けれども、宗佑はこれすらも予想がついていたらしい。今度は札束の隣にあるイーゼルへと移動すると、そこにかかっているシーツを掴んだ。

「はい。陸郎殿にご用意させて頂いたのは、こちらの方です」

 札束とは違い、丁寧に扱われながら捲り取られたシーツ。そこにあったのは見覚えのない、一枚の人物画。油絵の具で描かれたそれは相当古い物だろう。

 しかしこの絵を見て俺と陸郎は、同時に目を見開いた。

「こ、これは……」

「恵母ちゃん!!」

 その絵のモデルは前世の俺……田井中恵だった。

 初めて目にするそれに驚きつつも見つめていると、宗佑は他のキャンバスに被さったシーツも同様に剥がしていった。そのどれもこれもが俺の絵だった。同じ人間が描いたのか、絵のタッチは全て似ていた。そして非常に美しく描かれている。

 しかしこんなに愛情がこもった絵など、見たこともなければ誰かに描いてもらった記憶もない。

 宗佑を見ると、一つ頷いてから説明を始めた。

「この絵は我が丹下に代々受け継がれるものです。この部屋にあるのはほんの一部になりますが、全て陸郎殿に差し上げようと思います」

「いったい、どうしてこんな……」

「一喜の父である正臣が残していったのです。彼はその一生を終える直前まで、ただ一人の人間の絵を描き続けたと言われています」

「え?」

 それについて、俺は手を上げて否定する。

「待って。正臣は出征してそのまま帰って来なかったんだ。俺が屋敷にいた時も絵なんて描いている姿、見たこともなかった。それもこんなにたくさんの……俺も、絵のモデルになった記憶なんて……」

「帰ってきたんだよ。戦争が終わった後、長い長い年月をかけてね」

「う、嘘……」

 俺は口元を両手で抑えた。

 正臣が、帰ってきていた? あの戦争から、ここまで?

 知らない事実に自然と身体が震え出す。宗佑は俺に向けてやんわりと説明を続けた。

「丹下に伝わる話では、正臣は戦争中に酷い怪我を負った。それは身体だけでなく精神をも蝕み、正臣から自身というものを奪ってしまった。戦争が終わって家に帰ろうにも、自分の脚では帰れなかったんだ」

「生きて、いた……?」

 正臣が生きていたとは。生きて家に帰ってきていたとは……!

 信じられない。しかし本当なのか。数多の絵の中には、戦前彼に買ってもらった着物を着ている俺の姿があった。

 これは間違いなく、正臣が描いたものなのだ。

「丹下に戻された正臣はやはり記憶を失くしたままで、生ける屍のようだったという。出された食事を摂り、睡眠を摂り、その命が尽きるまで静かに息をしていただけだった。そんな彼が唯一できることが、絵を描くこと。誰かに何を言うでもなく、ただ黙々と同じ人物の絵だけを描いていたらしい」

 それが俺だというのか? 身体も傷ついて、記憶も失くして、ボロボロで……それでも俺だけを描き続けたと?

 そこにどんな想いがあったのかはわからない。けれども、イーゼルに乗るキャンバスからは何か温かいものを感じる。

 絵のモデルは前世の俺……恵だ。決して正臣の姿があるわけではない。優しく微笑む恵を前に、ボロボロと涙が零れた。

「ご、ごめん、宗佑……今、泣いているのは……」

「わかっているよ。君の中の恵さんだね」

「うん……うん!」

 一ヶ月前、俺は宗佑に全てを話した。普通なら何を惚けたことを……と笑われるような話を、彼は最後まで真剣に聞き、すんなりと信じてくれた。

 そして今も、涙する俺の隣に寄り添って、この肩を優しく抱いてくれている。

 やっと会えた。おかえり、正臣。

 そんな気がした。

「陸郎殿。これらの品は如何され……」

「頂く! 全てだ! 結婚も許す!!」

「幸甚に存じます」


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

黒とオメガの騎士の子育て〜この子確かに俺とお前にそっくりだけど、産んだ覚えないんですけど!?〜

せるせ
BL
王都の騎士団に所属するオメガのセルジュは、ある日なぜか北の若き辺境伯クロードの城で目が覚めた。 しかも隣で泣いているのは、クロードと同じ目を持つ自分にそっくりな赤ん坊で……? 「お前が産んだ、俺の子供だ」 いや、そんなこと言われても、産んだ記憶もあんなことやこんなことをした記憶も無いんですけど!? クロードとは元々険悪な仲だったはずなのに、一体どうしてこんなことに? 一途な黒髪アルファの年下辺境伯×金髪オメガの年上騎士 ※一応オメガバース設定をお借りしています

【完】ラスボス(予定)に転生しましたが、家を出て幸せになります

ナナメ
BL
 8歳の頃ここが『光の勇者と救世の御子』の小説、もしくはそれに類似した世界であるという記憶が甦ったウル。  家族に疎まれながら育った自分は囮で偽物の王太子の婚約者である事、同い年の義弟ハガルが本物の婚約者である事、真実を告げられた日に全てを失い絶望して魔王になってしまう事ーーそれを、思い出した。  思い出したからには思いどおりになるものか、そして小説のちょい役である推しの元で幸せになってみせる!と10年かけて下地を築いた卒業パーティーの日ーー ーーさあ、早く来い!僕の10年の努力の成果よ今ここに!  魔王になりたくないラスボス(予定)と、本来超脇役のおっさんとの物語。 ※体調次第で書いておりますのでかなりの鈍足更新になっております。ご了承頂ければ幸いです。 ※表紙はAI作成です

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

少女漫画の当て馬キャラと恋人になったけどキャラ変激しすぎませんか??

和泉臨音
BL
 昔から物事に違和感を感じることの多かった衛は周りから浮いた存在だった。国軍養成所で一人の少女に出会い、ここが架空の大正時代を舞台にしたバトルありの少女漫画の世界だと気付く。ならば自分は役に立つモブに徹しようと心に誓うも、なぜかヒロインに惚れるはずの当て馬イケメンキャラ、一条寺少尉に惚れられて絡め取られてしまうのだった。 ※ 腹黒イケメン少尉(漫画では当て馬)×前世記憶で戦闘力が無自覚チートな平凡孤児(漫画では完全モブ) ※ 戦闘シーンや受が不当な扱いを受けるシーンがあります。苦手な方はご注意ください。 ※ 五章で完結。以降は番外編です。

うそつきΩのとりかえ話譚

沖弉 えぬ
BL
療養を終えた王子が都に帰還するのに合わせて開催される「番候補戦」。王子は国の将来を担うのに相応しいアルファであり番といえば当然オメガであるが、貧乏一家の財政難を救うべく、18歳のトキはアルファでありながらオメガのフリをして王子の「番候補戦」に参加する事を決める。一方王子にはとある秘密があって……。雪の積もった日に出会った紅梅色の髪の青年と都で再会を果たしたトキは、彼の助けもあってオメガたちによる候補戦に身を投じる。 舞台は和風×中華風の国セイシンで織りなす、同い年の青年たちによる旅と恋の話です。

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

アルファ王子に嫌われるための十の方法

小池 月
BL
攻め:アローラ国王太子アルファ「カロール」 受け:田舎伯爵家次男オメガ「リン・ジャルル」  アローラ国の田舎伯爵家次男リン・ジャルルは二十歳の男性オメガ。リンは幼馴染の恋人セレスがいる。セレスは隣領地の田舎子爵家次男で男性オメガ。恋人と言ってもオメガ同士でありデートするだけのプラトニックな関係。それでも互いに大切に思える関係であり、将来は二人で結婚するつもりでいた。  田舎だけれど何不自由なく幸せな生活を送っていたリンだが、突然、アローラ国王太子からの求婚状が届く。貴族の立場上、リンから断ることが出来ずに顔も知らないアルファ王子に嫁がなくてはならなくなる。リンは『アルファ王子に嫌われて王子側から婚約解消してもらえば、伯爵家に出戻ってセレスと幸せな結婚ができる!』と考え、セレスと共にアルファに嫌われるための作戦を必死で練り上げる。  セレスと涙の別れをし、王城で「アルファ王子に嫌われる作戦」を実行すべく奮闘するリンだがーー。 王太子α×伯爵家ΩのオメガバースBL ☆すれ違い・両想い・権力争いからの冤罪・絶望と愛・オメガの友情を描いたファンタジーBL☆ 性描写の入る話には※をつけます。 11月23日に完結いたしました!! 完結後のショート「セレスの結婚式」を載せていきたいと思っております。また、その後のお話として「番となる」と「リンが妃殿下になる」ストーリーを考えています。ぜひぜひ気長にお待ちいただけると嬉しいです!

後天性オメガは未亡人アルファの光

おもちDX
BL
ベータのミルファは侯爵家の未亡人に婚姻を申し出、駄目元だったのに受けてもらえた。オメガの奥さんがやってくる!と期待していたのに、いざやってきたのはアルファの逞しい男性、ルシアーノだった!? 大きな秘密を抱えるルシアーノと惹かれ合い、すれ違う。ミルファの体にも変化が訪れ、二次性が変わってしまった。ままならない体を抱え、どうしてもルシアーノのことを忘れられないミルファは、消えた彼を追いかける――! 後天性オメガをテーマにしたじれもだオメガバース。独自の設定です。 アルファ×ベータ(後天性オメガ)

処理中です...