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始まりは穏やかに
苦労人の王子様
しおりを挟む私と王太子殿下との年齢さは十七歳、政略結婚なら特に問題も無いよくある話です。
ですが、此処まで浮名が流れるなら、もっと早くに婚約者が出来ていてもおかしくなかったはずです。王太子殿下と今年三十三歳になるお母様の方が年齢が近いくらいです。
バーティン公爵家は、何もお父様だけしか生まれなかった訳ではありません、お母様と同じ年齢の叔母様だって居ます。ですが、王太子殿下は叔母様との婚約を頷かなかったと聞いています。
クライフ王国は長子継続が主流ですので、男子であろうと女子であろうと長子が家を継続していく決まりです。ですが、長子が結婚をしなかった場合は御家断絶となってしまいますので、次子が後継として選ばれる事があります。
「レッラ様と第二王子殿下は常識人なのに、どうしてなんでしょうね?」
「いや、答え難い質問をしないでくれないか?ラフィ」
「王太子殿下は中々婚約をしようとしなかったのに、我が妹を婚約者にした途端に浮名の数々。貴族の中では王太子殿下は結婚しないと思われてましたし?後を継ぐのは第二王子殿下かと思っていましたよ。財務大臣である侯爵様も、折角娘を第二王子殿下に嫁がせていたのですが無駄に終わりましたね」
「それは本当に、混乱させて申し訳ないとしか言いようが無い」
「第三王子はそもそも、浮名しかない方でしたからねー…。年上をお好みなのは知っていましたが、まさか三人の子を持つ我が家の母上まで求婚者と思っていた話には、苦笑しか浮かびません」
ざっくりと切り刻んでいくラフィット兄様の言葉に、レイラート様は乾いた微笑みしか浮かばないといった感じです。貴族の令嬢との婚約に首を縦に振らなかった王太子殿下が、何故か頷いた私との婚約。それほど王家の財政が切羽詰っていたのでしょうか?第二王子は国庫を守る財務省の大臣を務めている侯爵家の令嬢と早々に婚約・結婚をされ、今では二児の父親です。
ラフィット兄様が悪い顔をしながらレイラート様をからかうのはいつもの事ですが、元王子のマリウス公爵様(元第三王子殿下)の話を出すくらい、怒ってるのは珍しいです。
なんでも、私がまだ赤ん坊の頃に女王陛下へ挨拶に行ったお母様を、自分の数多居る求婚者や取り巻きと勘違いなさったそうです。お母様大好きなお父様からすれば大事件です、冷徹な氷の騎士団長の凍えるオーラが王城を吹き荒れたそうです。
「兄上は領地を与えられ、早々に引き篭もって頂いたよ。私が今日此処へきたのは、ラフィに虐められる為ではないのだけどね?」
「知ってますよ、夜会の話しですよね?クリスには、まだ話してなかったのですけどね」
「……さすがに相手の家は男爵家だ、公爵家には何もしてこないとは思うがクリスには護衛を付けたい」
「ですがレイラート様、護衛と申されましても、王城へ参ります時にはいつも騎士団からお父様がつけてくださってますが?」
「いや、貴女専用の護衛だ。辺境伯からの推薦でもあるので、紹介させて貰おうと共にきている」
「なるほど、我がバーティン家とは敵対の意志は無いという事ですね」
「そもそも、男爵家も可哀想なくらいに萎縮していてね。商家への借金は無くならないのに援助も打ち切られ、今にも自害しそうな勢いだよ」
苦笑を浮かべるレイラート様は、ラフィット兄様が言うようにとても常識人でお優しい方です。王族や貴族ならば男爵家をさっさと切り捨て、問題のある王太子は廃嫡にしようと動いても可笑しくはないでしょう。
長子継続という点が、一番の厄介な問題として出ているのでしょう。
「またいつもの『真実の愛(笑)』とやらでしょうかね?殿下の好みは未だに分かりませんよ」
「ま、まぁ…な」
「?ラフィット兄様、キディング男爵令嬢はどのような方ですの?」
言葉を濁して視線を外してしまったレイラート様の態度に首を傾げ、ニヤニヤと悪い顔をしているラフィット兄様に尋ねてみると、何やら屋敷の外が騒がしくなっています。馬車と馬の嘶きの声、そして警備の者の声と執事が動いているのでしょうか。
「ミルフィー、何事です?」
「予定の無い客人のようです、ただいまサラが確認に向かっております」
「申し訳御座いませんラフィット様、お嬢様に合わせろと他家のお嬢様がいらしているのですが…」
「何処の家の方かな?」
「バルベルデ家の方だと…、お嬢様の友人なのだから通せと喚かれておりまして」
我が家の執事の困り顔を見るのは初めてです。要求が無茶すぎますし、私の友達とかありえませんでしょう?自慢では有りませんが、私友達が一人も居ないのです。
その後ろにはサラが控えていますが、その顔にも怒りが見える辺り噂の男爵令嬢のようです。部屋に戻ったら愚痴でも聞いてあげましょう。
「私が参りましょうか?ラフィット兄様」
「いや、クリスが気安く動く必要は無いよ。此方には約束などないし、紹介状も何もない知らない相手だ。クリスに何かあっては私が父上に叱られてしまう」
「喚いているとは?」
「…畏れながら、とても口には出来ない内容でして」
「大声で喚く令嬢もどうかと思うけど、窓を開けたら聞こえるんじゃない?サラ、一番近い窓を開けなさい」
「はい、ラフィット様」
目下の男爵家から目上でもある公爵家に突撃するのは大問題かと思いますが、夜会でのマナーもご存知でない方でしょうから仕方無いのでしょうか?お父様が居たら問題なく牢獄行きなのですが、ラフィット兄様はどこか楽しそうです。
サラが窓を開けると聞こえてくるのは、可愛らしい鈴のような声なのですが、言っている内容に私もレイラート様も首を傾げてしまいます。肩を震わせて笑いを堪えているのはラフィット兄様くらいです。
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