勝手に悪役にしないでください

梛桜

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幕引きは迅速に

面倒事との対峙

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 荷物の残りはジュリアーナが公爵家へと送ってくれる手筈になっているので、急ぎ向かうのは後宮専用の馬車停まりです。
 普段なら後宮へやってくる商人や業者の出入り口に使ったり、たまに出掛ける侍女が使ったりします。
 側妃や妾妃が後宮から外へ出ることは基本ありません。王妃は公務などで出掛ける時は、王宮の馬車停まりを使いますが、今はそれどころでは有りませんから、一番近くて早い場所を目指します。

「お早く、此方へ」
「ありがとう、ジュリアーナ」

「ちょっと、待ちなさいよ!!」

 王妃専用の宮は、途中側妃や妾妃の宮を通らなければなりません。まだ夜会をしているかと思ったのですが、続けられるほどの鋼の精神では無かったようですね。後宮の王妃と妾妃達との宮を繋ぐ渡り廊下で追いついてくるなんて、早すぎですよ。

「キディング様、幾ら愛妾と呼ばれるお方でも、王妃様にその様な態度は失礼かと」
「こそこそ逃げようとしてるからじゃない、あんたの所為で私が悪者だわ!私とデスロット様の仲を邪魔するほうが悪役なんだから、ちゃんと断罪されて泣きを見なさいよね!」

(相変わらず、人の話を聞かない方ですね)

「キディング様、王妃様と妾妃では王妃様の身分の方が上で御座います」
「身分?そんなの知らないわよ。私はデスロット様に一番愛されてるの!此処では私のほうが偉いのよ!」
「此処は陛下の後宮で御座います、身分は王妃様が一番上でございます」
「あんた一々うるさいのよ!悪役王妃の肩ばっかり持って無いで、ヒロインの私に従いなさいよね!此処は私が一番の世界なのよ!」

 幾らジュリアーナが諭そうとしても、キディング様は聞く耳を持ちません。というか、悪役とかヒロインだとか、キディング様は恋愛小説でも愛読されているのでしょうか?夢物語の中に入っているようなお年では無いと思うのですが。

(夢ばかりを見て、現実を見ないのはデビュー前の少女だけで十分だと思うのですが)

 そっと顔を背けて溜息を零すと、気に障ったのか詰め寄ってきたキディング様にドンッ!っと強く突き飛ばされてしまい、そんな荒業を使うと思ってい無かった私の身体は、そのまま渡り廊下の手摺へと打つかってしまいました。

「…っ!」
「王妃様!」
「ふんっ、いい気味よ。今回は上手く逃げたつもりかもしれないけど、今度はしっかりと断罪されてよね!悪役王・妃・様!」
「先程から悪役だとかなんだとか、貴女に言われる筋合いは御座いません。それに、悪役だと言うのなら今の貴女の方が十分悪役でしてよ」
「なんですって!?」

 痛みに顔を歪めた私を鼻で笑うキディング様に、いい加減私も腹が立ってきたので言い返してやりました。キディング様にとって『悪役』という言葉は癇に障るのか、目を大きく見開きドレスの胸元に掴み掛かってきたのです。

(どこから…、こんな力が出るのかしらっ)

「王妃様!キディング様、王妃様を…っ、クリスティアラ様をお放しなさいませ!」

 私を助けようとするジュリアーナを突き飛ばし、首を絞める勢いで詰め寄られ、息は苦しいですが言われっ放しはこちらも気が治まらないのです!

「煩い!うるさいうるさいうるさい!誰が悪役よ、悪役はあんたよクリスティアラ!私はヒロインよ!この国の王妃は私なんだから!」
「何も出来ないたかが妾妃ではないですか!浪費するだけの妃など、この国には必要有りませんわ!」
「煩いのよ!あんたなんか、消えてしまえばいいのよ!」

 グラリと傾く身体に、浮かぶ足元と不安定な浮遊感。
 止めようと必死になっていたジュリアーナの顔色は青褪め、私はそのまま二階にある渡り廊下から落とされた。
 地面へと引っ張られる感覚と、私に向かって手を伸ばすジュリアーナの姿。

 そして

 その背後に、呆然と佇んでいるデスロット陛下の姿が一瞬で消えていきました。



「クリスティアラ様ー!!」


 
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