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幕引きは迅速に
頂点からの転落・幕引き *国王視点
しおりを挟む視界から消えて行ったクリスティアラのドレス、荒く息を吐いているキティと嫌な苦しみを訴えてくる胸の痛み。頭の中は真っ白で喉がカラカラだった。
ジュリアーナの叫び声が響く渡り廊下に、騎士達の冷たい軍靴の音が聞こえて来る。周りを取囲まれ剣を向けられるのは、国王であるはずの私とキティだった。
「な、どういう事だこれは!?」
「貴方は、過ちを犯し過ぎたのですよ。デスロット兄上」
「れ、レイラート!?」
「この時を持って、国王陛下であったデスロットはその座を、王弟である私レイラート=クラフへと譲位するとし、王族としての身分剥奪の上、北の離宮へと幽閉とする!」
威厳に満ちた声と真っ直ぐに私をみるその瞳は、昔母から女王として向けられたものと同じだった。決して曲げることの無い決定事項に、壊れた玩具のようにぎこちない動きでクリスティアラが落ちた手摺へと向かっていた。
背後を近衛騎士に囲まれ、逃げると思われていないのか拘束はされずに、只剣を向けられている。
「男爵令嬢キディング・ベル=バルベルデ。王族への侮辱罪に跡継ぎとなる子を勝手に堕胎したとの堕胎罪、勝手に国財を使い込んだ横領罪、国内を著しく混乱させたとの内乱罪。そして、公爵令嬢への不敬罪に侮辱罪、王妃となるべく尊い身を殺害し自らが王妃と成り代わろうとした殺害未遂罪により、身分剥奪の上、極刑とする!地下牢へと連れて行け!」
「は!?どうしてそうなるのよ!デスロット様、助けて!!」
伸ばされるキティの手を掴む事無く、縋る瞳が段々と苛立ち憎しみを含んだものへと変わっていく。あんなにも愛しいと思っていたのに、向けられる醜悪な言葉と眼差しに興味が引いていく。
突き落とされたクリスティアラはどうしたのだろうと、地面へと視線をむけると、真っ赤に燃える瞳が私を射抜くように睨みつけ、頬に添えられた華奢な手によって、蕩けるような優しい瞳が愛しい者へと向けられる。
「何をしてるのよ!王妃だって逃げようとしてるじゃない!逃亡よ!捕まえなさいよ衛兵!」
「我が妹クリスティアラは既に婚姻無効となり、身分は公爵令嬢へと戻された。王宮へ留まる理由などないのですよ。犯罪者さん」
公爵家の嫡男ラフィットの馬鹿にした声が響き、目を丸くしたキティが身を乗り出して階下をみて騒いでいるが、抱き締めあう二人を目の当たりにした私は、動くことが出来なかった。
「クリスティアラ様、此処は危険です。御速く避難を」
「ジュリアーナ様は後でお連れする、先にクリスティアラ様をお連れしろ!」
「どうしてよ!あっちが悪役なのよ!?滅ぶべき悪はクリスティアラのほうじゃない!」
騒ぎ立てるキティの声に、私の前からクリスティアラが居なくなろうとしているのに気がついた。幼少時からその成長を見てきた綺麗な人形の様な少女が。
「クリスティアラ…」
ポツリと零れ出た言葉は、この喧騒からは聞こえないはずなのに、顔を上げたクリスティアラがじっと私を見つめてニコリと微笑みを浮かべた。とても嬉しそうな、初めてクリスティアラを見た時のようなあの笑顔。
「ごきげんよう、二度とお逢い致しませんわ。陛下」
「待て!クリスティアラ!」
「デスロットを捕らえよ!北の離宮へ連れて行け!」
新国王陛下の言葉に、止まっていた近衛騎士が動き出す。手を伸ばしても掠りもしない、私が欲しかったものは、何度願ってもこの手をすり抜けていく。
女王だった母を支える父が母を見つめる直向な視線、近衛騎士団長が母に向けていた曇りなき忠誠を誓う真っ直ぐな視線。愛しい者へと向ける、蕩けるような甘やかな視線。
「全てを壊したのは、貴方ですよ兄上」
「失って後悔されるといいですよ、この国も欲しいものは全て貴方は失ったのですから」
レイラートとラフィットの言葉に、目の前が真っ暗になり意識が堕ちた。
*****
~ クリスティアラ視点 ~
落ちていく身体をどう守っていいのか、そんな事は誰にも教わっていない。もし聞いていても、今の状況で思い出せるはずも無く。頭が真っ白な私は、これから襲い掛かる衝撃と痛みに身を竦めるだけでした。
でも――。
「ティア!」
多少の衝撃はありましたが、痛みも無く受け止められたのは、私をずっと守ってくれていた護衛騎士のケイリオスの腕の中。慌てていた所為での荒い息遣いや、熱い体温に、ぎゅっと閉じていた瞳をゆっくりと開いた。
いつもは穏やかな色合いを見せる黒に近い赤い瞳が、怒りで赤味を増していて、恐怖に身を震わせる前に、その綺麗な瞳に魅入られてしまいました。
「ティア、無事か?怪我は?」
「ケ、イ…」
「すまない、怖い思いをさせた」
普段は顔に出さずに黙々と仕事をしてくれるだけなのに、真っ直ぐに私を見つめて心配して、私の為に怒ってくれる。侍女や女官達のように華奢で柔らかい手じゃない、大きくて無骨な手と逞しい腕だけど、とても優しくて温かい。
(怖くない、気持ち悪くない…)
微かに震える手が、そっとケイリオスの頬へと触れると、安心したような泣き出しそうな顔になる。私が微笑みを向けると、優しい瞳が一緒に笑ってくれる。
「何をしてるのよ!王妃だって逃げようとしてるじゃない!逃亡よ!捕まえなさいよ衛兵!」
「我が妹クリスティアラは既に婚姻無効となり、身分は公爵令嬢へと戻された。王宮へ留まる理由などないのですよ。犯罪者さん」
「クリスティアラ様、此処は危険です。御速く避難を」
「ジュリアーナ様は後でお連れする、先にクリスティアラ様をお連れしろ!」
「どうしてよ!あっちが悪役なのよ!?滅ぶべき悪はクリスティアラのほうじゃない!」
渡り廊下の手摺から身を乗り出して騒ぐキディング様を諌めるラフィット兄様の声、アシュリーがキディング様の身柄を抑えているのが見える。私の無事を確認したジュリアーナの促す声が聞こえる。其の隣には目を見開いて私達を見つめる陛下の顔。
悔しそうに、唇を噛み締める陛下の顔が、其処にある。絶望したような泣き出しそうな震える唇が、私の名前を呟いた気がした。
「ごきげんよう、二度と会いませんわ。陛下」
にっこりと微笑みを浮かべ呟いた私を抱き上げたまま、ケイリオスは馬車へと走り出した。
背後から何か叫んだような声が聞こえてきたけれど、もう私には関係の無いモノです。振り返る事無く待たせている馬車へと向かうだけ。
向かう先は外交を任されていた時に懇意にして頂いた、そうですね『とある国』としておきましょう。
この国の行く末は、レイラート様を旗印としたお父様やお兄様、そして宰相様達有能な臣下の方々が決起されているので心配はしていません。
幾らデスロット陛下やキディング様が、私を逃げるだの悪だのと罵っても関係の無い事です。
「悪は滅ぼされるもの。でしたら、どちらが『悪』なのか、幼子でも簡単に分かりますものね」
最後に私に出来る最高の礼をこの国へ捧げ、手を引かれ笑顔で馬車に乗り込みました。
其の日。
この国の王妃は、世間から姿を消したのでした。
おわり。
*****
完結いたしました。ご愛読頂き有難う御座いました。
最後は王視点の予定は無かったのですが、追加してみました。
又別のお話を投稿しましたら、よろしくお願い致します。
4
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