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あなたの隣
過ごした月日
しおりを挟む速いもので、『魔』との遣りあいから一年が過ぎました。
あの日からオブシディアンは普通の黒猫の様になってしまい、ハウライトが未だに夜は子猫の姿になるのに、オブシディアンは猫の姿のままです。普通の猫になったのかと思うけれど、私の闇魔法の力はそのままで、消えることは無いという謎が残りました。
「もう、人型にはならないのかしら……?」
『にゃあーん』
「オブシディアンの可愛い声も、聞いてはいるけど言葉になってくれないわね」
スリスリと掌に頭を擦り付けてくるオブシディアンの顎下を撫で、顔を寄せると嬉しそうに頬に顔を摺り寄せてくる。仕草はそのまま猫のまま、言葉も人化もない、本当の猫。
「アリア、此処にいたんだね」
「オブシディアン様と話していたの?」
「リィ様、アズラ」
「探していたんだ。今年のダンス試験は、もう相手見つけた?」
「それが、まだですの。ハウライトからの駄目出しが激しくて」
オブシディアンが猫になってから、生徒に黒い靄が纏わり憑くことは無くなった。一応ラズーラ・リモナイト両殿下からの働きかけもあり、学園の結界は強化されているけど、もう心配する事は無いかもしれない。
そのラズーラ殿下もアイクお兄様とジャスパー様と共にお嬢様方に惜しまれ涙と共に見送られつつ学園を卒業し、今は王太子として国王陛下と共に執務に忙しそうだ。勿論、アイクお兄様は次期侯爵としての勉強と共にラズ殿下の補佐をしています。ジャスパー様は正式に護衛騎士となるために騎士団へと入られました。将来はラズーラ殿下専属の近衛騎士ですね。
(結局ラズ殿下が王太子になるなら、入学前に決めてしまえばよかったのに)
リモナイト殿下の光属性の問題と、側妃様から産まれた第三王子の所持属性の問題で見送られていたとか言ってましたが、ラズーラ殿下が側妃側から面倒な持ちかけがあったとぼやいてました。しわ寄せは全て此方ですよ。もう!
そして、今まではダンスで補習といわれると、補習の味方ジャスパー様が居ましたが、今年からはそうは行きません。となるとですね、リィ様とマウシット様に群がるのですよ。令嬢達のギラつきようが怖いのなんのって。ガクブルや済みませんからね?オブシディアンとハウライト連れて真っ先に逃げました。
因みに、ルチルはマーカサイト様から申し込まれてました。一番穏やかで安全ですよ。お誘いに顔を真っ赤にするルチルがとても可愛かった事をご報告いたしますわ。
「試験までに間にあうといいのですけど」
「決まらなくて補習になったら、絶対に僕が相手をするからね」
苦笑を浮かべていると、怖いにっこり笑顔でリモナイト殿下に宣言されました。侯爵家の名もありますので、相手がいなくて補習とかは避けたいと思いますわ。リィ様の怖い笑顔の原因は、あっさりと逃げてしまった私にありますので、余計な事は言うまい。
「じゃあ、僕は先に練習に行くから。アズラは此処まででいいよ、騎士科に戻るといい」
「はい、また放課後にお迎えに伺います」
たった一年の月日だというのに、リモナイト殿下もアズライトも私の頭一つは上に顔があります。今までは少し上を向けば顔があったのに、変な感じですね。じっと見ていたら、それに気がついたアズラがニコッと笑みを浮かべて首を傾げてきました。
優しいエメラルドグリーンの瞳が細められ、甘く見詰められていると気付けば、胸がドクンと高鳴る。
「どうかした?」
「な、何でもありませんわ。首が疲れるなーって思っただけよ」
ぷいっと視線を逸らしたけど、首が疲れるって
な・ん・だ・そ・れ!
私、ジャスパー様には普通にしてますよね!?アイクお兄様だってラズーラ殿下だって背は高いじゃないですか!問題なくお話してますが、何がどうしたよ!?
(まて、落ち着け、落ち着きなさいアメーリア!)
「じゃあ、これならいい?」
そういってアズラは私の足元に跪き、制服のスカートへと口付けた。そう、まるで小説で読むような王子様や騎士様のように。
(は!?ちょ、何処でそんな事覚えたの!?あれか!ジャスパー様か!)
頭の中は大混乱で、グルグルですよ。顔に出ないというか、出さないお嬢様教育に感謝しかない。白と黒の斑の髪に、丸い耳。同じ色と柄の尻尾が楽しそうに揺れて、エメラルドグリーンの瞳がじっと私を見詰める。
「ねぇ、アリア。試験のダンスの相手、僕じゃ駄目?」
「…あい、てって…。試験のダンスは貴族科か魔法特進科の生徒でパートナーになるか、婚約者がいる人は婚約者なら何科でも可能ですけど…」
「うん、知ってるよ」
にっこりと笑って今度は手を取り、甲に口付けられた。目を丸くして固まっている私に向けられる、アズラの真っ直ぐな瞳。去年はそんな事言ってこなかったのに?ルチルの事があったのもあるけど、おどおどしていた可愛いアズラが違う!
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