攻略なんてしませんから!

梛桜

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二人のヒロイン

ルチルレイ 3 -ルチル視点ー




「ルチルレイ様は、毎朝このお時間なのですか?」
「え、ええ…まぁ、もう少し速い時もありますが」

(毎朝も何も、そもそも私は馬車停めには用事はありません!今日はたまたま此処を通り掛ったら、ジャスパー様に捕まってしまっただけです!)

 ニコニコと表では笑顔だけど、内心は早く此処から逃げたくて仕方ないです。アメーリア様の両肩には、綺麗な毛並みをした白と黒の子猫が乗っていて、ジッとこっちを見つめているのが、とても怖い。

『アリア、駄目』
『駄目ですよアリア、闇の狼に近付いてはいけません』
「オブシディアン、ハウライト。大丈夫だから鳴かなくてもいいわ」

 ニコニコと微笑みを浮かべるアメーリア様と違って、両肩に乗っている光と闇の守護聖獣様達からは、私とギベオンは思いっきり嫌われているようです。目もあわせて貰えないどころか、近付くなとまで言われています。

(やっぱり、ギベオンが一緒の所為かしら。アメーリア様の聖獣様の声がわかる)

 というか、こんなに仲間でもある聖獣様達に嫌われるなんて、ギベオンはいったい何をしたんでしょう?もしかして、私は何も知らないのに、私が謝らないといけないのでしょうか?夜は自由にしてもいいと言ってはいたけど、こんな面倒な事をされるくらいならずっと一緒に部屋に居て欲しいです。
 尻尾をフリフリしているギベオンは気にしていませんが、私は嫌ですよ。このまま誰にも関わらないで学園生活をこなしていきたかったのに。

『アリアの聖獣はまだ子猫だ、気にしなくとも我には関係ない』
「ぎ、ギベオン!?」 
『子猫、違う!』
『私達が一緒に動けば、貴方なんて蹴散らせます!』
「ハウライト、オブシディアンお止めなさい」

 さらっと言い出したギベオンの言葉に、明らかにアメーリア様の聖獣様達が尻尾を膨らませて怒り出した。そりゃ怒りますよね、力の差はあるかもしれませんが、同じ聖獣として存在しているのです。アメーリア様が抑えてくださってますが、何故かギベオンは偉そうにふんっと鼻を鳴らしてる。

(ギベオンってこんな偉そうだったかしら…)

 今までの高潔で圧倒的な存在だったギベオンの印象が、ゆっくりとわたしの中で変わっていく。でも、怒っているアメーリア様の聖獣様達と比べて、遣り合っているはずなのにギベオンは楽しそうだった。

「まったく、ギベオンは大人気ないのではなくて?年長者なのですから、後輩を導いていく位の余裕をお持ちなさい」
『我は闇の聖獣だ、光の聖獣には興味はない』
「オブシディアンは闇の守護聖獣ですわ、貴方から学ぶことも出来ますのよ」

 私の言葉は聞いてくれないのに、アメーリア様の言葉をギベオンが聞いている。驚くだけでなく、胸がぎゅっと締め付けられるような、モヤモヤとした嫉妬心が湧き出てくる。

(ギベオンは、私のなのに…)

「…ギベオン、人型になりなさい。その姿ではアメーリア様に失礼だわ」
「え?ルチルレイ様、私は別に…」

 私の言葉に従ったギベオンは、直ぐに人型へと変身していくけど、その姿を目にした途端アメーリア様が後ずさった。何かを防ぐかのように抱き締められる、二匹の聖獣様が、心配した雰囲気を醸し出している。
 ふわふわの毛並みから現れた近衛隊のような制服と、夜空のような長い髪。頭の上には三角の耳が生えていて、じっと真っ直ぐにアメーリア様を見つめる力強い銀色の瞳。私を見つめるときとは違う優しいその眼差しに、私は息が苦しくなってギベオンの腕にしがみ付いた。心の中が真っ黒な何かで埋め尽くされてしまいそう。渡さない、ギベオンは私だけのものなんだから!

「貴方は、私の守護聖獣よ!」
「ルチルレイ、離せ」
「嫌!」

「楽しそうにやり取りをしているのかと思ったのだけど、どうかしたのか?」
「そろそろ授業にも向かわないとね、アリア。今日は何の授業からだったかな?マウシット」
「ラズーラ殿下、リモナイト殿下」

 凛とした声が聞こえて朝の話をしていたラズーラ王子様と、リモナイト王子様が不思議そうな顔をして私達を見ていた。ラズーラ王子様の背後にはアメーリア様を気にしているアイドクレーズ様が、リモナイト王子様の背後には貴族科の首席のマウシット様が控えている。
 突然声を掛けられたのに、直ぐに淑女の礼を取れるアメーリア様とは違い、私は未だにギベオンの腕にしがみ付いていて、私を見たマウシット様の顔が不快そうに歪んでいた。

(わ、私、一体何をやっているの?こんな、王子様達も居る場所で…)

 足元から、体が冷えていくような感覚なんて初めてだった。知らずに震える身体を支えてくれたのは、ギベオンではなく、アメーリア様のお兄様のアイドクレーズ様だった。綺麗な顔が近くにきて気分が高揚するどころか、アイドクレーズ様が怖くて怖くて支えられる腕から離れたい。

「モルガ男爵令嬢、気分が悪いのなら救護室へ行った方が宜しいでしょう」
「も、申し訳、ありません。大丈夫、です。ギベオンに…」
「マウシット、救護室へ送ってあげて」
「はい、リモナイト殿下。アイドクレーズ、変わろう」

 魔力を持たない一族の出である、マウシット様が交代してくださって安心するなんて、私はどうなってしまったのかしら。ギベオンを呼ぶ隙も無く、そのまま私の意志も関係なく、救護室へと強制的に運ばれてしまったのだった。

 

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