攻略なんてしませんから!

梛桜

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二人のヒロイン

蝕む闇の靄(ルチル視点)




「モルガ男爵令嬢様は、魔法特進科・騎士科合同試験に出られますわよね?どなたとお組になられますの?」
「私も興味がありますわ、聖獣様付きでしたら引く手あまたとお聞きしてましてよ」

 突然私に声を掛けてきたのは、貴族科のマナー講座で近くの席に座っている伯爵令嬢と、男爵令嬢でした。少し声が大きいのではありませんか?と思うけど、視線だけで周りを見てみると、他の令嬢達も此方に聞き耳を立てていた。

(これって、この二人が聞きだし係ってやつかな)

 この時期になると、合同試験の話で持ちきりになるのは仕方無いのかもしれない。貴族の令嬢達にとって、マナー講座は日常の事で、あえて勉強する必要はないのだから。私も一応男爵家の娘だけど、王宮に上がるほどの家格では無い為、上級マナー講座に四苦八苦している。

「優勝候補は今年もラズーラ王子様とジャスパーさまとアイドクレーズ様の組らしいですわ、去年はたった三人で六人編成の組を制しての優勝ですものね」
「今年は必ず六人での組みを、と言われているそうですわ。きっとアイドクレーズ様がいらっしゃいますから、アメーリア様はご一緒されると思いますの!」
「…はぁ」
「でしたらきっとリモナイト王子様も一緒ですわよね!クラスター王国の王族と侯爵家なんて、家柄だけでもトップですわ」

 キャッキャと楽しそうに話をしているけど『編成人数は六人』と自分でいっていたのに忘れたのでしょうか、私とアメーリア様は聖獣付きなんですけどね。私はギベオンだけですが、アメーリア様は二匹の聖獣様をお連れなんです。つまり、アメーリア様だけで三人なんですよ。
 
「モルガ様お聞きになってまして?今年の合同試験では、貴族科も参加しなくても名前だけは貸せますのよ」
「え?」
「どうしても人数を合わせられなかった緊急措置として、貴族の婚約者を持っている方が名前を登録するのですわ。ラズーラ王子様とリモナイト王子様もそれを使うのではないかと噂ですの」
「御二人共婚約者候補の名前だけは上がりますけど、決定的な方はまだですの。アトランティ家は王妃様が関係しているからと言われてますけど、従兄妹でもあり幼馴染と言われていますものね」
「モルガ様は、何かお聞きになっていません?アメーリア様と同じ聖獣様付きでしょう?」

(ああ、これを聞き出したかったのね)

 キラキラというよりも、令嬢達の瞳はギラギラとしていて怖い。獲物を狙う猛禽類のような、蹴散らしてやりたい嫌悪を強く感じて、気分が悪くなってしまう。自分の事で手が一杯だし、私は昔からギベオンにしか興味が無いから知らないわよ。
 聞いている令嬢にもそう言えれば良かったのだけど、話しかけてきている令嬢よりも、怖い感情を向けてきている数の方が圧倒的に多い。

「モルガ男爵令嬢、マナー講座の事で話があります。時間を今直ぐに頂きたい」
「…ま、か、カルシリカ侯爵令息様」
「マウシットで大丈夫です、お話中ですが私も急ぎの用事がありますので宜しいでしょうか?」
「は、はい!」
「マウシット様がお先に!」

 どう見ても強引に話しかけてきたのに流石侯爵家の令息様ですね、私の返事を待つまでも無く令嬢達が道を開けてくれました。私を待っていてくれたギベオンも居ました。

「ギベオン、こっちに…」
『ルチルレイ』
「モルガ男爵令嬢、申し訳ありません。此方では騒がしいので闇の聖獣殿と一緒に来て頂きたい」

 令嬢達から逃げられたのは嬉しいけど、硝子越しにじっと私を見つめてくる青い瞳が、冷たくて痛くて怖い。何もしていないのに、嫌な汗が背筋を伝っていくのが解る。近寄ってきたギベオンに人型になってもらいたいけど、今は貴族科の教室だから頼めないのが辛い。

(ああ、何てこの学園は息がし難いのだろう。王族なんて知らない、上級貴族なんて知らない。私は…私はギベオンとこのまま…)


 ―闇の世界に、溶け込んでしまい……。


「ルチルレイ嬢、大丈夫か?」
「どうしたの?ぼんやりとしてるけど、大丈夫?」
「先程、男爵令嬢と伯爵令嬢から話しかけられていたのですが…」
「マウシットは女性の扱いが下手だからなぁ」
「軽い貴方に言われたくありませんよ、ジャスパー」
「話しかけるのが恥ずかしかったんだよね、マウシットは」

 キラキラと光る綺麗な金色の髪、細められた不思議な色合いの紫の瞳が、ゆっくりと私の靄を晴らしてくれる。視界がはっきりしてきて、青い瞳はそのままなのに、頬を赤くしてそっぽを向いているマウシット様が居る。楽しそうな笑みを浮かべたジャスパー様もいる。

「カフェでお茶を飲んでいたんだ、モルガ男爵令嬢も一緒にどう?美味しいお菓子もあるから、付き合ってくれると嬉しいな」
「わ、私で宜しければ。喜んで」
『なるほど、光属性か』
「ギベオン?」
『ルチルレイ、行こう』

 楽しそうに揺れるギベオンの尻尾と、楽しそうな三人の笑顔。どうしてかしら、あのままギベオンだけでいいと思っていたのに、他には何もいらないとさえ思っていたのに、今はこの温かい場所にもっといたいと思う。
 スカートの裾を引っ張るギベオンに促されながら、私は三人の背中を追い駆けた。


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