27 / 71
試験開始です。
光と闇の密かな攻防
「あ、あの、リモナイト殿下…っ、リィ様!」
「ふふっ、やっと呼んでくれた」
救護室とは全く正反対の廊下を歩き続けるリモナイト殿下に、私は何度も声を掛けるけど返事はかえって来なくて、仕方無しにリモナイト殿下の愛称で呼びかけると、嬉しそうに天使の微笑みを浮かべて振り返ってくれた。
本人にしてみれば、悪戯が成功したって思っているのでしょうが、私のHPはゼロになりそうです。今日はダンスの試験なのに、こんなに色々あるなんて聞いてませんよ。
「救護室はきっと一杯だと思うんだよねー、足を挫いたとか多そうじゃない?」
「それはそうですけど…」
「パートナーを見つけられなかった見栄だけの下級貴族って、逃げ場に救護室を選ぶって聞いてるんだけど、本当なのかなぁ?」
「……あの、リィ様。そんな具体的な話を、どなたからお聞きになりましたの?」
「ジャスパー!」
(弾ける様な笑顔が眩しい!!…じゃなくて!ジャスパー様なんて事を!)
リモナイト殿下に引っ張られてやってきたのは、他の貴族専用に作られた休憩室ではなく、学園の生徒の代表が集まって会議をする部屋だった。現代でいう『生徒会』のようなものなんですが、ラズーラ殿下が会長の役割を担っています。補佐はアイクお兄様とマウシット様が勤めています。
「ここなら、邪魔されないでゆっくりと…」
「リモナイト様!」
声を掛けられて振り返ると、其処には可愛らしいピンクのふわっとしたドレスを身に纏った御令嬢がたって居ました。ルチルレイの方が可愛いですが、此方の御令嬢も目がぱっちりと大きくて可愛らしいです。試験にしてはやたらとドレスがヒラヒラしていますが、大丈夫かしら…。
「そろそろ試験の順番です、お探ししておりました」
「あれ?僕の相手ってカリーノ男爵令嬢だったと思うんだけど、どうしてフェズリ伯爵令嬢が?」
「カリーノ様は不運にも先程足を挫かれたそうですの、ですから私が代わりにと」
(決まったって聞いてたから安心してたのに、未だに足の引っ張り合いしてる!?あー…でもアイクお兄様も相手がコロコロ変わるから、去年は私で安心できたって笑ってましたね)
侯爵令嬢に怪我をさせようとする猛者なんて、そうそういませんからね。たとえ私がよく一人で居るからとはいえ、聖獣のハウライトとオブシディアンが守ってくれています。そういえば、ルチルレイの相手のマウシット様も人気は凄いはず。ルチルレイは大丈夫なのかしら?その辺はヒロイン補正でも掛かるの?
「相手が勝手に怪我をしたなら、選択権は僕にある。どうして勝手に決めたりした?」
「も、申し訳ありません!ですが、皆パートナーも決まってまして」
「皆?おかしいな、相手の決まっていない連中なら、救護室に集まっているんだろう?」
この切り替えの早さ、ツンだけしか持って居ないリモナイト殿下は容赦無しです。青い顔をしているフェズリ伯爵令嬢がかわいそうなくらい。
(此処で、リモナイト殿下ではなくて伯爵令嬢を気にしている私は、やっぱり前世に恋愛をするトキメキを置いてきてしまったのかもしれない。この人だけをと真っ直ぐに見つめるあの気持ちには、まだなれない)
「リモナイト殿下、私もそろそろ試験ですから参りますわ。パートナーが待っていますから。フェズリ様も此れからお相手を探すのは大変かと思いますの、怪我をされたカリーノ様の折角のお申し出ですし、ご一緒に参りませんか?」
「アリア…」
「また後日、王宮で練習される機会がありましたら、お呼びいただけますと光栄ですわ」
にっこりと微笑みを浮かべリモナイト殿下を促すのは、長年一緒に遊んでいた従兄妹の役目でしょう。一瞬だけ瞳に浮かんだ泣き出しそうな顔に、胸がズキリと痛んで息が苦しくなった。
「アリア、順番だそうだ」
「ギベオン」
背後から大きな腕が私を抱き込んで、落ち着く甘やかな香りに包み込まれる。オブシディアンもそうだけど、闇の守護聖獣は落ち着く香りをしている。ゆっくり瞳を閉じて、心のざわめきを沈めて、私はリモナイト殿下に一礼をすると試験会場へと歩き出した。
「いいのか?あの王子と踊らなくて」
「ギベオンが私のパートナーです。そんなに相手を変えるものではないの、はしたないでしょう?」
「人はよく分からんな」
「…そうね、自分でもそう思うわ」
早くオブシディアンとハウライトを抱き締めたいと心の中で呟いて、ギベオンにエスコートされて入った試験場は、大きな舞踏会用のホール。丁度入れ違いのタイミングを狙ったとおり、試験が終わってマウシット様と出てくるルチルレイと目が合った。
驚きで目を丸くし、その空色の瞳に黒い影が宿る。魔力を持たないマウシット様では、直ぐにその気配には気がつかないけど、何か違和感を感じるのか辺りを訝しげに見回している。
(足元からゾクゾク来てるわ…)
「ハウライト」
「にゃあ」
私の声にハウライトの体が淡く光りだす。
ハウライトが放っている光は、光の属性の防御魔法。気付かれないくらい極微量の薄い膜が私を守ってくれる。じわじわと纏わり付いていたあの気持ち悪さは感じないけれど、私の邪魔をしようと黒い影が絡み付いてくるのが分かる。
「アリア、いけるか」
「勿論ですわ、こんな邪魔程度で、侯爵令嬢が試験を落とすわけないでしょ」
「強気だな、お前は」
ステップを踏む足と、ギベオンに差し出した手に少し力を籠め、真っ直ぐにギベオンを見つめ優雅に微笑みを浮かべる。魔の気配をしっかりと感じとっているギベオンは、それはもう蕩けそうな微笑みを浮かべて愛しげに私を見つめ返してきた。雰囲気はバッチリ過ぎて困るくらいだよ!
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました
三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。
助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい…
神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた!
しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった!
攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。
ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい…
知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず…
注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。
幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい
ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26)
鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。
狭い個室にはメイド服がかかっている。
とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。
「この顔……どこか見覚えが……」
幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。
名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー)
没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。
原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。
「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」
幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。
病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。
エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18)
全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。
タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない
miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。
家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。
いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。
「僕の心は君だけの物だ」
あれ? どうしてこうなった!?
※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。
※ご都合主義の展開があるかもです。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
そう名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️