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梛桜

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僕のお姫様(リモナイト視点)

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 僕がその子に出会ったのは、七歳の時。王宮から出られない、僕達王族の子供に付けられた遊び相手の一人が、アメーリアだった。五歳の時に既にマウシットが付けられていたけど、アメーリアはどうして選ばれたんだろう?しかも、わざわざ王妃であるお母様の私室で。

「初めまして、リモナイト殿下。アメーリア=アトランティと申します」

 小さいのに気品あるカーテシーを披露して、にっこりと僕に微笑みを向ける。ラズ兄様の遊び相手として王宮に上がっていた、アイドクレーズの自慢の妹。綺麗なアメジスト色の瞳がキラキラしていて、笑みを浮かべる口元が赤い宝石みたいで、可愛いというよりもとても綺麗な女の子。

「僕、マウシットがいます」
「この子はね、お母様の親族のお嬢さんなのよ。リモナイト」

 白くて柔らかなお母様の手が僕の髪を撫で、微笑みを向ける。生まれつき身体の弱い僕をお母様は心配して、溺愛していると侍女長が話しているのを聞いた事がある。ラズ兄様は、もう僕くらいの年齢で勉強を始めていたのにって。
 僕の身体が弱いから、王族に課せられているはずの毒を体に慣らして行くことさえ出来ないのだと言っていたのは、どの臣下だったかな。

(役立たずの僕は、早く臣籍降下してラズ兄様を立太子させようと言う話だって、聞いて知ってるんだから)

 身体が弱いというだけで臣下達から侮られている僕は、言っても分からない馬鹿だろうとも思われているようだった。そんなわけ無いじゃないか。心に突き刺さる言葉は、全部覚えているんだから。


 だから、信用できない侍女達が嫌いだった。

 だから、信用できない者が作る食事を食べたくなかった。


 勉強はラズ兄様と一緒に受けて覚えているし、術の勉強になったらマウシットと一緒に受けようと思っている。誰も僕の側には要らない。ラズ兄様と、アイドクレーズとマウシットがいればそれでいい。

「リモナイト殿下は、甘いお菓子はお好きですか?」
「……きらい、王宮の食事はおいしくない」

 僕がポツリと呟いた言葉に、お母様が悲しそうな顔をするのはいつもの事で、ラズ兄様も困った顔をする。だけど仕方無いと思うんだよね、僕は役立たずなんでしょ?

「むぐっ」
「では、此方のお菓子はどうですか?」

 いきなり押し込まれたお菓子は、王宮で作っているお菓子に比べて甘さも華やかさも無いのに、美味しかった。おなかが空いたって思いも最近は無かったのに、目の前で微笑みを浮かべるアメーリアの温かくて優しい手が頬に触れた。

「…おいしい、これ」
「我が家特製のお菓子です、王妃様からのご要望でお届けいたしましたの」
「お母様が?」
「ねぇ、リィ様。嬉しい時はにこってするんですよ」

 小さな子供にするように、頬をムニムニと触られる。ラズ兄様くらいしかしてこなかったけど、ラズ兄様とは違う優しくてくすぐったい。大きくなった今では、その行為は王族にとってどうなんだろう?って思うけど、其れがアリアだから。そして、そのアリアの言葉にほんのりと笑みを浮かべた僕に、お母様が涙を零したのを今でも覚えている。

「笑ったリィ様は可愛いですわ」
「僕、男なんだけど」
「拗ねても駄目ですわよ?可愛いのは可愛いですもの」
「アメーリアの方が可愛い」
「アリアですわ、リィ様」

 言葉を返す僕に、にっこりと嬉しそうに笑ったそのキラキラとした笑顔は、僕を見惚れさせるには十分の破壊力だった。それから、僕が唯一食べるようになったアトランティ家のお菓子は、お母様が手に入れただけでなく、アリアと僕を繋ぐ大切な物となった。




「リィ様、危険です早く外に!」
「何を言ってるのアリア、僕はこの国の王子なんだけど?あと、僕が結界を張ってるのに壊れると思ってるの?」
「そういうわけでは…」

 僕の袖をしっかりと掴んで逃げ道を探そうとするアリアに苦笑を浮かべ、ポンポンと其の手を宥めるように叩くと、眉を寄せて困った顔をする。僕の可愛いお姫様は、侯爵令嬢なのに相変わらず表情が豊かだ。

「大好きな子を守りたいんだけど?」
「へ?」

 僕の言葉に、一瞬だけアリアが目を丸くした。動きが固まっているアリアの手をとり、その指先に唇を寄せて、そのまま上目遣いに微笑みを浮かべると、アリアの白い頬が赤く染まる。ああ、こんな顔だって可愛い。アリアの笑顔に行動に、僕はいつも見惚れてしまって、何度も好きになる。

「アメーリア嬢、私は貴女を愛しています。どうか、私に貴女を守る栄誉をお与え下さい」
「えええ!?り、リィ様!?」
「ちゃんと気付いてよね?僕何度も態度で言ってたんだけど!」
「な、でも、今言うの!?」

 赤い顔で慌てだしたアリアに笑みを零して、光の壁が解けてしまわないように、もう一度集中しなおした。

 今するべき事は、ホールに溢れている魔の存在を祓う事。アリアを狙うなんて許さないから。

 やっと僕の想いを知ってもらったんだから、今度からは手加減しないよ?

 覚悟しててね、僕だけのお姫様。



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