33 / 71
試験開始です。
合同試験を開始します。
瞳を開けると、其処にあるのは見慣れた懐かしい自分の部屋。寮に入る前と何一つ変わらない調度品と、ピンクを基調に整えられたカーペットや壁紙。
(どうして、屋敷に…?)
『目が覚めたか、ルチルレイ』
「ギベオン…」
見覚えのある懐かしい天井、聞き覚えのある声がベッドの横から聞こえてきて身体を起こした。狼の姿のギベオンは、起き上がった私に安心したのか、ゆったりと大きな尻尾を振っていた。
此処最近、ずっと靄のようにぼんやりしていた頭がスッキリとしていて、今まで感じていたギベオンへの嫌悪感や恐怖感は何だったのだろうと首を傾げたくなる。
『此処はモルガ家のお前の部屋だ、あのままではまた憑かれてしまうからな』
「つかれる…?なにに?」
『お前を惑わす『魔』というやつだ』
頭に優しく響くギベオンの言葉に、寝惚けていた思考がゆっくりと動き出す。それと共にズキリと痛む頭に顔を顰めた。狼姿のギベオンがそっと近付いて、私の頬に鼻先を摺り寄せる。
「冷たいわよ、ギベオン」
『戻ったな』
「私、いったい何をしていたの?去年寮に入ってから記憶が曖昧なの」
深く息を吸ってゆっくりと吐く、それだけで心が落ち着いてくるけど、靄が掛かっている記憶も晴れていくようだった。狼姿のギベオンが大きくて怖いとは思っていたけど、私を助けてくれる頼もしい守護聖獣。邪険にすることは無かったけど、異常なほどに執着している自分を思い出した。
「ギベオン、ごめんなさい…」
『謝るべきは、我ではない』
「貴方と一時でも離れるべきじゃなかったのね、まさか他の何かに狙われるなんて思わなかったの」
『アリアと第二王子に礼を言った方がいいだろう、我は向かう。ルチルレイは暫く学園を休んだほうがいい』
「わた、私、本当に何をしたの!?」
『魔に憑かれていたのだ、男爵家を離れての寮生活はルチルレイには危険だ』
ギベオンは一方的に自分の言いたい事を言ってしまうと、窓から飛び出してしまった。真っ暗な闇夜でも、闇の守護聖獣のギベオンでは何とも無い。だけど、この日くらいは側に居てくれてもいいのにと愚痴りたくなった。
(駄目ね、先に思い出さないと。アトランティ家のアメーリア様だけでなく、リモナイト王子様にも迷惑をかけるとか、私本当にどうしたらいいの…)
記憶が後から思い出されるだけに、やってきた数々の失礼を思うと泣きたくなってしまった。次から始まる合同試験も、どうして私はラズーラ王子様達と組んで当たり前だとか思っていたのか、傲慢な自分が恥ずかしくて、穴があったら埋まりたいくらいよ。
今まで散々寝ていたはずなのに、顔から引いていく血の気。どうやって声を掛ければいいのかさえ解らない。
「ああ、そういえばジャスパー様にも、ご指導を受けたマウシット様にも失礼な態度をしているわ!」
何は無くとも、一番失礼な態度をとっていたであろうアメーリア様にまず謝らないといけない。そんな決心をしていたのに、ギベオンが私を学園へと連れて行ってくれたのは、合同試験が始まる当日でした。
****
「結界を?でも中に『魔』が潜んでるかもしれないのよ?」
「ルチルレイの部屋だけでいい」
「寮の?でも、私寮にお部屋が無いから入れないわよ」
「アリアは使えぬな」
「煩いわよ、失礼ね」
カフェテリアのテーブルに並んで座りつつ、目の前に広げているのは、アズラが簡易に書いてくれた学園の見取り図。どこかに潜んでいる『魔』から、まだ無防備なルチルレイを守る為に、光魔法で結界を張れと、ギベオンに無茶振りをされています。
テーブルに居るのは私とギベオンとアズラとリィ様とジャスパー様とマーカサイト様です、合同試験でのメンバーですが、お仕事という名前のダンス試験での後始末があるラズ殿下とアイクお兄様とマウシット様は抜けています。私の足元にはちゃんと、ハウライトとオブシディアンが居ます。結構大所帯ですね。
「いっそ、学園全体を纏めて浄化しちゃうとか?」
「リィ様、それをやってしまうと神殿が煩いだけでは留まりませんわ。それに膨大な魔力が必要ですわね」
「それをやって倒れてみろ、烈火の如く怒るラズーラ殿下と氷の微笑で怒るアイドクレーズの顔が浮かぶぞ」
「それは…」
(絶対やったらアカンやつです!ジャスパー様言ってくれてありがとう!)
お仕事のあるラズーラ殿下と、それの補佐をしているアイクお兄様を思い出して、背中に悪寒が走り身震いしていまします。隣に座っているリィ様も、ラズ殿下を思い出したのか苦笑を浮かべてますね。
「でしたら、ルチルレイ嬢をアトランティ侯爵家に避難させては如何ですか?光魔法を使えるアメーリア姉様と、光の守護聖獣様がいらっしゃるのですから『魔』への対策は万全ですし、闇の守護獣のギベオン様とオブシディアン様が揃うのですから、並大抵のものは近寄れないはずです」
それまで静かに紅茶を飲んでいたマーカサイト様が、音も立てずにカップを置き、にっこりと微笑みを浮かべて案をだしてくれました。皆目からうろこです、それしても良いなんて思いつかなかった!こんな時くらい上位貴族の権力発動してもいいじゃない!
普段の庶民根性ですっかり忘れてたよ、こんな時こそ使える特権階級!何て便利。
「知っていたけど、本当にマーカサイト様は機転が利くわね。合同試験の日に学園に来るなら早速準備しておかないと。マーカサイトのお陰よ」
「なら、昔みたいにご褒美を頂いてもいいですか?アメーリア姉様」
「ええ勿論よ、何がいいかしら?昔は好きなお菓子だったけど…」
昔からラーヴァの無茶を笑顔で聞いてくれるマーカサイト様に、よくお菓子を差し上げたものです。年を重ねる事に遊んでいられなくなったので、お菓子を差し上げる機会は無くなってしまいましたが。
マーカサイトの頼み事を待っていると、なぜかじっと見つめてくる。アズラよりも深い緑色の瞳がふわりと優しく細められた。
「でしたら、僕とルチルレイ様二人っきりで話をさせて下さい」
可愛いラーヴァと同じ様に可愛がって構ってきた弟分は、もしかしたらルチルレイとのイベントが進んでいたのでしょうか?今まで出なかった言葉が飛び出したのでした。
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました
三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。
助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい…
神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた!
しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった!
攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。
ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい…
知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず…
注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。
幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい
ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26)
鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。
狭い個室にはメイド服がかかっている。
とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。
「この顔……どこか見覚えが……」
幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。
名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー)
没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。
原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。
「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」
幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。
病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。
エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18)
全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。
タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない
miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。
家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。
いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。
「僕の心は君だけの物だ」
あれ? どうしてこうなった!?
※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。
※ご都合主義の展開があるかもです。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
そう名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️