攻略なんてしませんから!

梛桜

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試験開始です。

合同試験を開始します。

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 瞳を開けると、其処にあるのは見慣れた懐かしい自分の部屋。寮に入る前と何一つ変わらない調度品と、ピンクを基調に整えられたカーペットや壁紙。

(どうして、屋敷に…?)

『目が覚めたか、ルチルレイ』
「ギベオン…」

 見覚えのある懐かしい天井、聞き覚えのある声がベッドの横から聞こえてきて身体を起こした。狼の姿のギベオンは、起き上がった私に安心したのか、ゆったりと大きな尻尾を振っていた。
 此処最近、ずっと靄のようにぼんやりしていた頭がスッキリとしていて、今まで感じていたギベオンへの嫌悪感や恐怖感は何だったのだろうと首を傾げたくなる。

『此処はモルガ家のお前の部屋だ、あのままではまた憑かれてしまうからな』
「つかれる…?なにに?」
『お前を惑わす『魔』というやつだ』

 頭に優しく響くギベオンの言葉に、寝惚けていた思考がゆっくりと動き出す。それと共にズキリと痛む頭に顔を顰めた。狼姿のギベオンがそっと近付いて、私の頬に鼻先を摺り寄せる。

「冷たいわよ、ギベオン」
『戻ったな』
「私、いったい何をしていたの?去年寮に入ってから記憶が曖昧なの」

 深く息を吸ってゆっくりと吐く、それだけで心が落ち着いてくるけど、靄が掛かっている記憶も晴れていくようだった。狼姿のギベオンが大きくて怖いとは思っていたけど、私を助けてくれる頼もしい守護聖獣。邪険にすることは無かったけど、異常なほどに執着している自分を思い出した。

「ギベオン、ごめんなさい…」
『謝るべきは、我ではない』
「貴方と一時でも離れるべきじゃなかったのね、まさか他の何かに狙われるなんて思わなかったの」
『アリアと第二王子に礼を言った方がいいだろう、我は向かう。ルチルレイは暫く学園を休んだほうがいい』
「わた、私、本当に何をしたの!?」
『魔に憑かれていたのだ、男爵家を離れての寮生活はルチルレイには危険だ』

 ギベオンは一方的に自分の言いたい事を言ってしまうと、窓から飛び出してしまった。真っ暗な闇夜でも、闇の守護聖獣のギベオンでは何とも無い。だけど、この日くらいは側に居てくれてもいいのにと愚痴りたくなった。

(駄目ね、先に思い出さないと。アトランティ家のアメーリア様だけでなく、リモナイト王子様にも迷惑をかけるとか、私本当にどうしたらいいの…)

 記憶が後から思い出されるだけに、やってきた数々の失礼を思うと泣きたくなってしまった。次から始まる合同試験も、どうして私はラズーラ王子様達と組んで当たり前だとか思っていたのか、傲慢な自分が恥ずかしくて、穴があったら埋まりたいくらいよ。
 今まで散々寝ていたはずなのに、顔から引いていく血の気。どうやって声を掛ければいいのかさえ解らない。

「ああ、そういえばジャスパー様にも、ご指導を受けたマウシット様にも失礼な態度をしているわ!」

 何は無くとも、一番失礼な態度をとっていたであろうアメーリア様にまず謝らないといけない。そんな決心をしていたのに、ギベオンが私を学園へと連れて行ってくれたのは、合同試験が始まる当日でした。

****


「結界を?でも中に『魔』が潜んでるかもしれないのよ?」
「ルチルレイの部屋だけでいい」
「寮の?でも、私寮にお部屋が無いから入れないわよ」
「アリアは使えぬな」
「煩いわよ、失礼ね」

 カフェテリアのテーブルに並んで座りつつ、目の前に広げているのは、アズラが簡易に書いてくれた学園の見取り図。どこかに潜んでいる『魔』から、まだ無防備なルチルレイを守る為に、光魔法で結界を張れと、ギベオンに無茶振りをされています。
 テーブルに居るのは私とギベオンとアズラとリィ様とジャスパー様とマーカサイト様です、合同試験でのメンバーですが、お仕事という名前のダンス試験での後始末があるラズ殿下とアイクお兄様とマウシット様は抜けています。私の足元にはちゃんと、ハウライトとオブシディアンが居ます。結構大所帯ですね。

「いっそ、学園全体を纏めて浄化しちゃうとか?」
「リィ様、それをやってしまうと神殿が煩いだけでは留まりませんわ。それに膨大な魔力が必要ですわね」
「それをやって倒れてみろ、烈火の如く怒るラズーラ殿下と氷の微笑で怒るアイドクレーズの顔が浮かぶぞ」
「それは…」

(絶対やったらアカンやつです!ジャスパー様言ってくれてありがとう!)

 お仕事のあるラズーラ殿下と、それの補佐をしているアイクお兄様を思い出して、背中に悪寒が走り身震いしていまします。隣に座っているリィ様も、ラズ殿下を思い出したのか苦笑を浮かべてますね。

「でしたら、ルチルレイ嬢をアトランティ侯爵家に避難させては如何ですか?光魔法を使えるアメーリア姉様と、光の守護聖獣様がいらっしゃるのですから『魔』への対策は万全ですし、闇の守護獣のギベオン様とオブシディアン様が揃うのですから、並大抵のものは近寄れないはずです」

 それまで静かに紅茶を飲んでいたマーカサイト様が、音も立てずにカップを置き、にっこりと微笑みを浮かべて案をだしてくれました。皆目からうろこです、それしても良いなんて思いつかなかった!こんな時くらい上位貴族の権力発動してもいいじゃない!
 普段の庶民根性ですっかり忘れてたよ、こんな時こそ使える特権階級!何て便利。

「知っていたけど、本当にマーカサイト様は機転が利くわね。合同試験の日に学園に来るなら早速準備しておかないと。マーカサイトのお陰よ」
「なら、昔みたいにご褒美を頂いてもいいですか?アメーリア姉様」
「ええ勿論よ、何がいいかしら?昔は好きなお菓子だったけど…」

 昔からラーヴァの無茶を笑顔で聞いてくれるマーカサイト様に、よくお菓子を差し上げたものです。年を重ねる事に遊んでいられなくなったので、お菓子を差し上げる機会は無くなってしまいましたが。
 マーカサイトの頼み事を待っていると、なぜかじっと見つめてくる。アズラよりも深い緑色の瞳がふわりと優しく細められた。

「でしたら、僕とルチルレイ様二人っきりで話をさせて下さい」

 可愛いラーヴァと同じ様に可愛がって構ってきた弟分は、もしかしたらルチルレイとのイベントが進んでいたのでしょうか?今まで出なかった言葉が飛び出したのでした。

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