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試験開始です。
観戦はお静かに。
しおりを挟む観戦用の入り口は一見普通の大きな扉なのですが、魔法の暴発が起きても外には被害が出ないように、魔法防御の術が掛かっています。魔法攻撃の練習もしますので、会場全体に防御の魔法がしっかりと何重にも掛かっているのは、流石王国屈指の学園です。
前世でいう体育館ほどの大きさの会場と、二階に上がれる階段があり、其処から試合を観戦出来るように普段は椅子などが置いてありますが、今は人数が人数ですので避けられています。
(だけど、忘れてましたわねぇ…。ルチルのチームメンバーが攻略対象者を集めたチームだというのを)
二階席に上がった途端、増える女生徒の数。いや、これ、本当にどっから増殖したよ?私達の試合の時は全然だったよね?制服から見るに、魔法特進科と貴族科と普通科。騎士科も一応ちらほら居ますが、圧倒的なのはやはり関係の無い女生徒です。たまに戦術データを取るための子も居ますが。
「あれ?ギベオン様、人型になっていないんですね?」
「本当ね、でもこのギベオンの方が可愛いですわ。尻尾のもふもふ具合が良く解って最高ですし」
ニコニコとギベオンに目をやる私に、アズラとセレナは拗ねた顔をしてます。アイクお兄様は肩を震わせて笑うのを堪えていますが、マーカサイト様は相変わらずですね。とにこやかな微笑みをくれました。モフモフ好きはいつでも全力ですとも。
「ルチルレイ嬢の聖獣様なら、何度か人型になられましたが、その後から観覧希望者が殺到した様で…。相手方からの苦情もあり、人型を控えているそうです」
「全力を出せないのは不利ですわね、その辺りはどうなってますの?」
「もともと、ラズーラ殿下の炎魔法とジャスパーの剣技で敵無しですから」
(ここにも居たな、チートを手に入れた攻略対象者が)
魔力を練りこんだお菓子を食べていたのは、何も我が家の兄弟達だけではありません。ラズーラ殿下はリィ様から、ジャスパー様はアイクお兄様やマーカサイト様から頂いていたようで。火属性が炎に特化したのがラズーラ殿下、剣技をより強くしたのがジャスパー様です。
「ラズ殿下は兎も角、ジャスパーは只の剣術馬鹿なんだけどね」
「アイクお兄様…」
(アイクお兄様は、時たまジャスパー様にとても厳しいです。普段はとても仲良しですよ、ラズーラ殿下を補佐する面では本当に息ぴったりですし、長年の付き合いもありますから家族よりも地を見せている気がします)
それにしても……。
オブシディアンと違って、ギベオンは昼間でも自由に人型になれる魔力を持っています。当然夜の方が力は増しますし、ギベオンの世界である闇の中へと入れば無敵です。でも、どこに居てもどんな姿でも差無く力を使えてこそ真の聖獣だと、オブシディアンに教えを説いているギベオンです。狼の姿でもきっと大丈夫でしょう。
(でも、人型になったからって観戦者が殺到するとかって、解せぬ。あの魅惑のモフモフの方がいいでしょう!?求む激しく同意!)
「ラズ殿下とリィ殿下だけなら、こっそりの方がいいかと思ったんだけどね」
「アイクお兄様甘いですわ、リィ様は平民の女性の中でも大人気でしてよ。それに、マウシット様も入ってますから、普通科の女生徒も沢山居ますわね」
「マウシット様は、試合には出ないのですけどね…」
「アズラ、そこはしーっよ。言っちゃ駄目」
ルチルのチームは守護聖獣のギベオンに、ラズ様リィ様ジャスパー様、参謀としてマウシット様が参加しているので、貴族科の生徒が殺到するのは仕方無いです。王族に宰相を務める上位貴族の子息、そして王族の覚えも目出度い騎士様です。
二階席が一杯なのも納得なのですが、私、アイクお兄様とアズラが一緒で本当に良かった!この観客数だったら入り口で挫けてますもの!
「あの、僕が獣化しようか?少しは隙間出来るかも」
「うん、駄目。それだと、こっそりにならないよアズライト」
「あ、そうか…」
アズラの提案をマーカサイト様があっさりと却下してましたが、此処でアズラが獣化したら目立つよりも阿鼻叫喚再びですよ。混乱必死、駄目絶対。にっこり笑って駄目出ししたマーカサイト様、アズラには昔から強い。
「其処の平民、席を空けなさい!」
只でさえぎゅうぎゅうの観覧席なのに、聞こえてきたのは空気を読まない偉そうな声。ざわざわと驚きの声が広がっていきます。まぁ有るとは思っていましたが、こんな場所でやる必要なくないですか?見たいなら最初から席を取っておきなさいよって話です。
「え、で、でも…。私今日はずっと此処で場所をとってて」
「平民が煩いのよ、此方の方は侯爵家の御令嬢様なのよ!?」
「そうよそうよ!」
「ですけど、次は友達の応援もありますし」
「私は、席を空けなさいと言っているのよ。私は貴方と違って、王子様の婚約者にもなる身分ですのよ」
騒ぎの元へと野次馬よろしく顔を出してみると、気の弱そうな普通科の女生徒が絡まれています。相手は命令するのに慣れた貴族科の令嬢のようですね。というか、侯爵だって?どこの家の馬鹿ですか。
聞こえて来る話は、女生徒は次のルチル達の対戦相手の友達のようです。そりゃ全力で応援したいですよね。普通科の生徒って事は騎士科か魔法特進科にいらっしゃる生徒のお友達でしょうし、対戦相手はまだ見ていませんが、もしかしたら恋人かもしれないじゃないですか。
「アイクお兄様、どなたか見えまして?」
「ああ、デマント侯爵家の御令嬢だよ。末の令嬢だね」
アイクお兄様に誰か確認して貰うと、この方のお姉様がラズ様の婚約者候補として名前が上がっている方でした。デマント侯爵家は王家の財政を管理している家ですが、最近きな臭いとラズーラ殿下が言っていたのを覚えています。
まぁ、家柄で候補とか勝手に言ってるんだろうけど、残念ながらラズーラ殿下は家柄だけでは見向きもなさいませんし、そもそも候補はお姉様の方ですからね。大事なことですから何度でも言います。
(貴女は候補にすらなりません、デマンド家の末娘の成績は最下位から数えたほうが速い)
「私が行きますわ、セレナをお願い致します」
「アリア、僕が共を。こんなに人が多いと潰されちゃうから」
「ありがとう、お願いするわアズラ」
生徒の視線が集中している場所へは、確かに行くだけでも大変です。アズラに守って貰いつつ、向かっていくので骨が折れます。此処までよく歩いたわねあの方。
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