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上位試験開始
いろいろ不安になりました。(ルチル視点)
しおりを挟む「お帰りなさいませ、アイドクレーズ様、アメーリア様」
アトランティ家の学園登校用の馬車に、半強制的に押し込まれ、ニコニコ顔のアイドクレーズ様と満足気に微笑みを浮かべるアメーリア様に挟まれ、内心ひぇぇええ!と言葉にならない悲鳴を上げて居ましたが、到着したアトランティ家を前にして、私の頭の中は真っ白になりました。
出迎えてくれたのは、家令を筆頭に寸分無き見事な角度で礼をするメイド達。圧倒されている私の腕をとり、アメーリア様はずるずると屋敷へと引き込んでいきます。
(わ、わわ私、本当にいいの!?ねぇ!ギベオン助けて!)
「わ、私本当にお世話になっても宜しいのでしょうか?」
「勿論よ、ここはハウライトとオブシディアンの結界もあるからのんびりしてね」
「ギベオンでは力不足なのです」
「ハウ、力が違うだけ」
「…え、あの、ハウライト様とオブシディアン様…?」
屋敷に入った途端に聞こえてきた、可愛らしい少年の声が二つ。白銀の髪と左を金に右目を青に色付けた可愛らしい少年、そして黒の髪と左を青に右目が金に色付いた大人しそうな少年。二人の頭には、同じ形の色違いの耳と、お尻から見える尻尾。
ハウライト様は学園でも見たことがあったけど、オブシディアン様の人型を見るのは初めてで、色合いだけだと、本当に闇の守護獣なのだと、今更ながらに納得できた。
(ギベオンも、昔はこんな感じだったのかしら…)
隣で座っている狼姿のギベオンへ視線を向けると、銀色の瞳が真っ直ぐに私を見つめてきた。
『どうした?ルチルレイ』
「ギベオンは、緊張しないの?」
『ああ、初めてでは無いからな』
「!?」
思いもしなかったギベオンの言葉に声を失っていると、廊下をパタパタと走る音が聞こえて来る。その音を耳にした瞬間、アメーリア様の表情が柔らかいものへと変わって、アイドクレーズ様の顔も仕方無いな、と慈しむものへと変わる。
「屋敷は二人の結界の範囲内だからこの姿でいられるの、ラーヴァとお出掛けのときは子猫の姿にどうしてもなってしまうけど」
「時々なら、この姿で屋敷の庭でラーヴァと遊んでいるけどね」
「お帰りなさいアイクお兄様、アリアお姉様!ようこそアトランティ家へ」
言葉と同時に空を飛んで飛び込んできた金色の柔らかそうな髪、蜂蜜を思わせる蕩けそうな琥珀色の瞳。ふわりと床へと落り立ち、にっこりと笑みを浮かべて一礼をしてくれる。
(なんて可愛らしい…)
帰りの馬車の中で、アメーリア様が弟様の可愛さを延々語っていたのが納得です。アイドクレーズ様は苦笑を浮かべていましたが、これは激しく同意したい。アズライト様の従兄妹のセレナローズ様も認める可愛さと聞いていた時は首を傾げるだけでしたが、今は首がもげそうなくらい頷けます。
「お部屋は私の隣に用意させましたの、一度荷物の確認をしてくださいね。オブシディアンが案内してくれますから」
「は、はい!」
「ラーヴァ、おやつの用意を致しましょうね。手伝ってくれる?」
「はい、アリアお姉様!リピド一緒に行こう」
弟のラーヴァ様と一緒におやつの用意に向かったアメーリア様ですが、そういうのってメイドの仕事じゃないんでしょうか?首を傾げていると、隣にいたアイドクレーズ様がクスクスと笑みを零していた。
「アリアは昔から自分でやりたがるんだ、部屋を確認しているといい」
「は、はい。ありがとうございます」
「ルチルレイ、こっち」
くいくいと指先を引っ張ってくるオブシディアン様に、胸がきゅんとなるのを感じ、あわあわしながら案内された客室は、実家のモルガ男爵家の部屋よりも、何倍も豪華で可愛らしくて恐れ多くなりました。
(わ、わたし…いつか倒れないかしら…)
「ギベオン、どうしたらいいの…」
「部屋の片付けをしなくていいのか?そういわれているんだろ?」
「お菓子とお茶を用意したら、この部屋にくるとアリアがいっていた」
部屋にはいると狼の姿から人型に変身したギベオンにせっつかれて、仕方無しに荷物を片付けようとするけど、大きなクローゼットには何故か私のサイズのドレスが詰め込まれていて(ふわふわのレースもシフォンもたっぷりの可愛いデザインです、お姫様のようです)、恐れ多くて慄きました。
「何でドレスまであるのー!?」
「着替え。後でこの部屋のメイドがくる」
「えええ!?わ、私一人できがえますぅぅう!」
「無理。ドレスは手伝いがいるってアリア言ってた」
ベッドに遠慮なく座っているギベオンの膝にオブシディアン様、見ているだけは可愛いその姿にも癒されない。寮にいるかもしれない『魔』の対策が終われば寮に戻れると聞いてますが、お願いしますラズーラ王子様リモナイト王子様、早く、早く調査を終わらせてください!
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