57 / 71
潜む闇
ルミエール様
光の溢れる綺麗で荘厳な学園に建てられた神殿。
キラキラと色彩溢れ、柔らかい光が温かを含んで降り注ぐ祭壇。その前に立つのは、綺麗な顔をした一人の神官。ふわりと微笑みを向けられて、少女は頬を紅く染め微笑みを返す。
その光景が、公式設定でのルチルレイとルミエール神官長の出会い。
「そなたは、この学園の…?」
「はい、魔法特進科に通ってます」
見た事の無い教師は、私の言葉に頷いて微笑みを浮かべた。
そして、そのまま会話を続けようと口を開いた其の瞬間、閉じられた扉の向こうから悲鳴が聞こえてきた。
「何事でしょう…」
「私、見に行きます!」
教師をその場に残し、私は扉へと走り出した。
「ルチルレイ様」
「ハウライト、どうしたの?」
「学園に『魔』が現れたようです、お力をお貸し下さい」
上級貴族の屋敷で働いているような、礼儀正しい言葉遣いや所作。白銀色の猫耳と尻尾、同じ色の髪は金色の瞳を片側かくして伸ばされている。見え難くないのか尋ねたら『大丈夫です、昔からですので』と無表情の口元に少しだけ笑みを浮かべて答えてくれた。
「少し厄介な相手のようです」
「え?いつもみたいに動物に憑いているとかじゃないの?」
「はい、どうやら生徒に獲り憑いているようです」
「ええ!?じゃあ危険じゃない、早く助けてあげないと!」
「くれぐれも、お気をつけ下さい」
急がないと!と意気込む私に対して、ハウライトは淡々返事を返してくる。いつも思うけど、もうちょっと感情を見せてくれてもいいと思うの。初めて逢った日も、ハウライトは私の足元に跪いて『貴女に御仕え致します』とだけ言った。
『殺シテヤル!オマエラ皆、殺シテヤルー!!』
「きゃあああ!」
「誰か、先生達をはやく!」
「騎士科を呼べー!」
『魔』に乗り移られたと言われている生徒からは、黒い靄がかかっていて誰かまでは分からない。剣を手にただ振り回しているだけのようにも見えるけど、手にしているのは騎士科でも使われている本物の剣。
何があって魔に獲り憑かれたのか、こうなってしまっては光魔法で祓うしかない。
(練習用の剣だったらよかったのに…)
騎士科と魔法特進科の合同試験が終わったからこそ、この剣の怖さを私は知っている。練習用の刃を潰した剣だって、当たれば即回復魔法の使い手を呼んでいたくらいなのだから。
「ハウライト、剣に気をつけてね!」
「はい」
「えっと、光魔法の詠唱は…」
動物に獲り憑いたのなら、短文の詠唱でも十分だったけど、今獲り憑いているのは生徒なのだから、失敗は許されない。
ゆっくりと深呼吸して魔力を練り始めると、集中している時ほど周りの音が消えていく。
「ルチルレイ様、危ない!」
「え?きゃああ!」
『水撃弾』
「防御を怠ってはいけませんわね、モルガ男爵令嬢。ギベオン、押さえなさい!」
珍しく慌てたハウライトに引寄せられると同時に、私達の間を水球が飛んで行く。そのまま生徒にぶつかったけど、威力は抑えられていたのか怪我はしていないようだった。艶のある声が私の名前を呼んで、毅然とした態度に凛とした声が響く。
「アトランティ侯爵令嬢…」
「わたくしでは『魔』を押さえることが出来ても、祓うことは出来ませんわ。分かりますわよね?」
「は、はい!」
ただ授業をこなすだけが精一杯の私なんかよりも、優秀なアトランティ侯爵令嬢はにっこりと微笑みを浮かべ、婚約者と噂される王太子様の側へと向かわれる。その背後には、騎士科のジャスパー様や貴族科のマウシット様、第二王子のリモナイト王子様もいて、私は気後れしてしまいそう。
「ルチルレイ様、光魔法を」
「はい!我は願う、彼のものを戒めし魔を光の彼方へと葬り去る事を『彼のものを戒めし魔を祓え』」
掲げた手が光り輝き、辺りには暖かな光が溢れていく。だけど、獲り憑かれている生徒は苦しむだけで、動物のように黒い靄が離れてくれない。
「ハウライト、どうして?」
「『魔』の力が強いのかと思われます」
「ええー!?ど、どうしたらいいのー?」
焦ってしまう私の手に、大きくて温かい手が添えられて包み込まれる。後ろを振り返ると、学園に建てられている神殿施設で出会った教師が、背後に立ってニコリと微笑みを浮かべた。
「私は神殿の最高神官長ルミエールです、光の聖女よ、私の力もお貸し致しましょう」
「さ、最高神官長様…?」
キラキラと輝く光の中、お人形のように綺麗で儚い微笑みを浮かべるその人は、私がよろめかない様にしっかりと支えてくれて、男の人なんだなーって胸がドキドキして、頬が熱くなるのを感じた ー―。
あなたにおすすめの小説
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
【完結】ここって天国?いいえBLの世界に転生しました
三園 七詩
恋愛
麻衣子はBL大好きの腐りかけのオタク、ある日道路を渡っていた綺麗な猫が車に引かれそうになっているのを助けるために命を落とした。
助けたその猫はなんと神様で麻衣子を望む異世界へと転生してくれると言う…チートでも溺愛でも悪役令嬢でも望むままに…しかし麻衣子にはどれもピンと来ない…どうせならBLの世界でじっくりと生でそれを拝みたい…
神様はそんな麻衣子の願いを叶えてBLの世界へと転生させてくれた!
しかもその世界は生前、麻衣子が買ったばかりのゲームの世界にそっくりだった!
攻略対象の兄と弟を持ち、王子の婚約者のマリーとして生まれ変わった。
ゲームの世界なら王子と兄、弟やヒロイン(男)がイチャイチャするはずなのになんかおかしい…
知らず知らずのうちに攻略対象達を虜にしていくマリーだがこの世界はBLと疑わないマリーはそんな思いは露知らず…
注)BLとありますが、BL展開はほぼありません。
幼馴染みが描いた悪役令嬢ものの世界に「メイド」として転生したので、6年後の断罪イベントをどうにか回避したい
ゆずまめ鯉
恋愛
通勤途中、猫好きではないのに轢かれそうな黒猫をうっかり助けてしまい、死んでしまった主人公──水縞あいり(26)
鳥の囀りで目を覚ますとそこは天国……ではなく知らない天井だった。
狭い個室にはメイド服がかかっている。
とりあえず着替えて備えつけの鏡を見ると、そこには十代前半くらいの子どもの姿があった。
「この顔……どこか見覚えが……」
幼馴染みで漫画家、ミツルギサイチ(御剣才知)が描く、人気漫画「悪役令嬢が断罪されるまで」の登場人物だということに気がつく。
名前はミレア・ホルダー(本名はミレア・ウィン・ティルベリー)
没落貴族の令嬢で、現在、仕えているフランドル侯爵によって領地と洋館を奪われ、復讐のために、フランドル侯爵の長女イザベラが悪役令嬢になるのを止めず、むしろ後押しして見事断罪されてしまうキャラだった。
原作は未完だが、相談を受けていたのでどういう結末を迎えるのか知っている。
「二期アニメもまだ見てないし、どうせ転生するなら村人Aとかヒロインの母親がよかった……!!」
幼馴染みの描く世界に転生してしまった水縞あいり=ミレアが、フランドル侯爵家で断罪回避するべく、イザベラをどうにかお淑やかな女性になるように導いている途中。
病弱で原作だと生死不明になる、イザベラの腹違いの兄エミールに、協力してもらっているうちに求愛されていることに気づいてしまい──。
エミール・ディ・フランドル(20)×ミレア・ウィン・ティルベリー(18)
全30話の予定で現在、執筆中です。2月下旬に完結予定です。
タイトルや内容が変更になる場合もあります。ご了承ください。
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【本編完結】伯爵令嬢に転生して命拾いしたけどお嬢様に興味ありません!
ななのん
恋愛
早川梅乃、享年25才。お祭りの日に通り魔に刺されて死亡…したはずだった。死後の世界と思いしや目が覚めたらシルキア伯爵の一人娘、クリスティナに転生!きらきら~もふわふわ~もまったく興味がなく本ばかり読んでいるクリスティナだが幼い頃のお茶会での暴走で王子に気に入られ婚約者候補にされてしまう。つまらない生活ということ以外は伯爵令嬢として不自由ない毎日を送っていたが、シルキア家に養女が来た時からクリスティナの知らぬところで運命が動き出す。気がついた時には退学処分、伯爵家追放、婚約者候補からの除外…―― それでもクリスティナはやっと人生が楽しくなってきた!と前を向いて生きていく。
※本編完結してます。たまに番外編などを更新してます。
【完結】悪役令嬢は何故か婚約破棄されない
miniko
恋愛
平凡な女子高生が乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまった。
断罪されて平民に落ちても困らない様に、しっかり手に職つけたり、自立の準備を進める。
家族の為を思うと、出来れば円満に婚約解消をしたいと考え、王子に度々提案するが、王子の反応は思っていたのと違って・・・。
いつの間にやら、王子と悪役令嬢の仲は深まっているみたい。
「僕の心は君だけの物だ」
あれ? どうしてこうなった!?
※物語が本格的に動き出すのは、乙女ゲーム開始後です。
※ご都合主義の展開があるかもです。
※感想欄はネタバレ有り/無しの振り分けをしておりません。本編未読の方はご注意下さい。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
公爵家の秘密の愛娘
ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝🌹グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。
過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。
そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。
「パパ……私はあなたの娘です」
そう名乗り出るアンジェラ。
◇
アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。
この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。
初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。
母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞
✴️設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞
✴️稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇♀️