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潜む闇
餌は重要です。
アトランティ家の厨房では朝から甘い香りが漂い、オブシディアンとハウライトとリピドを従え、遠慮するルチルレイを引っ張り出してラーヴァが、入り口から覗き込んでいた。
甘い香りにルチルの白い頬が嬉しそうに赤く染まって可愛いなーと笑みを浮かべると、オーブンが時間を知らせてくれる。
「バタークッキーにマドレーヌ、チョコは無いから大人向けのラムレーズンでカップケーキ。ふわふわのシフォンケーキはリィ様がお気に入りなんだけど…。これでいけるかな?」
「アリアお姉様!僕は全部好きです!」
「あら、ラーヴァにはラムレーズンは駄目よ?」
「じゃあ、はいってないの!」
ラッピングをして持ち歩きしやすく、簡単に食べられる物で考えると意外と選択肢が出てこない。おねだりをするラーヴァの可愛いお口に、焼きたてのクッキーを入れてあげると、頬を押さえて美味しいのポーズが出た。
ああ、ラーヴァはこんなにも簡単で可愛いのに!まずは、あの王弟様に食べさせるというこのハードルの高さよ。下手したらお菓子の前に私の顔を見ただけで、あの黒いのをみている顔をされてしまいますわね。
(お父様にお渡ししていたのは、簡単に摘めるクッキーやマドレーヌ系だけど、どれを口にした事があるのかも悩みどころなのよねー…)
王宮から屋敷へと戻り、お父様に詰め寄って切りきり吐かせましたが、なんと、ハシビロ二号に上げたお菓子と、王宮で出されたお菓子を間違えて食べたのが始まりとか。王弟様よ、口に入れるものを確認しようね。
自分の餌をとられたと思ったハシビロ二号が、怒って王弟様に攻撃したらしいけど、まぁ食べ物の恨みは怖いわよ。あのほんわか~なリィ様だって、ジャスパー様が間違えて食べちゃったのを、結構長い間根に持ってた。
「大変だったからね、ジャスパーに泣きつかれたから」
「そんなにですの?」
「リィ様に睨まれるし話しかけても逃げられるしで、ラズーラ殿下がどうにかしろって見てきたなぁ」
ニコニコと思い出して懐かしんでいるアイクお兄様ですが、当時のジャスパー様からすればとんでもなく恐怖だったでしょうね。アイクお兄様だって意地悪してないで直ぐに教えてくださっていれば、私作ってましたよ?
「あ、あのアメーリア様、私も何かお手伝いします!」
「ありがとう、そうねぇ…手始めに、アメーリア様じゃなくてアリアって呼んで欲しいわ。ね?ルチル」
「え、うえ!?あ、はははい、あ、ああありあ、さま」
「アリア」
「…うう~~、あ、アリア」
「よく出来ました」
真っ赤になってつっかえつっかえになりつつも、私を愛称で呼ばせることに成功した!ミッションクリアーしたよ!にっこりと微笑みを向けると、恥ずかしくなったのかルチルが紅くなった頬を押さえてあわあわしてますよ。可愛い。
ルチルの可愛さを眺めていると、視界に入ってくるふわっふわの尻尾。勿論闇の守護聖獣ギベオンの尻尾です。昨夜は寝る前に何度も念入りにブラッシングをしてやりましたから、いつもよりもふわっふわのもっふもふです。うむ、満足!
『いきなりだったな』
「そうですか?これでもかなり探ってましたのよ?」
『なら、最初から普通に呼べばいいだろう』
「そういう訳にもいきませんのよ、ルチルも最初は普通の状態ではありませんでしたし」
『それよりも菓子』
「…この駄犬め」
ルチルと愛称で呼び合うという、夢見ていた女の子同士のやりとりなのに。この闇の狼はどうでもいいようにお菓子を要求して来ました。勿論、口の中に放り込んだのは、喉が渇いてぱっさぱさになりやすいスコーンを入れてやりましたわ。
「あのね、アリアお姉様」
「なぁに?ラーヴァ」
「ルチルレイさんがね、アリアお姉様にルチルって呼んでもらえて凄く嬉しいって言ってましたよ」
「あらあら、そういえばルチルは何処に?」
「ギベオンを引っ張ってお庭に行きました、顔を冷やしてくるって」
破壊力抜群のルチルレイの可愛さに、そのまま悶えたのは言うまでも有りませんでした。
何、あの可愛い生き物。
「さて、これで全部かな?」
「はい、有難う御座います。アイクお兄様」
「新作は作らないって約束だったけど、これは見たこと無いね?」
「一応大人向けも用意致しましたの、リィ様にはこっそりと別のものを用意していますわ」
甘さ控えめや野菜を練りこんだ御菓子は何度か作っていましたが、アイクお兄様が首を傾げたのは、洋酒を使ったお菓子です。まぁ、アトランティ家で取引をしている商人にお願いすれば、和菓子もいけたんですけど、流石に時間がかかるので今回は洋菓子で釣りますよ!
(しかし、私の用意した魔力菓子で釣れるかしら?)
少し疑問を浮かべつつも、私達は学園へと向かう馬車へと乗り込みました。目指す場所は、ルチルレイとルミエール様の出会いの場。学園に建てられた神殿です。
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