61 / 71
潜む闇
被るのは大きな猫ですわ。
しおりを挟む挨拶のあと動こうとしないルミエール様を見上げ、にっこりと微笑みを向ける。今こそ令嬢教育の成果を発揮する時!全力で大きな猫を被ってみせますわ!
「アトランティ家の手製のお菓子ですの、光の神殿へ参拝へは学生の身では参れませんので、此方に捧げようとお持ちしましたの。宜しければ、ルミエール最高神官長様もいかがですか?」
手にした籠に視線を落とした瞬間、目が微かに丸くなった。よっし、選択間違えてなかった!この中にルミエール様が口にしたお菓子があるみたいですよ!
そわそわと彷徨う視線を辿ってみるけど、どの御菓子だったのかまでは記憶にないのかな?
「…アトランティ家の…」
「昔父が国王陛下へと差し上げていたようですね、今でも何度か用意しておりますの」
「ああ、そういえば宰相が兄上に何か貰っていたな」
「きっとそれですわ」
まずは嗅覚からお菓子の記憶を引っ張り出すかと、バターをたっぷりと使って良い匂いをしているラッピングされたマフィンとクッキーを手渡す。じっと手に持ったそのお菓子に首を傾げているので、これじゃないかーと再び手を差し込んだ
「これは…?」
「マフィンとクッキーですわ、持ち歩きしやすく作ったケーキのようなものです。王宮のお菓子と比べると甘味はそう有りませんが、お口に合うと嬉しいですわ」
「お茶の用意をさせて頂きます」
「ええ、ハウライトありがとう」
「…光の…聖獣?」
そっと控えめに声をかけてきたのに、ハウライトの声で反応するのはルミエール様の中に憑いている『魔』でしょうか?どこかほわりとしていたルミエール様の瞳が、一瞬だけ剣呑なものに変わった。嫌な音が聞こえてきたけど、やつじゃないよな?って感じかなー?
あ、私は別にあの黒いの飛んで逃げるほどじゃないです。いちいちやつがいた位でぎゃーぎゃー逃げてられるか。新聞とか要らない雑誌を丸めて叩ける位には強いですよ!食べ物を扱う人からすれば天敵ですからね、しっかりと駆逐してやりますわ。
(でも、ルチルじゃないけど、じわじわと染み出している靄は見える)
ハウライトの存在を確認したからか、私からも光属性の気配を感じたからか。真っ白な法衣から滲み出す黒い靄は、この神殿から逃げ出そうとしているのか、取り込んでやろうと襲い掛かってくるのか。
ハウライトにとられた手をぎゅっと握り締めると、大丈夫ですよと微笑みを浮かべるハウライト。
(大丈夫、これはゲームじゃない、あの無表情のハウライトじゃない)
自分の心を落ち着かせるように、呪文でも唱えるかのように心の中で呟いて、ゆっくり深く深呼吸を繰り返す。大丈夫、ルチルは扉の外で待ってくれている。扉が開くと同時に、気配を消したアズライトが潜んでくれている。
「その獣は、外に出せ」
「まぁ、ハウライトは私の守護聖獣ですのよ?それにルミエール最高神官長様にとっては光の属性の守護獣様でもありますのに…どうして、そんな事をおっしゃるの?」
「私は、獣は嫌いだ!」
「獣ではありませんわ、ハウライトという名前がありますの」
「煩い、汚らわしい獣など、神聖なる祭壇の前にいていいはずがないだろう!」
落ち着いていたはずなのに、ルミエール様からあふれ出してくる『魔』の黒い靄が増えていく。真っ白だった法衣は今では、元から黒かったのかと錯覚を覚えるくらいには染まっている。ルチルのときと似ているの感覚に、背筋を伸ばして真っ直ぐに前を見つめる。
「ハウライト『光の壁』展開、囲みなさい!」
「はい、アリア!」
青年姿になったハウライトに、光魔法の不安定さは一切感じない。合同試験の時には硝子のような強度だったとすれば、今は防弾硝子とでもいいましょうか。光魔法に抵抗しようとする『魔』は打ち破ることも出来そうにない。
「アリア、大丈夫!?」
「大丈夫よ、此方に意識が向く前に囲めたわ」
『また…、汚らわしい獣だと…!?』
「モフモフの何が悪いのですか!私の最高の癒しにケチはつけさせませんわよ!」
『アリア怒るとこ、違う』
「違いません、モフモフの艶やかな毛並みや温かな毛皮、ぷにぷにの柔らかな肉球。抱き締めると感じる安定した癒しを、貶すことは私が許しません!」
『ああー…アリアのモフメーターが枯渇してる』
「そういえば、最近はギベオンをモフる時間も無かったですね。アズラは獣化しませんでしたし。私達も色々と試験の手伝いで眠ってましたから」
何やら呆れた声が聞こえて来ますが、この件が終わったら騎士科に騎乗用として飼われている
熊さんや狼さんを見せていただけると約束したんです!ジャスパー様の手が空いてなかったら、アズラを引き摺ってでもいきますわ!
「アズラ、囲みはしましたが何が来るか分かりません、注意してくださいませ。『光の壁』も、結構抵抗されてますが、威力よりも魔力の消費を抑えたいので」
「分かった、リモナイト殿下も直ぐに来るよ」
目の前には、もがき苦しんでいるルミエール様の姿が見える。幾ら大きくなったからといっても、私とハウライトだけで『魔』を祓うのは危険なので、リモナイト殿下を待って確実に祓うと決めたのです。
20
あなたにおすすめの小説
【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
まだ20歳の未亡人なので、この後は好きに生きてもいいですか?
せいめ
恋愛
政略結婚で愛することもなかった旦那様が魔物討伐中の事故で亡くなったのが1年前。
喪が明け、子供がいない私はこの家を出て行くことに決めました。
そんな時でした。高額報酬の良い仕事があると声を掛けて頂いたのです。
その仕事内容とは高貴な身分の方の閨指導のようでした。非常に悩みましたが、家を出るのにお金が必要な私は、その仕事を受けることに決めたのです。
閨指導って、そんなに何度も会う必要ないですよね?しかも、指導が必要には見えませんでしたが…。
でも、高額な報酬なので文句は言いませんわ。
家を出る資金を得た私は、今度こそ自由に好きなことをして生きていきたいと考えて旅立つことに決めました。
その後、新しい生活を楽しんでいる私の所に現れたのは……。
まずは亡くなったはずの旦那様との話から。
ご都合主義です。
設定は緩いです。
誤字脱字申し訳ありません。
主人公の名前を途中から間違えていました。
アメリアです。すみません。
悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。
槙村まき
恋愛
スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。
それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。
挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。
そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……!
第二章以降は、11時と23時に更新予定です。
他サイトにも掲載しています。
よろしくお願いします。
25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
【完結】転生白豚令嬢☆前世を思い出したので、ブラコンではいられません!
白雨 音
恋愛
エリザ=デュランド伯爵令嬢は、学院入学時に転倒し、頭を打った事で前世を思い出し、
《ここ》が嘗て好きだった小説の世界と似ている事に気付いた。
しかも自分は、義兄への恋を拗らせ、ヒロインを貶める為に悪役令嬢に加担した挙句、
義兄と無理心中バッドエンドを迎えるモブ令嬢だった!
バッドエンドを回避する為、義兄への恋心は捨て去る事にし、
前世の推しである悪役令嬢の弟エミリアンに狙いを定めるも、義兄は気に入らない様で…??
異世界転生:恋愛 ※魔法無し
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
巻き込まれて婚約破棄になった私は静かに舞台を去ったはずが、隣国の王太子に溺愛されてしまった!
ユウ
恋愛
伯爵令嬢ジゼルはある騒動に巻き込まれとばっちりに合いそうな下級生を庇って大怪我を負ってしまう。
学園内での大事件となり、体に傷を負った事で婚約者にも捨てられ、学園にも居場所がなくなった事で悲しみに暮れる…。
「好都合だわ。これでお役御免だわ」
――…はずもなかった。
婚約者は他の女性にお熱で、死にかけた婚約者に一切の関心もなく、学園では派閥争いをしており正直どうでも良かった。
大切なのは兄と伯爵家だった。
何かも失ったジゼルだったが隣国の王太子殿下に何故か好意をもたれてしまい波紋を呼んでしまうのだった。
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる