攻略なんてしませんから!

梛桜

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潜む闇

被るのは大きな猫ですわ。



 挨拶のあと動こうとしないルミエール様を見上げ、にっこりと微笑みを向ける。今こそ令嬢教育の成果を発揮する時!全力で大きな猫を被ってみせますわ!

「アトランティ家の手製のお菓子ですの、光の神殿へ参拝へは学生の身では参れませんので、此方に捧げようとお持ちしましたの。宜しければ、ルミエール最高神官長様もいかがですか?」

 手にした籠に視線を落とした瞬間、目が微かに丸くなった。よっし、選択間違えてなかった!この中にルミエール様が口にしたお菓子があるみたいですよ!
 そわそわと彷徨う視線を辿ってみるけど、どの御菓子だったのかまでは記憶にないのかな?

「…アトランティ家の…」
「昔父が国王陛下へと差し上げていたようですね、今でも何度か用意しておりますの」
「ああ、そういえば宰相が兄上に何か貰っていたな」
「きっとそれですわ」

 まずは嗅覚からお菓子の記憶を引っ張り出すかと、バターをたっぷりと使って良い匂いをしているラッピングされたマフィンとクッキーを手渡す。じっと手に持ったそのお菓子に首を傾げているので、これじゃないかーと再び手を差し込んだ

「これは…?」
「マフィンとクッキーですわ、持ち歩きしやすく作ったケーキのようなものです。王宮のお菓子と比べると甘味はそう有りませんが、お口に合うと嬉しいですわ」
「お茶の用意をさせて頂きます」
「ええ、ハウライトありがとう」
「…光の…聖獣?」

 そっと控えめに声をかけてきたのに、ハウライトの声で反応するのはルミエール様の中に憑いている『魔』でしょうか?どこかほわりとしていたルミエール様の瞳が、一瞬だけ剣呑なものに変わった。嫌な音が聞こえてきたけど、やつじゃないよな?って感じかなー?
 あ、私は別にあの黒いの飛んで逃げるほどじゃないです。いちいちやつがいた位でぎゃーぎゃー逃げてられるか。新聞とか要らない雑誌を丸めて叩ける位には強いですよ!食べ物を扱う人からすれば天敵ですからね、しっかりと駆逐してやりますわ。

(でも、ルチルじゃないけど、じわじわと染み出している靄は見える)

 ハウライトの存在を確認したからか、私からも光属性の気配を感じたからか。真っ白な法衣から滲み出す黒い靄は、この神殿から逃げ出そうとしているのか、取り込んでやろうと襲い掛かってくるのか。
 ハウライトにとられた手をぎゅっと握り締めると、大丈夫ですよと微笑みを浮かべるハウライト。

(大丈夫、これはゲームじゃない、あの無表情のハウライトじゃない)

 自分の心を落ち着かせるように、呪文でも唱えるかのように心の中で呟いて、ゆっくり深く深呼吸を繰り返す。大丈夫、ルチルは扉の外で待ってくれている。扉が開くと同時に、気配を消したアズライトが潜んでくれている。

「その獣は、外に出せ」
「まぁ、ハウライトは私の守護聖獣ですのよ?それにルミエール最高神官長様にとっては光の属性の守護獣様でもありますのに…どうして、そんな事をおっしゃるの?」
「私は、獣は嫌いだ!」
「獣ではありませんわ、ハウライトという名前がありますの」
「煩い、汚らわしい獣など、神聖なる祭壇の前にいていいはずがないだろう!」

 落ち着いていたはずなのに、ルミエール様からあふれ出してくる『魔』の黒い靄が増えていく。真っ白だった法衣は今では、元から黒かったのかと錯覚を覚えるくらいには染まっている。ルチルのときと似ているの感覚に、背筋を伸ばして真っ直ぐに前を見つめる。

「ハウライト『光の壁リヒトウォール』展開、囲みなさい!」
「はい、アリア!」

 青年姿になったハウライトに、光魔法の不安定さは一切感じない。合同試験の時には硝子のような強度だったとすれば、今は防弾硝子とでもいいましょうか。光魔法に抵抗しようとする『魔』は打ち破ることも出来そうにない。

「アリア、大丈夫!?」
「大丈夫よ、此方に意識が向く前に囲めたわ」

『また…、汚らわしい獣だと…!?』

「モフモフの何が悪いのですか!私の最高の癒しにケチはつけさせませんわよ!」
『アリア怒るとこ、違う』
「違いません、モフモフの艶やかな毛並みや温かな毛皮、ぷにぷにの柔らかな肉球。抱き締めると感じる安定した癒しを、貶すことは私が許しません!」
『ああー…アリアのモフメーターが枯渇してる』
「そういえば、最近はギベオンをモフる時間も無かったですね。アズラは獣化しませんでしたし。私達も色々と試験の手伝いで眠ってましたから」

 何やら呆れた声が聞こえて来ますが、この件が終わったら騎士科に騎乗用として飼われている
熊さんや狼さんを見せていただけると約束したんです!ジャスパー様の手が空いてなかったら、アズラを引き摺ってでもいきますわ!

「アズラ、囲みはしましたが何が来るか分かりません、注意してくださいませ。『光の壁リヒトウォール』も、結構抵抗されてますが、威力よりも魔力の消費を抑えたいので」
「分かった、リモナイト殿下も直ぐに来るよ」

 目の前には、もがき苦しんでいるルミエール様の姿が見える。幾ら大きくなったからといっても、私とハウライトだけで『魔』を祓うのは危険なので、リモナイト殿下を待って確実に祓うと決めたのです。


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