42 / 53
第三章 紅茶とアップルパイは紅く染まらない
第四十一話 全てが赤色に染まって③
しおりを挟む
「逃がさんっ」
ファーリンは膝立ちのままメイアが扉を閉めるのを睨み付けている。
「待ってファーリン、教会の中は魔素で充満してる!」
何あの扉の奥……少し見えたけど真っ赤だった。あれじゃあ部屋の中で息を吸うだけで感染する。
「ファーリン、どうする? どうするの!」
「ち、ちょっとちょっと、ファーリン! リアちゃんも。な、何を言ってるの? 冗談でも怒るわよ!」
シャルロットが起きながら大声で叫ぶ、がファーリンは無視して教会に入ろうと扉に手をかける。
「鍵か……」
ファーリンは数歩後ろに下がり左手で鞘の中の剣を逆手に持つ。
膝立ちでしゃがみ込み右手で地面の砂を一握り掴む。
わたしを含めて全員何をする気、と見ているとまず左手の剣を、続いて右手の砂を空中に放り投げた。砂はすぐに空中で渦を作り始めた。
魔導制御で風を起こしてるんだろう。
同時に落ちてきた剣が渦の中に入ると落下が止まった。ファーリンの指が上空を指し示すと砂の渦が剣を教会の尖塔より高く舞上げた。
「メイア、扉の近くにいるなら離れなさい!」
腕を振り下ろすと空中の剣が一直線に扉の間に突き刺さり内側の閂を叩き切った。
「こいつを護っていたのか……」
扉を開けると若い男が紐に縛られ転がされているのが見えた。猿轡まで噛まされている。教会の中でメイアが狼狽えている。
「こ、この人は復活したんです! 奇跡なんです」
「メイア! どうしちゃった……あぁっ! マクスウェル……な、何故ここに……」
「シャルロット、信じて! 騎士様、この人は先週までは死んでいたんです! これは奇跡よ、奇跡が起きて復活したんだわ。だから私がお世話をしているの」
「でも……マクスウェルの葬儀は二週間も前に……」
「死んだとは信じられなかった。あぁ、私のマックス、私を残して逝ってしまうところだった。だから隠して祈り続けた。そうしたら……突然目を開けたのよ」
シャルロットは声も出ない。メイアは興奮して喋り続けている。
「先週のことよ。これが奇跡かと更に祈りを捧げたわ。すると徐々にマックスが動くようになったのよ。ふふふ、少し元気すぎたから今は縛っているのよ……」
嬉しそうにマックスと呼ばれる男の頭を撫でるメイア。
「その男はもう死んでいる」
落ちた剣を拾うファーリンの顔は苦悶の表情を浮かべている。
「そして貴女も既に……」
メイアには聞こえないようにボソリと呟いた。勿論それに気付かずメイアは叫び続けている。
「何を言ってるの? 見えないの? 苦しそうに目を動かしている。震えている! ミクトーラン様の仰る通り『復活の奇跡』は起きたのよ! さぁ、今日はご飯を食べるかしら……」
「メイア……本当に……本当にマックスは復活したのか……」
ふらふらと教会に入ろうとするシャルロット。ファーリンが振り向きシャルロットの両肩に手をやり押し留める。
「ダメだ! 近づくな!『風の護り』が無ければ即感染する。」
暗い部屋の中からはメイアの声とくぐもった唸り声だけが響く。
「あらあら、お腹が空いたの? ふふ、さぁご飯を食べましょう」
男の猿轡を外し、何か肉のような物をフォークで口元に持っていくと横たわったまま食い付いた。
「まだこれしか食べられないものね。ふふ、早く元気になって……何でも食べてね……」
「な、何を食べさせてるの、メイア?」
シャルロットは理解できない状況に思わず聞いてしまう。メイアの安らかな笑顔に逆に寒気がする。
「あぁ、シャルロット……マックスね、まだ柔らかいものしか食べれないの……」
ゴソゴソと袋から何かを皿にあけている。
「今はね、柔らかくなった生肉しか食べれないの。少し腐ると美味しそうに食べるのよ。うふふ……」
「メイア……」
血の気が引いていく。
腐ったお肉食べて……って正しくゾンビ。
ファーリンも呆然として眺めてる。シャルロットも……あっ、なんかヤバい目つきしてない?
「ファーリン、私は親友を信じる……」
やっぱり!
奇跡……は信じたいけど、でも、どうしよう……残念ながらファーリンが正しい。でもわたしだってシャルロットの立場になったら親友を信じる。
多分全てに反抗してもメイアを助けるよう動く。
それと……ミクトーラン様? とメイアは言った。誰だそれは? どういうことだ?
分からないことが多すぎる……。
ファーリン……どうしたら良い?
赤い霧が溢れる教会の前に立つファーリンとシャルロットを見詰める。
あっ、ファーリン「私だって分かんないわよ」って顔してる。冷や汗もダラダラで顔真っ青。そうか……ファーリンも文官志望出身よね。
シャルロット先輩、貴族院でも名を馳せた武闘派だものね。地方の騎士団みたいな荒くれ者ばかりの場所で、既にオトコを従えてるようなカッコいい女騎士よ。ファーリンじゃあ絶対に勝てないわ。
「シャルロット……変なことは考えないでね」
シャル先輩……ファーリンを斬らないでね。斬られたら……骨は拾ってあげるわ。
祈りながらじっと見つめる。
十秒ほど二人とも何も喋らず睨み合っていたが、シャルロットは急に振り返り教会から離れていった。
すかさずファーリンに駆け寄る。
良かった。二人が戦い始めたら……どうしようと思ってた。まだ指の輪を作ったまま。教会の中を覗くと真っ赤な女性の影と横たわる赤黒い男性の影が見える。
「助かったー……これはリアルにデインジャーでしたよ。ライフのピンチが迫ってた……」
「ファーリン、こっからどうするの?」
「そうね……まずはお礼を言わせて。ありがとうシャルロット。では隔離させて……」
その時、シャルロットが立ち止まって叫んだ。
「二人を王宮に連れて行く!」
ファーリンは膝立ちのままメイアが扉を閉めるのを睨み付けている。
「待ってファーリン、教会の中は魔素で充満してる!」
何あの扉の奥……少し見えたけど真っ赤だった。あれじゃあ部屋の中で息を吸うだけで感染する。
「ファーリン、どうする? どうするの!」
「ち、ちょっとちょっと、ファーリン! リアちゃんも。な、何を言ってるの? 冗談でも怒るわよ!」
シャルロットが起きながら大声で叫ぶ、がファーリンは無視して教会に入ろうと扉に手をかける。
「鍵か……」
ファーリンは数歩後ろに下がり左手で鞘の中の剣を逆手に持つ。
膝立ちでしゃがみ込み右手で地面の砂を一握り掴む。
わたしを含めて全員何をする気、と見ているとまず左手の剣を、続いて右手の砂を空中に放り投げた。砂はすぐに空中で渦を作り始めた。
魔導制御で風を起こしてるんだろう。
同時に落ちてきた剣が渦の中に入ると落下が止まった。ファーリンの指が上空を指し示すと砂の渦が剣を教会の尖塔より高く舞上げた。
「メイア、扉の近くにいるなら離れなさい!」
腕を振り下ろすと空中の剣が一直線に扉の間に突き刺さり内側の閂を叩き切った。
「こいつを護っていたのか……」
扉を開けると若い男が紐に縛られ転がされているのが見えた。猿轡まで噛まされている。教会の中でメイアが狼狽えている。
「こ、この人は復活したんです! 奇跡なんです」
「メイア! どうしちゃった……あぁっ! マクスウェル……な、何故ここに……」
「シャルロット、信じて! 騎士様、この人は先週までは死んでいたんです! これは奇跡よ、奇跡が起きて復活したんだわ。だから私がお世話をしているの」
「でも……マクスウェルの葬儀は二週間も前に……」
「死んだとは信じられなかった。あぁ、私のマックス、私を残して逝ってしまうところだった。だから隠して祈り続けた。そうしたら……突然目を開けたのよ」
シャルロットは声も出ない。メイアは興奮して喋り続けている。
「先週のことよ。これが奇跡かと更に祈りを捧げたわ。すると徐々にマックスが動くようになったのよ。ふふふ、少し元気すぎたから今は縛っているのよ……」
嬉しそうにマックスと呼ばれる男の頭を撫でるメイア。
「その男はもう死んでいる」
落ちた剣を拾うファーリンの顔は苦悶の表情を浮かべている。
「そして貴女も既に……」
メイアには聞こえないようにボソリと呟いた。勿論それに気付かずメイアは叫び続けている。
「何を言ってるの? 見えないの? 苦しそうに目を動かしている。震えている! ミクトーラン様の仰る通り『復活の奇跡』は起きたのよ! さぁ、今日はご飯を食べるかしら……」
「メイア……本当に……本当にマックスは復活したのか……」
ふらふらと教会に入ろうとするシャルロット。ファーリンが振り向きシャルロットの両肩に手をやり押し留める。
「ダメだ! 近づくな!『風の護り』が無ければ即感染する。」
暗い部屋の中からはメイアの声とくぐもった唸り声だけが響く。
「あらあら、お腹が空いたの? ふふ、さぁご飯を食べましょう」
男の猿轡を外し、何か肉のような物をフォークで口元に持っていくと横たわったまま食い付いた。
「まだこれしか食べられないものね。ふふ、早く元気になって……何でも食べてね……」
「な、何を食べさせてるの、メイア?」
シャルロットは理解できない状況に思わず聞いてしまう。メイアの安らかな笑顔に逆に寒気がする。
「あぁ、シャルロット……マックスね、まだ柔らかいものしか食べれないの……」
ゴソゴソと袋から何かを皿にあけている。
「今はね、柔らかくなった生肉しか食べれないの。少し腐ると美味しそうに食べるのよ。うふふ……」
「メイア……」
血の気が引いていく。
腐ったお肉食べて……って正しくゾンビ。
ファーリンも呆然として眺めてる。シャルロットも……あっ、なんかヤバい目つきしてない?
「ファーリン、私は親友を信じる……」
やっぱり!
奇跡……は信じたいけど、でも、どうしよう……残念ながらファーリンが正しい。でもわたしだってシャルロットの立場になったら親友を信じる。
多分全てに反抗してもメイアを助けるよう動く。
それと……ミクトーラン様? とメイアは言った。誰だそれは? どういうことだ?
分からないことが多すぎる……。
ファーリン……どうしたら良い?
赤い霧が溢れる教会の前に立つファーリンとシャルロットを見詰める。
あっ、ファーリン「私だって分かんないわよ」って顔してる。冷や汗もダラダラで顔真っ青。そうか……ファーリンも文官志望出身よね。
シャルロット先輩、貴族院でも名を馳せた武闘派だものね。地方の騎士団みたいな荒くれ者ばかりの場所で、既にオトコを従えてるようなカッコいい女騎士よ。ファーリンじゃあ絶対に勝てないわ。
「シャルロット……変なことは考えないでね」
シャル先輩……ファーリンを斬らないでね。斬られたら……骨は拾ってあげるわ。
祈りながらじっと見つめる。
十秒ほど二人とも何も喋らず睨み合っていたが、シャルロットは急に振り返り教会から離れていった。
すかさずファーリンに駆け寄る。
良かった。二人が戦い始めたら……どうしようと思ってた。まだ指の輪を作ったまま。教会の中を覗くと真っ赤な女性の影と横たわる赤黒い男性の影が見える。
「助かったー……これはリアルにデインジャーでしたよ。ライフのピンチが迫ってた……」
「ファーリン、こっからどうするの?」
「そうね……まずはお礼を言わせて。ありがとうシャルロット。では隔離させて……」
その時、シャルロットが立ち止まって叫んだ。
「二人を王宮に連れて行く!」
0
あなたにおすすめの小説
転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜
上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】
普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。
(しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます)
【キャラクター】
マヤ
・主人公(元は如月真也という名前の男)
・銀髪翠眼の少女
・魔物使い
マッシュ
・しゃべるうさぎ
・もふもふ
・高位の魔物らしい
オリガ
・ダークエルフ
・黒髪金眼で褐色肌
・魔力と魔法がすごい
【作者から】
毎日投稿を目指してがんばります。
わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも?
それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
七億円当たったので異世界買ってみた!
コンビニ
ファンタジー
三十四歳、独身、家電量販店勤務の平凡な俺。
ある日、スポーツくじで7億円を当てた──と思ったら、突如現れた“自称・神様”に言われた。
「異世界を買ってみないか?」
そんなわけで購入した異世界は、荒れ果てて疫病まみれ、赤字経営まっしぐら。
でも天使の助けを借りて、街づくり・人材スカウト・ダンジョン建設に挑む日々が始まった。
一方、現実世界でもスローライフと東北の田舎に引っ越してみたが、近所の小学生に絡まれたり、ドタバタに巻き込まれていく。
異世界と現実を往復しながら、癒やされて、ときどき婚活。
チートはないけど、地に足つけたスローライフ(たまに労働)を始めます。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
『ミッドナイトマート 〜異世界コンビニ、ただいま営業中〜』
KAORUwithAI
ファンタジー
深夜0時——街角の小さなコンビニ「ミッドナイトマート」は、異世界と繋がる扉を開く。
日中は普通の客でにぎわう店も、深夜を回ると鎧を着た騎士、魔族の姫、ドラゴンの化身、空飛ぶ商人など、“この世界の住人ではない者たち”が静かにレジへと並び始める。
アルバイト店員・斉藤レンは、バイト先が異世界と繋がっていることに戸惑いながらも、今日もレジに立つ。
「袋いりますか?」「ポイントカードお持ちですか?」——そう、それは異世界相手でも変わらない日常業務。
貯まるのは「ミッドナイトポイントカード(通称ナイポ)」。
集まるのは、どこか訳ありで、ちょっと不器用な異世界の住人たち。
そして、商品一つひとつに込められる、ささやかで温かな物語。
これは、世界の境界を越えて心を繋ぐ、コンビニ接客ファンタジー。
今夜は、どんなお客様が来店されるのでしょう?
※異世界食堂や異世界居酒屋「のぶ」とは
似て非なる物として見て下さい
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる