『はっぴー・はんまー』と呼ばないで!苛烈な運命に反抗して『世界で一番幸せな鉄槌』を目指します

けーくら

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エピローグ

幸せな鉄槌

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◇◇◇ 帝国歴 二百九十四年 五月

 首都ナイアリス 王宮前の通り

 ボロボロの身体を引きずって、皆で支えながら歩いて王宮に向かった。
 噂を聞きつけた街の住人は通りに出てきて隊員に握手を求めたり抱きついたりと観劇終わりの有名女優のような扱いだった。
 通りの窓からは幾千、幾万の花や紙吹雪が隊員に降り注がれる。それは、あたかも色とりどりの雪が舞うかのように美しかった。

 ただ嬉しい。
 ただ美しい。
 ほら、パトリシア。これは貴女が守った景色。
 ほら、パトリシア。
 ほら、パトリシア。
 貴女がこの平和な世界を護ったのよ。

 ニコニコしながらグッタリした身体を前に進める。とびきり美味しいケーキをダース十二個単位で持ってきて貰わないとね!

 皆を見回しても、疲労困憊だけど嬉しそう。
 カタリナなんて力が入らないからってニールという若い騎士の肩を借りて歩いている。穏やかに幸せそうな微笑みを浮かべながら周りの群衆や建物の窓から顔を出す住人に手を振ってる。
 うーん、演劇終わりの女優よろしくホント美人さんね。しっかし、ほっそい腰よね……あんな打撃を隠してたなんて主人公属性、わたしより強いんじゃない?
 あれ? ニールさん、顔真っ赤。なんかブツブツ呟いてる

「……柔らかな肌、艶やかな髪、とても良い匂い……」

 寄りかかるカタリナの腰を抱き一緒に歩くニールが震え出した。

「すみません、もう我慢ができません!」

 ニールが突然カタリナに真剣な顔を向けてる。
 あっ、ピンと来た! もしかして告白タイム?

「えっ? あっ、何でしょう……」

 うぷぷっ、カタリナ、思わず敬語よ。がんばって!

「失礼しますっ!」

 ニールはカタリナの唇を自らの口で熱烈に塞いだ。ニールの閉じた瞳とびっくりで見開かれたカタリナの瞳。

 ひーーっ! 告白すっ飛ばしてチューしてるー!
 流石のカタリナも顔をよじって逃げようとしてるわよ!

「ま、待て、少し落ち着い……」
「私は貴女の花婿ですから」

 きゃーーーっ! 花婿宣言よー!
 更に強く抱き締められて更に強くキスをされるカタリナ。

「ま、待って! 力が入らな……ああっんむ、皆が……」
「構いません。見せつければ良いんです!」

 周りを見渡すと、既に全隊員が観察中だ。
 徐々に力が抜けていくカタリナを珍しそうに眺める。

「へー……珍しいな。あの『鬼のカタリナ』が蹂躙じゅうりんされているぞ」
「これぞ『鬼の霍乱かくらん』ね」
「違うだろ……あっ、堕ちた」

 カタリナの方から腕をニールの首に回し唇を重ねる。二人だけの世界に入っていった。
 羨ましそうなファーリン。
 わたしには刺激が強すぎよ! テレビの画面越しだってテレテレなのに、間近で熱烈ラブシーンよ!

 とても見てらんない!
 後ろを向く……まだチュッチュってしてる。

 振り向いて確認。うわ、恥ずっ!
 皆さん見てる中で、まぁ、ホント……に……ダメだ、両手で両目を隠す。

 そっと指の隙間を開ける。
 うわー、舌と舌が……こ、こうなったら勉強よ!

 と思い直したところでファーリンとラリーに引っ張られた。今度は全員こっち見てニヤニヤしてる。

「リア、熱心過ぎよ」
「ラルス公爵とのキスを想像してたの?」
「やだーっ、リアのエッチー」

 ぎゃーー!
 なんで今はわたししか見てないんだ。コレではリアちゃんが欲求不満で興味津々みたいじゃないか。

「ははっ! カタリナも堕ちた。では放っておこう。皆聞け。この隊から抜ける時は寿脱退ことぶきだったい以外は認めないとしよう。殉職は認めない」
「イエス! グッアイディア! 次は私よ、見てなさい!」

 ラリーの宣言にファーリンが叫び返す。

「私だって近衛のリックと添い遂げるんだから!」
「あ、じゃあアタシも治安守護騎士団のマーク君狙うわよ」
「ショタだ! じゃあ私は逆にイケおじ狙いよ」

 ヤバい、死亡フラグ立てまくりだ……。

「じゃないよね。あははは! 皆さんサイコー!」
「何よリア! ベスト玉の輿チャンスだからって余裕ぶってたら分かんないんだからね」

 そう。未来なんて分からない。
 私の目標をここで発表よ!

「わたしはね、悪を撃つ『鉄槌』になるわ。でも幸せも諦めない。だから『世界で一番幸せな鉄槌』を目指す。みんな、わたし達は絶対に幸せになるわよ!」

 右腕を天空に突き上げて宣言する。
 見ててね、パトリシア、メイア、いえ、コレまで関わった皆さん。もう、不幸な人々を作らないから!

 って…………あれ? あんまり盛り上がらないなぁ。ポカンとしないでよ。

「幸せな鉄槌、つまり……ハッピーなハンマー。ふふふ、ハッピーハンマーね」

 えっ、ファーリン、ここは皆んなで感動するタイミングなのに!

「ちょっとファーリン! そんな言い方されたら急に間抜けな感じよ!」

 周りからは笑いと揶揄い半分の拍手が鳴る。

「ふふふ、リアにはお似合いよ」
「本当だ。リアに似合っている異名だな、幸せな鉄槌……ハッピーハンマーか……」
「リア、お似合いよ」
「うん。イメージ通り!」
「良い仇名ねっ、リア!」

 周りを見回すが、想定と異なる反応。
 あれあれ?ハッピーハンマーってなんか違う、思ったのと違う!

「『幸せな鉄槌』がいいっ! カッコいいのがいいのよ! うわーん、『はっぴー・はんまー』と呼ばないでー!」


◆◆◆

 帝国歴 二百九十五年 リア十五歳

 時は過ぎて、リアは十五歳になり成人を迎えた。
 異例の若さだが晴れて第十一期筆頭騎士となることが決まった。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


 危機は脱した。
 だが『この世界の悪』が消え去ったわけではない。

 リアとミクトーランの邂逅は確実にこの世界の何かを動かした。それが破滅の第一章なのか、希望の兆しなのか。

 これは苛烈な運命に反抗しつつも穏やかな幸せを掴む少女の物語の一ページ目。
 後に、この少女が『鉄槌妃Queen of Hammers』と呼ばれることは、まだ誰も知らない。


第一部 Fin
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