2 / 38
第2話
しおりを挟むだから、翌朝。
ヒオリは世話係の一人がカーテンを開けたのを眺めながら、昨夜の帝の言葉を思い出して唇を噛む。
あの方を、自分の中にお迎えしたい、と。
朝食を摂りながら、ヒオリは言われた通り知恵を絞る事にした。
しかしながら、十歳で『北の宮殿』……通称『人質宮』に押し込められたヒオリには、王妃候補、側室候補として後宮に来た女性たちのような性的知識はない。
ヒオリに性の知識を与えてくるのはあの皇帝のみ。
『人質宮』にいるのは男女合わせて八名。
年齢はバラバラ。
一人につき世話係が二人と、庭の付いた邸が与えられている。
一日に二食の食事を与えられ、週に四回の湯浴みが出来る上、年若い女であれば希望して後宮へと移動も可能。
そのため、各国の王や大公はほとんど娘や血縁の令嬢を『人質』として帝都に送り込んだ。
なので『人質宮』にいるのは若すぎて後宮には入れない、初潮前の女児と『後宮』に興味のない……別な形で忠誠を誓っている国の人質だけ。
「ごちそうさまです」
食事が終わると無言で食器が下げられていく。
ヒオリに黒曜帝から与えられた世話係は五人。
他の人質よりも多い。
とはいえ、他の人質も庭のを高い壁に覆われている。
ヒオリもここに来て世話係と黒曜帝以外の人間と会った事はない。
故郷にいた頃は、毎日使用人に囲まれ、領民と挨拶をして領地を駆け回っていた。
あの頃に比べて本を読んだり、剣の訓練をしたり、薬草を育てるくらいしかする事がない。
しかしそれでも一年前……十五になった誕生日。
あの日に時折しか現れなかった黒曜帝が訪れ、ヒオリの体に触れるようになってから生活は激変した。
最初は触れる程度の口づけをされ、それだけでも頰を染めていたものだ。
だが、それがしっとり合わさるようになり、舌が差し込まれるようになり……。
ついに身の下の方に手が滑り込むようになり、自分でも触れた事のない場所を弄ばれるようになれば……あとはあの方の思うがまま。
翻弄され、頭が真っ白になる夜。
一度刺激と快感を覚えると、癖になっていく。
ヒオリには最初、それがなんなのか分からなかった。
ただ気持ちのよいものだ、としか。
「……っ」
思い出すと体の芯が熱を持つ。
もじもじと身を震わせながら、部屋の中を見る。
顔を薄い布で隠した世話係が扉に二人、立っていた。
表情は布のせいで分からない。
(……どうしよう……触りたい……)
腿を擦り合わせると、昨夜の行為を生々しく彷彿させる。
あの方はここ数ヶ月、ほぼ毎日のようにヒオリの腿を使って射精していた。
自分の腿の間に擦り付けられ、出し入れされるのを眺めながら達する。
(は、はしたない……)
きっとこれは、いけない事なのだ。
あれは人前では行わない、秘め事のはず。
なぜなら、世話係たちは黒曜帝が来ると部屋からいなくなる。
黒曜帝……この国で最も高貴なお方がおられるのにも関わらず、だ。
だから恐らく、あれは特別な行為。
(本で読んだ。陛下は本当は夜は後宮で休まれるべきなんだと)
一般教養の一つとして、ヒオリもそのくらいは学んでいる。
黒曜帝は後宮に通い、数多の姫や令嬢の中から正妃や側室を選ばねばならない。
選んだ正妃や側室と子をなし、世継ぎを残す。
これが皇帝たる黒曜帝の大切な役割だと。
それなのに、黒曜帝はヒオリのところへ通う。
昼間は公務で忙しいはず。
ならば、夜しか妃選びは出来ないはずだ。
なのに——。
(けれど、僕が陛下にそんな事を申し上げずとも、家臣が進言してるはず。……それに、今更陛下が通わなくなったら僕……。今もこうして、触りたくなってるのに……)
目を泳がせる。
いつもなら本か、庭に出るか。
そこに悩む。
だが、今日は——否、今は、自分自身の興奮した場所を慰めたい。
その欲は、抑えつけよとすればするほど膨れ上がってく。
「……あ、あの」
「はい」
「ええと、その……」
なにか用事を頼み、出て行ってもらおう。
しかし、なにを頼めばいい?
それに彼ら二人が出て行けば、また別な二人が入ってくる。
次の二人にも用事を頼んだとして、最後の一人が入ってくるだろう。
この生活において、五つも六つも長い用事を頼めるほど困ってはいない。
考えた末、絞り出すように「い、一時間ほど、一人にして頂けませんか」と震える声で頼む。
世話係たちは一度お互いの顔を見合わせる。
「大変申し訳ないのですが、理由をお聞かせ願えませんと……」
当然である。
彼らはヒオリの監視も兼ねているのだ。
通常二人の世話係が五人もつけられているのは、黒曜帝にヒオリが強い監視体制を命じられていると同義。
なぜ自分だけ、と最初は困惑したが、夜にあのような行為を行われるというのはもしかしたら母国がなにか不穏な動きを見せているからなのかもしれない。
そんな疑いがあるにも関わらず、『一人になりたい』と言ったら……。
それは当然疑いを深めてしまう。
仕方がなく、ヒオリは観念する事にした。
それは自分と母国の嫌疑を晴らすため。
「あ……あの……せ、性器が……な、なんだか……熱くて……」
恥辱を耐えながら『理由』を口にする。
顔が熱く、声は小さくなっていく。
とてもではないが世話係たちの顔を見られない。
世話係の顔は布で覆われているので、見えないのだが。
20
あなたにおすすめの小説
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました
芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」
魔王討伐の祝宴の夜。
英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。
酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。
その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。
一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。
これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。
異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!
めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈
社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。
もらった能力は“全言語理解”と“回復力”!
……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈
キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん!
出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。
最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈
攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉
--------------------
※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!
転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?
米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。
ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。
隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。
「愛してるよ、私のユリタン」
そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。
“最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。
成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。
怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか?
……え、違う?
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
【「麗しの眠り姫」シリーズ】溺愛系義兄は愛しい姫に愛を囁く
黒木 鳴
BL
「麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る」でセレナードを溺愛する義兄・ギルバートサイドのお話。大切で可愛い弟だと……そう思っていたはずだった。それが兄弟愛ではなく、もっと特別な愛だと気づくまでの葛藤や嫉妬を幼き日のセレナたんエピソードを添えて!惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバートのほのぼのBL第二弾!!
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる