【R18】黒曜帝の甘い檻

古森きり

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第5話

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「よく分からなくなってしまいました」
「?」
「男女の物語を読んだせいなのか……僕と陛下は男同士なので、陛下がどうして僕を女性のように扱うのか……」
「ああ、なるほど」

 茶髪の世話係は納得したように頷く。
 あれが子をなすための行為なのだとしたら、ヒオリと行う事は間違っているのではないか?
 あれは後宮の女性たちと行う行為なのではないか?
 医学的な書物を見て、そう思った。
 そして、その行為は男女が快楽を楽しむものでもある、とあの物語で学んだ。
 ならば、黒曜帝はなぜヒオリのもとを毎夜訪れるのか。

「出すぎた事とご理解の上、申し上げます」
「はい」
「陛下はヒオリ様に癒しを求めておられるように見えます」
「癒し……?」

 どういう事だろうか。
 ちゃぽん、と水音を立てて振り返る。
 少し慌てたように、茶髪の世話係は後ろへ下がった。

「後宮の女性たちは、正妃の座を狙い……陛下をどう籠絡させるか、そればかり」
「……そう、なのですか?」
「はい」

 ダークグレーの髪の世話係の一人が、頷いた。
 片割れは今、ベッドを整えている。
 今宵も黒曜帝が来る予定なのだろう。

「無論、お世継ぎを作られるのは陛下の大切なお役目。しかし、ゆっくりは出来ないのでございましょう」
「では、僕は陛下をちゃんと休ませて差し上げた方がいいのでしょうか? しかし、あのような行為に耽ってはお休みになれないのでは……」

 ある程度ヒオリをよがらせて、気絶まで追い込んだあとは部屋を去っていく黒曜帝。
 あれでは休んだ内に入らないのでは、と心配していると、茶髪の世話係が「陛下はちゃんとお隣の部屋でお休みになられますよ」と教えてくれた。
 驚いた。
 確かに隣の部屋は客間である。
 客間と言っても、年に一度だけ陛下のお誕生日を祝いに母国の家族が帝都に来た際、泊まるための部屋だ。
 普段使わないので、閉めっぱなしになっていると思っていた。
 隣の部屋で、黒曜帝が……休んでいる。

「……そ、そう……だったんですか……」

 それは知らなかった。
 初めて知った。
 胸がほんのりと暖かくなる。
 あの方がちゃんと休んでいる事を、喜ばしく思う。

「陛下がお見えになりました」
「え!」
「本日はお早いですね」

 ぱしゃ、と顔を上げる。
 薄い布の奥に、黒い服、黒髪の皇帝の姿が見えた。
 床まである長さの上着を、片割れの世話係に預けてヒオリの方を見やる。

「湯浴み中か」
「あ、は、はい。すぐに出ま……」
「よい。ふむ、そうだな……ならば今日は趣向を変えよう。俺も入る。準備を」
「かしこまりました」
「え!」

 愉しげな声が布向こう側から聞こえた。
 皇帝が入る風呂場ともなれば、中央の宮殿に大きなものがあるはずだ。
 だというのにどんどん服を脱ぎ捨てて、黒曜帝は視界を遮っていた布をひょいとめくって入ってくる。
 なにも纏わないヒオリは、慌てて後ろの世話係たちを見た。
 助けを求める意味で。
 だが彼らは、正しい主人である皇帝を拒むはずもない。

「ふむ、ここからは庭も夜空も見えるのだな」

 見上げた黒曜帝が見るのは、庭に出る出入り口に備えられた風呂場より上。
 見上げるのは空だ。
 風呂場は庭と部屋の真ん中にある。
 天井はあるが、布を取り払えば湯の温度の下りが早い代わり美しい庭や夜空を見上げる事が出来た。
 白髪の世話係が「湯の温度を上げますか」と黒曜帝に声をかける。
 それに「そうだな」と答え、赤毛の世話係に湯をかけさせたり体を洗わせ始まった。
 これは本格的に入ってくるつもりらしい。
 一糸纏わぬ姿。
 それはヒオリもまた同じではあるものの、それよりも……。

「へ、陛下……」
「どうした?」

 浴槽の縁に大股を広げて座る黒曜帝。
 その、股の真ん中にヒオリを抱き寄せる。
 ヒオリは、振り返ればそこに黒曜帝の一物がある状況。
 とてもではないがそちらを見る事が出来ない。
 漂うのは湯と石鹸の香りと、その雄の匂いだ。
 今日一日、ヒオリは色々といやらしい妄想も多くした。
 その終わりにこの直接的なモノが、真横にあっては思うところも当然出て来てしまう。

(セクハラだ)
(セクハラだ……)

 世話係たちがそんなツッコミを心の中でしているのに気づいているのかいないのか。
 黒曜帝が長い脚で、離れようとしたヒオリの体を絡めとり近づける。
 紛う事なきセクハラ。

「腹の下はよい。ヒオリに洗ってもらうとしよう」
「え!」
「よかろう? ああ、もちろん貴殿にその義務はない。だが、俺は今日随分真面目に働いたぞ? 貴殿は俺を労ってくれないのか?」
「え、えっと……」

 そうだろう。
 複数の国をまとめ上げる皇帝の公務となれば激務に違いない。
 それがたとえ日常であれ、当たり前の事であれ、お疲れになるに決まっている。
 その心労も、ヒオリには想像もつかない事だろう。

「……わ、分かり、ました」

 世話係たちが綿の布に石鹸で泡を立てて、それをヒオリに渡してくれた。
 泡だった布を優しく黒曜帝の脚に擦りつける。
 太く、すらりとした脚。
 縁に載せられた指先まで、その指と指の間まで、しっかりと洗う。
 自分が黒曜帝を洗うというこの行為。
 本来であれば使用人や世話係の仕事だ。
 だが、ヒオリはその仕事に興奮を覚えた。
 世話係たちは、これほどまでに贅沢で栄誉な仕事を行なっていたのか。

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