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第4話
しおりを挟む「あの、あの……陛下が、僕に施してくださる、あの行為に関する本は、ありますか?」
考えた末にヒオリがたどり着いたのは世話係に問う事だった。
あれだけ考えたというのに、なんの捻りもない質問になった事に目を伏せて恥じ入る。
こういう部分もヒオリは経験と知識が不足しているのだろう。
それをまざまざと自覚させられた。
湯に浸けた布で身体中を拭き終えられ、服を着せられながら反省していると左右にいたうち、左の世話係が「ございますよ」とあっさり答えてくれた。
「ほ、本当ですか?」
「はい。ご所望ならば、いくつかお持ちします」
「陛下のために学ばれるのですか?」
右の世話係に目的を確認される。
陛下のために……。
自分の欲望を満たすためとはとても言えない。
「は、はい……いつもされるがままなので……。こ、これではいけないような気がして」
それももちろん理由の一つではある。
人質の身である以上、黒曜帝に従う義務はあれど奉仕をする義務はない。
しかし、されるがままというのもどうなのだろうか、とここ最近考えていた。
二人は頷いて「それならば」「今日中に届けます」とそれぞれ口にする。
トントン拍子で話が進んでしまった。
「すぐに」
「お持ちします」
「しばし」
「お待ちを」
ほとんど同じ声で、交互に告げられる。
布で顔は隠れているが髪の色は同じダークグレー。
二人は兄弟かなにかなのだろうか。
あまり話した事はなかったが、息の合った言葉とお辞儀。
立ち去る二人の代わりに、別な二人の世話係が入ってくる。
お茶とお菓子を持ってきた二人は茶髪と赤毛。
一人がお茶の準備をして、一人がベッドの上のヒオリの下へとやってくる。
「お茶は」
一言聞かれて少し悩む。
しかし、すでに用意されたものだ。
甘いものも好きなので頷いてベッドから降りる。
彼らは名前を聞いても教えてくれない。
規則で、教えてはならない事になっているらしい。
世話係が人質に肩入れしてしまわぬためなのだろう。
先程の兄弟のような二人は若いが、白髪の世話係は恐らくそれなりの歳だろう。
この赤毛の世話係と茶髪の世話係は、声も体も年齢不詳でよく分からない。
おそらく、二十代。
いや、三十代かもしれない。
「ふう……温かい……」
それから少し、お茶をゆっくりと味わった。
心が穏やかになる味だ。
先程自慰に耽っていた事もあり、無意識に緊張していたのかもしれない。
その間に用意された五冊の書物がテーブルの上に置かれる。
仕事の早さに目を見開いて兄弟と思われる世話係を見上げた。
「こちらで足りなければ、調教師の手配も致します」
「こちらで足りなければ、催淫薬などもご用意致します」
「…………。と、とりあえずどちらも大丈夫、です」
二人の口から告げられた単語……『さいいんやく』とやらは、どんなものなのか分からない。
分からないが、不穏な気配は感じた。
「まずはこの書物で勉強してみます、ね」
「「かしこまりました」」
二人が頭を下げて、入り口まで戻る。
茶髪と赤毛は掃除と庭の手入れ。
穏やかな時間の中で、ヒオリは本を開いてみる。
まずは人体の構造。
なるほど、と頷く。
男女の身体の差。
性器差。
その役割の差。
そして、男の尻の中の構造にページが移る。
性器の断面予想図。
性行為に関しての記述。
それによると、勃起した男性器を女性器に挿入し精子を放つと子が出来る。
その原理はまだ未解明とあるが、恐らく精子を女性器の中へ送る事により血の塊のようなものが赤児になるのではないか。
故に女性は月に一度、性器から血が流れ出てくるのではないか。
と書いてある。
つまり、男同士で赤児は出来ない。
(これは医学的な観点から性行為について書かれているんだな。興味深い)
二冊目を開く。
恋物語、いや、官能小説のようなものだ。
こちらも男と女が題材。
ちらりと入り口の二人を見る。
恐らく、こういった情報に疎いヒオリのためにポピュラーな男女の性行為が書かれたものを持ってきてくれたのだろう。
物語であるため、読むのに時間が掛かりそうだ。
男女は奴隷の娘とその主人。
主人の男は奴隷の娘を毎夜抱いて、性行為を楽しんでいるようだった。
(……性行為を楽しむ……)
その感覚は少しだけ分かる気がした。
女性側からすれば、毎晩は疲れるし大変だ。
しかし、その快楽は抗えないものがある。
ヒオリも黒曜帝にされるあれやこれやを思い出してまた腿の間が熱くなるようだった。
女体の魅力的な部分を余す事なく書き上げられた物語は、男がとにかく快感に弱く、女をも快感で性行為に依存させていくような……そんな内容。
それを読み終わる頃には夕餉の時間となっており、黒曜帝がヒオリに与える快感、そして性行為への抵抗感の薄れがその物語に出てくる奴隷の娘と似ている気がして少しだけ気分が落ち込む。
なぜだかは分からなかった。
あの物語は主人の男が、ただ美しい奴隷娘を快感依存にして嘲笑うだけの物語。
(陛下も……僕をあのようにしたいのだろうか?)
だとしたら思う壺になっている。
ヒオリはあの快感の先が欲しい。
……しかし、あの物語のようにはなりたくないと感じた。
あれは嫌だ。
なぜだろうと考えてもはっきりとした答えは出ない。
世話係に湯浴みを勧められて、服を脱がされる。
お湯の溜められた石風呂に浸かり髪を石鹸で洗われ、香油で整えられた。
「お勉強はいかがでしたか?」
声をかけてきたのは茶髪の世話係。
返答に少し間が出来た。
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