【R18】黒曜帝の甘い檻

古森きり

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第10話

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「…………はい」

 それでも黒曜帝を望むのは、もはやあの方なしに寝つけなくなっている自分の我である。
 それを自覚して、木箱を指で撫でた。
 この国を想うのなら、今夜からでも後宮に行くよう進言すべきなのだ。

「分かりました、張り型で、その……練習するので、しばらくは後宮の方へと……お手紙を書きます」
「(えー、そういう事ではないんだが……まあいいか)そうですか。まあ、一度距離を置かれるのも良いかと」
「?」

 クスクスと、布の上からでも分かるように笑う茶髪の世話係。
 お茶を飲み干して、一度部屋に戻る。
 宣言通りに黒曜帝へ手紙を書いて、白髪の世話係に届けるように頼んだ。
 これでしばらく黒曜帝は後宮に行くだろう。
 寂しさは感じるが、それは不自然が自然に戻る事。
 溜息を吐いて、木箱の蓋を……取る。

(……僕が欲しいもの……)

 なんとも逞しい張り型が、藁の上に敷かれた絹の布の上に鎮座していた。
 ごくり、と喉が鳴る。
 扱い方の書かれたメモを持ち上げて目を通す。
 どんどん鼓動が高鳴っていく。
 期待している。
 この張り型が自分に与えてくれる快楽を。

(……僕が……欲しいもの……)



 瞬く間に陽は暮れる。
 とろりとした、粘り気の強い海藻を用いた潤滑油。
 藁のような植物をギチギチに縛り上げたような張り型を、それに漬ける。
 自分の尻穴はすでに準備済み。
 ヒオリは自分でも気づかないうちに、とろみをまとった張り型をうっとりと眺めていた。
 逞しくそそり勃つ張り型を、指でなぞる。
 桶に入れた潤滑油を尻にもたっぷり塗りたくり、吐息を漏らす。
 黒曜帝の渡りの報せはない。
 手紙を読んで、理解してくれたのだろう。
 部屋にはヒオリ一人。
 世話係たちは潤滑油を温めて桶に入れ持ってきて以降、皆気を遣って部屋の外へと出て行った。
 それを見送ってから服を床に脱ぎ捨てて、ベッドにうつ伏せになる。
 尻を上げて、指で軽く刺激していけば日々、黒曜帝に弄ばれるそこはあっという間に二本、三本とヒオリの細指を呑み込んでいく。

「ふっ、ふぅっ……!」

 もう、その頃になるとヒオリの体の中を駆け巡る熱も、自分ではどうする事も出来ないほどになる。
 尻穴へ出し入れする指が止まらない。
 もっと奥へ。
 もっと、黒曜帝がヒオリを気持ちよくする深い場所に。
 そういう欲望がヒオリの指をどんどんスピードアップさせていく。
 肝心なところへは、届かないというのに。

「っくぁ!」

 それでも軽く達する。
 物足りなさが増し、ようやく指を抜いた。
 ほんの僅かに頭が冷静になるが、体の不満の方が大きい。
 張り型を手に取る。
 体の奥がぞくぞくとした。
 期待に胸を膨らませながら、いよいよヒオリは尻の中へと張り型を埋めていく。

「ん、んっ、んぅっ、んっ……んっ……!」

 鼻で息をしながら、ベッドに埋めた顔を逸らしつつ、張り型を自分の限界まで押し込む。
 しかし、思ったよりも異物感の方が大きく、気持ちがいいとは言えない。

「っ……は、はぁ、はぁ……」

 ただ、大きく太い、固いものが自分の中を圧迫している。
 その重苦しい腹に涙が出た。
 気持ちよく、ない。
 これでは黒曜帝に指で尻穴を好き放題に弄ばれていた時の方が、ずっとずっと気持ちがよかった。

(陛下は……こうなる事をご存じだったのだろうか?)

 ヒオリは恐る恐る、張り型をもう一度押し込んでみるつもりで触れてみる。
 だが、その時に気づいた。
 ヒオリがなんとか押し込んだのは張り型の半分程度。
 まだ、半分が外に出たまま。
 愕然とした。
 張り型は黒曜帝の一物と同じくらいの大きさがあったのに、ヒオリの中に収まっているのその半分程度。
 歯の奥が、震えた。

(ひっ、そ、そんな……半分でこんなに苦しいのに……!?)

 ぎち、と尻穴が張り型を締めつける。
 ぬるりとした張り型は、少しずつ抜け始めていた。
 それに慌てて、張り型の底を掴み、押し込む。

「んくっ!」

 奥に痛み。
 これは、昨日の夜に未開の場所に指を入れられた時のものに似ていた。
 しかし、それは指を初めて挿れられた時も思った事。
 最初はとても痛かった。
 それが今では望んで指を挿れてもらい、自ら我慢出来ずに挿れてしまう。
 張り型もきっと同じはずだ。

「……っ……んっ、うっ、ぐっ……!」

 練習する、と言ってしまった。
 手紙でお通りをお断りまでした。
 全てはこれで練習する為。
 黒曜帝の一物を受け入れられるようになるためだ。
 大丈夫、きっとこの張り型も毎日挿れていれば気持ちいいと感じるようになるはずだ、と。
 そして『指と同じように動かせばいいのではないか』と思い至り、手で出したり挿れたりを繰り返してみる。
 ぬるぬるしていた潤滑油が、次第に熱を帯び始めた感覚にはなったが……それだけだ。
 自分の体が熱くなってくわけではない。
 むしろ、痛みと異物感にまったく興奮しない。

「っ……はあ、はあ……う、ううんっ」

 横向きに倒れる。
 必死に張り型を上下に動かす。

 しかし、快楽はいつまで経っても訪れない。
 こんなはずではなかったのに。
 なぜ、なぜ?
 なにが違う?
 滑りは悪くない。
 しかし、押し込んでも苦しくなるだけ。
 快楽は拾えず、腹への異物感が増すばかり。
 それどころか下手なところに当てると奥がズクン、と痛む。

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