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第12話
しおりを挟むそれから一週間が経った。
ヒオリは張り型を使った翌日は休むように白髪の世話係にきつく、言いつけられるようになってしまう。
そのため思うように尻の拡張は進まず、しょんぼりとうなだれた。
庭に出るウッドデッキにあるカウチに横たわり、仕方なく読書の続きをする。
今日の書物は奴隷と主人の恋物語。
またか、と思ったが読み進めるとどうやら違うようだ。
以前は奴隷の女を、主人の男が貶めて快楽漬けにする官能物語。
今回のは、奴隷も主人も男であった。
最初は見目の美しい少年奴隷を弄ぶ主人だが、次第にその無垢な心に打たれて愛するようになる。
しかし、その身分の差故に二人は人目を気にして夜、誰も入らぬ地下で淫らにお互いを貪りあった。
幸せな時間は続かず、主人の弟である男が同じように少年奴隷の見目の美しさに心奪われ、少年奴隷を攫ってしまう。
最後は助けに来た主人の元へと取り戻され、大切にされました。めでたしめでたし。
そんな物語。
だが、目を引くのはその性描写である。
作者が少年奴隷を取り扱う貴族らしく、男同士の性行為についてかなり詳しく書いてあった。
実に興味深く、かつ参考になる。
少年奴隷が主人や調教師に調教されていくところなど、四、五回は読み直してしまった。
「…………」
「……様……」
「………………」
「ヒ……様、読書中、失礼致します、ヒオリ様!」
「うわぁ!」
声がして、顔を上げる。
そこにいたのは赤毛の世話係。
「は、はい!」
「夕餉の時間でございます。……ずいぶん熱心に読んでおられましたね?」
「あ、は、はい。これは、男同士の性行為が書いてあり、参考になりそうだったので」
「なるほど」
この国では黒曜帝に逆らった元貴族や元王族が奴隷に身を堕とされる。
故に、奴隷の数というのは決して多くなく、むしろその手の奴隷は希少でさえあった。
大多数は罪人。
殺人罪は奴隷落ちの刑。
戦争で敵国に『略奪行為』などを働いた者は全員奴隷落ちの刑に処された。
しかし、奴隷に身を落とした者から生まれた子どもは、親から取り上げられて平民の身分で養護施設に預けられる。
彼らは不慮の事故や病などで親がいなくなった子ども、親から捨てられた子どもたちと同じように育てられて十五歳で施設から独り立ちしていく。
そんなような事も、この書物には書いてある。
フィクションとノンフィクションを混ぜた物語のようであった。
そして、そういう高貴な者が身を落とした奴隷というのは慰安が主な仕事。
男であってもそれは女と同様で、一物を切り落とされて尻で奉仕を行う。
男同士の物語とはいえ、ショッキングな内容だ。
「……」
「?」
視線に気がついて顔を上げる。
はためいた布の隙間から笑みが見えた。
「もしかして、この書物を選んだのは……」
「さて? ですが、いい勉強になったのでしたらなによりでございます。本当ならばわたくし自らヒオリ様の調教を行いたいくらいなのですが……陛下に許されておりませんからね」
「え?」
「調教師の技術はあるのですよ、わたくし。奴隷の、ですがね」
「!」
思わず手元の本を見下ろす。
そして、もう一度彼を見上げた。
頷かれる。
辺りをキョロキョロ見回して、それから顔を近づけて耳打ちした。
「では、僕のお尻の、その拡張を手伝ってはくれませんか」
「ええ、ですから陛下に許されておりません」
「…………」
あっさり断られた。
むう、と頰を膨らます。
ここ一週間、ずっと上手くいっていないのだ。
陛下もお渡りがない。
それは人質の下へお渡りがある方がおかしいので、むしろ自然な事なのだが……。
「なぜ陛下は僕に調教師を付けるのを禁止されているのですか……その方が、僕……」
「その前にお食事を」
「あ、そ、そうでしたすみません」
呼ばれていたのを思い出し、部屋の中へと戻る。
そこには兄弟らしい二人と赤毛の世話係が揃っていた。
白髪の世話係は不在のようだが、四人も揃っているのは珍しい。
「ヒオリ様、本日陛下が来られるそうですよ」
「! へ、陛下が……?」
「はい。一週間ぶりに様子を見に来られるとかで……良かったですね」
「…………は、はい」
その一言で、心が浮ついたのが自分でも分かった。
夕餉の味も朧げなほどにそわそわとして、お風呂も早めに、しかし念入りに隅々まで洗い、終わらせる。
下の準備も済ませ、ベッドに入ると今か今かと楽しみになっている自分に不思議な感情を覚えた。
なぜこんなに待ち遠しいのだろう?
一週間会わなかっただけ。
そんなのは、この関係が始まる前まで普通だった。
十歳の頃に離宮に人質として入り、育った頃。
十五でこの行為を覚えさせられるまでは、それほど濃厚な間柄ではなかった。
黒曜帝がどんな生活をしているのかヒオリは分からない。
少なくとも即位後は極端に黒曜帝がヒオリに会いに来る回数は減っていた。
皇帝となり、とても忙しいのだろう。
仲の良かった兄が離れていったようで、ほんの少し寂しくはあったが……お互いの立場を思えば当然の事でもある。
なので……ヒオリにとって十五の誕生日に性行為に近い事をされた衝撃は計り知れない。
だが、同時に「大人になった」と兄のようなあの人に認めてもらえたような気がした。
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