【R18】黒曜帝の甘い檻

古森きり

文字の大きさ
13 / 38

第13話

しおりを挟む

 
 ああ、しかし、あの日から『優しい兄のような人』は兄のようであって兄ではないのだと考えが変わった。
 あの人は兄のようであったが、兄ではない。
 そして……甘い声ではしたないヒオリを責め立て、意地悪な言葉で高ぶらせ、痛みを与えて昇らせる。
 こくん、と思い出す度に喉が鳴った。
 あの人に与えられるものが全て気持ちいいと思うようになって、兄ではなく……『あの人』自身を見るようになっていったような——。

(?)

 胸がぎゅっと詰まる。
 今更寂しさが押し寄せてきたようだった。
 会える。
 会える、会える、あの人に会える。
 その期待が、寂しさを圧迫して別な苦しみで胸を抉っていく。
 クッションを抱き締め、目をきつく閉じた。
 早く、早く、早く、と頭の中で繰り返す。
 肌に触れて欲しい。
 声を聞きたい。
 抱き締めて、その胸に閉じ込めて欲しい。
 頭の中が黒曜帝の事でいっぱいになって、満ちていく。
 思い出せば胸に満ちるものがまた変わっていった。
 温かさが広がる。
 切なさと寂しさ、会いたい気持ちが、どんどん混じり合って温かいものが苦しい。

「なにか祈っているのか?」
「…………」

 足音に瞳を開いた。
 声がした時、耳から脳が痺れていく。
 ゆっくり目を開けて、天蓋カーテンの隙間から長い指が入ってきた。
 黒い髪。
 弧を描く唇。

「あ……」

 切れ長の紅玉の瞳。
 視線が舐めるようにヒオリの全身に絡む。
 胸が熱くなる。
 やっと、会えた、と。

「へ、陛下……お久しぶり、です」
「久しぶり、などと……一週間ばかりだろう」

 ベッドの縁に腰掛けた黒曜帝の指先がヒオリの頰に伸びる。
 その指が頰と、髪を撫でて親指で唇に触れた。
 期待が高鳴る。
 近付いてくる黒曜帝の顔に、目を細めた。
 口付けを——。

「で? 一週間……どのような調子だ?」
「!」

 期待が裏切られるように、体が離れていく。
 しかしその質問は、行為への入り口のように思えた。

「あ、あの……あまり……上手く出来なくて……」
「ほう?」
「えっと、なので……」

 黒曜帝に、貫かれたい。
 しかし、思い出すのはあの鈍い違和感と異物感。
 奥へ張り型を推し進めると感じるぐずぐずとした痛み。
 一週間、黒曜帝に教え込まれたあの気持ちのよさを忘れてしまいそうなほどだ。

「なので、調教師に手伝って頂きたいのですがっ! あのあの、聞いたところによれば僕の世話係に二人、調教の出来る方がいるとの事なので、二人に手伝ってもらってもよいでしょうか!」
「ならん」

 …………とてもいい笑顔で却下された。
 しゅん、とうなだれるヒオリ。

「な、なぜですかぁ……」
「ならん」

 やはり満面の笑みで却下する黒曜帝。
 質問の答えになっていない。
 ヒオリの願いは黒曜帝のモノを受け入れたい、という、黒曜帝のためにもなる……と思われるもの。
 それを説明しても、初めて見るのではないかと思うほどの輝く笑み。
 だんだん恐怖まで感じてきた。

「……どうしても調教師の世話になりたいと言うのか?」
「え? ……ええと、どうしても、というか……そう、ですね……」

 ここ一週間、休み休みだが書物でも男同士の性行為について理解を深めている。
 そこには八割型調教師の存在が出てきた。
 つまり、男同士の性行為には調教師に体の開発を行ってもらうのが一般的……であるというのが、ここ一週間で構成されたヒオリの認識。
 それを言うと黒曜帝の表情が一度固まる。
 口許ヒクヒクと動き、まるで笑っていない目がヒオリを見下ろした。
 深い溜息を吐き、ヒオリを覗き込む。

「俺に頼まぬのはなぜだ?」
「え?」
「調教師などに頼まずとも、俺が手ずから貴殿をの奥を開拓してもよいのだぞ? なぜ、俺という選択肢が出・て・こ・な・い?」
「……。……え、え……?」
「当たり前だろう? 貴殿をここまで開発したのは俺だぞ? 調教師に出来て俺に出来ないはずもない」

 自信満々に言い切ると、ヒオリをベッドに沈める。
 顎を掴まれて見下ろされ、その瞳に見つめられた。
 深い色に呑まれそうになりながらも、目を逸らす事が出来ない。
 こくん、と喉を鳴らす。

(食べられたい)

 その獣のような眼差しに、視線だけで犯されていくような甘く痺れるような感覚。
 身を捻るが逃げられるはずもない。
 大きな手が肌を滑る。
 顔の距離が縮んで、唇に黒曜帝の唇が触れた。

(口付け……)

 ん、と吐息とともに目を閉じて受け入れる。
 口付けは黒曜帝が始めてヒオリに与えた行為の一つ。
 最初はとても優しく触れるだけだった。
 今のような、とても拙い、幼い口付け。
 あの頃はこの口付けに“その先”があるなんて思いもしなかった。
 思った通り、その先を教えられたヒオリは深くなる口付けに胸を高鳴らせる。
 期待通りに角度を変え、時折唇を舐めるように肉厚な舌先が動く。
 唇のシワをわざとなぞるように舐められ、唇を塞ぎ、下唇を食む。
 啄ばむように数回。
 そのあと、いよいよ舌が唇と歯を割って入ってくる。
 始めて舌を入れられた時は驚いたものだ。
 まさか、と目を見開き、困惑して固まった。
 黒曜帝は今のように優しく微笑み、身を委ねろ、と告げて更に深い口付けがあるのだとヒオリに教えてくれる。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

魔王の息子を育てることになった俺の話

お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。 「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」 現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません? 魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。 BL大賞エントリー中です。

世界を救ったあと、勇者は盗賊に逃げられました

芦田オグリ
BL
「ずっと、ずっと好きだった」 魔王討伐の祝宴の夜。 英雄の一人である《盗賊》ヒューは、一人静かに酒を飲んでいた。そこに現れた《勇者》アレックスに秘めた想いを告げられ、抱き締められてしまう。 酔いと熱に流され、彼と一夜を共にしてしまうが、盗賊の自分は勇者に相応しくないと、ヒューはその腕からそっと抜け出し、逃亡を決意した。 その体は魔族の地で浴び続けた《魔瘴》により、静かに蝕まれていた。 一方アレックスは、世界を救った栄誉を捨て、たった一人の大切な人を追い始める。 これは十年の想いを秘めた勇者パーティーの《勇者》と、病を抱えた《盗賊》の、世界を救ったあとの話。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

転生したらスパダリに囲われていました……え、違う?

米山のら
BL
王子悠里。苗字のせいで“王子さま”と呼ばれ、距離を置かれてきた、ぼっち新社会人。 ストーカーに追われ、車に轢かれ――気づけば豪奢なベッドで目を覚ましていた。 隣にいたのは、氷の騎士団長であり第二王子でもある、美しきスパダリ。 「愛してるよ、私のユリタン」 そう言って差し出されたのは、彼色の婚約指輪。 “最難関ルート”と恐れられる、甘さと狂気の狭間に立つ騎士団長。 成功すれば溺愛一直線、けれど一歩誤れば廃人コース。 怖いほどの執着と、甘すぎる愛の狭間で――悠里の新しい人生は、いったいどこへ向かうのか? ……え、違う?

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

【「麗しの眠り姫」シリーズ】溺愛系義兄は愛しい姫に愛を囁く

黒木  鳴
BL
「麗しの眠り姫は義兄の腕で惰眠を貪る」でセレナードを溺愛する義兄・ギルバートサイドのお話。大切で可愛い弟だと……そう思っていたはずだった。それが兄弟愛ではなく、もっと特別な愛だと気づくまでの葛藤や嫉妬を幼き日のセレナたんエピソードを添えて!惰眠とおかしを貪りたいセレナードと、そんなセレナードが可愛くて仕方がない義兄のギルバートのほのぼのBL第二弾!!

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

処理中です...