【R18】黒曜帝の甘い檻

古森きり

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第28話

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 その翌日、朝食もまたあの大きなテントで黒曜帝の横の席で摂った。
 昨夜はあのあと、兄弟のような世話係に見つけてもらい、無事に眠る事は出来たけれど……。

(世話係のみんなに顔に布があってよかったかも……)

 とてもあの二人の顔を見られた自信がない。
 今朝はルゥイギーとクォドがヒオリの着替えを手伝う当番だったのだ。
 昨晩のうちに股や腿の汚れは濡れた布で拭いておいたが、あまりにもあの二人がいつも通りすぎて逆にヒオリの方が動揺してしまった。
 これから約二週間は、あの馬車の中でほぼ一緒。
 いや、帰ったあとも世話係たちとはこれまで通りになるはずだ。
 動揺していてはお互いに気まずくなってしまう。
 ここは二人に直接関係を問い質して確認して、心の安寧を取り戻すべきか。
 それとも、気づかなかったフリをするべきか。

(はっ! そ、そもそもどうして気づいたって聞かれたりしたら……)

 昨日の、あの濃厚な性行為を見てしまったから。
 などと素直に答えられるはずもない。
 あれはヒオリの覗き見なのだ。
 覗き見がバレたら二人の関係がはっきりしても、結局は気まずくなるではないか。
 ではどうしたら。

(そ、そうだ。二人がいやらしい空気になったところを、止めに入ろう! ルゥイギーはあんなに大声を出して……他の人に見られたら……大変じゃないか。そ、そもそも、不謹慎……だ、し……)

 我が事を棚に上げて……と思う。
 ではやはり注意をすべきだろうか、と自問してみるが、昨夜二人の行為に当てられて自慰してしまった手前なんとも説得力はない。
 悶々としながら朝食を摂るヒオリを、黒曜帝がどこか楽しげに眺める。
 それを白髪の世話係が頭を左右に振りながら見守る構図に、数名の家臣は首を傾げた。



 ——しかし、その日からヒオリの悩みはますます深刻化する事になる。


「んっ、あ……気持ちいい……はぁ、そ、そこ、もっと深く……あ、あぁ、そ、そこぉ……」
「ここが気持ちいいのか? どれどれ」
「ひっ!」

 二日目の夜もまた、茂みに隠れて睦み合う二人に遭遇した。
 まだ口づけを交わし、クォドが下着の中に手を突っ込んでいる状況。
 注意するなら今だ、と出ていこうとしたものの、ヒオリにそこまでの勇気はまだなかった。

(う、ううううぅー!)

 自分の泊まるテントへと逃げ去る。
 逃げながら考えた。

(だ、誰かに代わりに注意してもらう……!)

 と、決めて翌朝白髪の世話係に話してみた。
 あの二人は付き合っているらしいが、外で行為に耽るのはいかがなものだろうか。
 貴方から注意してもらえませんか、と。
 しかし、返ってきた答えは思いもよらないもの。

「はて……恋仲に、ですか? あの二人が?」
「え? だ、だって……」
「ふむ、まあ……大目に見てください。あの二人はどちらも奴隷の性調教師でしたからな。時折ですが、皇宮の中にも性調教をあの二人に依頼してくる者がおるのです」
「ええっ!?」

 本気で驚いて聞き返した。
 皇宮の中に。
 調教師を必要とする者が……いる。
 どんな人間が皇宮内で性の調教師を必要とするというのか。

「特にあの二人は若く、布の下の見目も良いので、後宮の妃候補たちには人気が高い」
「!?」
「皇宮に帰ったあと、そちらの仕事に支障をきたさぬよう訓練しておるのでしょう。性調教に関しては私も分からぬ事が多いので、詳しく知りたいのでしたら二人に直接……」
「い! いいいいいえ!」

 ……まったく以って思いもよらない答えであった。
 しかし、妃候補たちからすれば性技でもって皇帝を魅了したいと思うのは道理である。
 彼女らの仕事は黒曜帝の子を産む事だ。
 黒曜帝が後宮に通う事は少ないそうだが、あの方に性欲があるのをヒオリはよく知っている。
 それを彼女たちは自分だけに向けたい。
 そうすれば世継ぎを産み、正妃となり、生涯安泰ともなろう。
 無論、野心の強い女はそれだけでは到底満足しないだろうが、その足がかりに皇帝の興味を性技で引こうと考える者は……多そうだ。
 そして、あの布の下の二人の顔貌。
 整っており、ルゥイギーは美しくクォドは勇ましい。
 女であればどちらかに躾られたいと思うのも無理ないだろう。
 人気がある、と言われれば納得する要素しかない。

「そ、そうですか。でも、あのルゥイギーは……あの、受け入れる方でしたが、それも役に立つものなのでしょうか?」
「直接お聞きに……」
「っ~~~!」

 ブンブン、首を左右に振る。
 そんな勇気はない。

「ふむ……まあ、気が向いたらお聞きになればよろしい。それはそれとしまして……ヒオリ様」
「は、はい。なんでしょうか」

 突然改まって、白髪の世話係が背を正す。
 なにか不穏な気配を感じつつ、ヒオリも背を正して見上げた。
 なぜだろうか、彼は布の下で笑っている気がする。
 しかしその笑顔は決して優しい意味合いを含んでおらず、むしろ——。

「……ルゥイギーの名をご存じという事はクォドの名も?」
「ふ、ふぇ……」
「ほほう? あの二人は仕来りを破ったのですかな? ヒオリ様に名を教えたという……」
「ち、違います! あの、あの、こ、こここ行為の際に名を呼び合っておりまして……!」

 カーッ、と思い出して顔を熱くするヒオリ。
 それを聞いた白髪の世話係から圧が消える。
 ホッとしたが、次に聞こえたのは溜息だ。

「分かりました。しかし、知らぬふりを続けてください。名と顔を知られれば世話係は続けられませんからな。遠方に出ておる今、世話係を変えるのは無理です。……まさか顔までは……」
「み、見ておりませんよっ!」
「ならばよろしい」

 ……彼から二人に注意してもらうのは到底無理そうである。

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