【R18】黒曜帝の甘い檻

古森きり

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第29話

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 あれから更に一週間が過ぎ、旅は順調。
 そう、旅は順調なのだが、ヒオリの悩みも順調に深まっていく。
 ここ一週間、ほぼ毎日あの二人が性行為に耽っているのを目撃してしまうからだ。
 おかしい、と頭の片隅では思っている。
 しかし、それを深く考えると「自分があの二人の性行為を覗きに行っているのではないか」という考えが頭をよぎってしまう。
 そんなはずはない、と思うがどんどん自信はなくなる。
 はしたない。
 不謹慎だ。
 そう思うのに、なぜああもあの二人の行為に惹かれるのだろう。
 情熱的で扇情的で、とてもいやらしく官能的。
 混ぜて欲しいわけではない。
 見てしまえば引き込まれて、自慰してしまう事も度々あった。
 だが一番は『羨ましい』。

(僕も、僕も陛下に……)

 二人が口づけて、睦み合う姿がとても羨ましいのだ。
 ヒオリも黒曜帝に口づけてもらい、あんな風に優しく、そして激しく愛してもらいたいと——。

「…………」

 そうだ、愛してもらいたいのだ。
 本で読んだ曖昧な知識と、自分の気持ちと、そして二人の愛し合う姿でぼんやりとしていたものが形になっていく。
 白髪の世話係は、あの二人は恋人にはなり得ないと言っていたが、あんなに毎晩深く愛し合っているのならきっと恋人なのだろうと思う。
 そう思ったら自然にヒオリの中の答えも出た。

(僕は陛下が好きなんだ……)

 だから触れて欲しくて堪らない。
 愛しい、愛しい。
 そんな黒曜帝を拒んで数週間。
 一切触れてこなくなった黒曜帝に、焦りと悲しみが強くなる。
 自分が悪い。
 自分が拒んだのだから。
 でも、この気持ちを自覚してからは『東の民に申し訳がない』という想いよりも黒曜帝に触れたいし触れられたいという気持ちが優っている。
 こんなに長く触れられないのは初めてだった。
 だと言うのに、朝餉と夕餉では黒曜帝は柔らかくヒオリに向かって微笑みかけ、言葉を投げてくる。
 それに答えていくと、どうにも堪らなくなってしまうのだ。

(僕は陛下を拒んだのに、陛下は僕を怒っておられない……)

 優しく、慈悲深い眼差しを向けてくる。
 あの瞳に見下ろされているだけでおかしくなってしまいそうだ。
 かたん、ことん、と揺れる馬車。
 陽は落ち始め、そろそろ次の町が見える頃。
 東の国『エンラン』まで一週間も掛からないだろう。
 黒曜帝は直接赴き、ヒオリに『魔窟』やそこから溢れる異形を制するところを直に見せるつもりだと白髪の世話係は言っていた。
 だが、今は——。

「?」

 どこかピリピリとした気配に思考を中断して顔を上げる。
 馬車が町の少し手前で止まった。
 窓の外を見ると、数人の騎兵が駆けていく。

「異形ですな」
「!」
「やはりこの辺りまで移動しているモノがいましたか」

 白髪の世話係が呟き、茶髪の世話係、ルゥイギーが反対の窓を覗く。
 異形の討伐速やかに行われ、黒い靄が一瞬だけ立ち込め……そして消えた。
 異形が現れたところはヒオリの馬車よりもだいぶ離れていた為、その姿は分からなかったが……。

(東の国に、近づいているんだな)

 それを実感するのには十分な出来事だった。

「さて、本日はこちらの町に泊まります。明日には『エイラン』の国境に到着する事でしょう」
「いよいよなのですね……」

 先に降りて行く白髪の世話係と、兄弟のような世話係たち。
 彼らは簡易テントを張り、夕飯の準備にとりかかる。
 馬車の中に取り残されたのはヒオリとルゥイギーとクォド。
 とても居心地が悪い。
 二人は至っていつも通りなのだが、ここ数日、早ければもうこの時間帯から性行に耽っている。
 欲求不満が煽られて、尻の方がじんわりと熱を帯びるようだ。

「ヒオリ様」
「ひっ! は、はい」

 もじ、と腿をすり合わせていたところに声をかけられて、恐る恐る振り返る。
 後ろの席にいたルゥイギーが、布越しでも笑っているのが分かった。

「そんなに怯えないでください。ちょっと質問したいだけです」
「質問……は、はい。なんでしょうか」
「私が調教師なのはご存じですか?」
「は、はい、存じております」
(なんだこの会話)

 と、クォドが内心突っ込んでいるのを知らず、二人の独特な会話は続く。

「私は主にご主人様の方を躾るタイプの調教師なのですが」
「? ご主人様を躾る?」
「簡単に言うとご主人様になるタイプの権力者の男性は、雑でド下手な方が非常に多いのです。あ、性行為の話です」
「な、ななんと……」
「…………」

 なんとも言えない。
 クォドが二人を見守りながら、若干どうしていいのか分からなくなっている。

「陛下も私が指南したんですが」
「…………え?」
(ああ、そういう……)

 ここまできてようやくクォドもルゥイギーの意図を把握した。
 なんとなくこの二人の会話はゆるい。
 それで意図が読めなかったのだ。
 ヒオリの方はただただ唖然となる。
 ルゥイギーが、黒曜帝を、指南した。

「まあ、もちろん女性の調教も行うんですけどね。主に男性側の方……陛下の一物はとても素晴らしかったですよ。やり方を教えたらすぐに呑み込んでいって……あ、呑み込んだのは私なんですが」
「そういうのやめろ」

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