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町を守るために 3
しおりを挟む「ああ、そうだな。隣の町はここから一日かかる。夜の移動は危険だが、俺が直接出向いて食糧を買い集めてくる」
「親父……! なら、俺も一緒に行くぜ!」
「お待ちください。他にも近くの村の住民をトリニィの町に避難させる時間が必要です。……魔獣大量発生が起こると、必ず村が真っ先に襲われますから……。その時に村から食糧を持ってきてもらいましょう。近くの村がどれくらいあるのか、規模やわかれば人数なども……エルンさん、教えていただいていいですか?」
「は、はい! もちろん!」
宿の中に戻り、地図を取り出して周辺の村についても説明する。
村……そうだ、村の存在をすっかり失念していた。
シシリィは「わたしの母も、取り残された村を助けに行った時に……」と悲しげに微笑んだ。
ギルマスとベリアーヌ、そしてシシリィの母は、魔獣大量発生の最中に巻き込まれ、防衛が遅れた村を助けに行ったのだという。
けれど、魔獣大量発生の勢いは凄まじく村は壊滅。
今はもう、地図に村の名前は残っていないそうだ。
ギルマスたちが命をかけて救おうとした村の末路。
それを聞いてしまうと、確かに備えられるのなら備えるべきだ。
今から備えて村の人たちを非難させられれば、たとえ応援が間に合わなくても村の人たちの命は救うことができる。
「夜に訪れると逆に騒ぎになりかねませんから、明日の朝に手分けして村を回りましょう。トリニィの町の町長さんに手紙を書いてもらえれば、信用してもらえると思いますし」
「なるほど」
「色々やることあるんだなぁ」
と、隣を歩くナットがシシリィの言葉に感心した声を出す。
シシリィは「それはそうですが、なんの備えもない状態で魔獣大量発生が起こるとそれすらできませんからね」と言う。
備えられなければその分、多くの死傷者が出る。
備えというのは、その死傷者を減らすためのもの。
どちらも大変なことだが、死傷者を出さない方がマシに決まっている。
むしろ、こんな準備をできる方が稀だ。
宿の食堂に戻ってから改めて今後の方針をまとめて、ギルドに戻る。
ベリアーヌや町長、ギルドにいた職員や冒険者にも情報を共有してから、その夜は町の周りに大きな柵を作る程度のことを行なった。
一応外壁はあるものの、準備ができるのならそのぐらいの気休めはないよりマシだろう。
陽が登り始めたと同時に、町長の手紙を預かった数名の冒険者が近隣の村へトリニィへ避難してくるよう誘導に向かった。
エルンは朝食作りを手伝いながら、ギルドの方にも食事を運ぶ。
よくやっていたことだ。
「リエマユに聞きたいのだが、魔獣大量発生はいつ頃起こりそうなんだ?」
「リエマユ、わかる?」
食事を食べながらベリアーヌがリエマユに聞くので、召喚して聞いてみる。
エルンを知っている冒険者はギョッとして押し黙り、知らない冒険者は「おお!」と驚愕した。
なにしろクイーンラッキーエアリスを“召喚”したのだ。
エルンを馬鹿にしていたトリニィの冒険者たちにとって、それは度し難いのだろう。
「“かず”があつまったら、やるっていってた」
「数か。どれほど集まっているかまでは——」
「わからん」
「だよな」
「でも“じかん”はないとおもうで。ベヒーモスは“き”がながいヤツじゃないからな」
「そうか、そうだな。……よし、シシリィ、近隣のギルドから冒険者を集めてくれよな」
「わかりました。……騎士団が渋っているんですね?」
「ああ」
「!」
腕を組んで、その上に大きな乳房を載せるベリアーヌ。
そのたゆゆんと揺れたお乳に思わず目を奪われたが、話の内容はそれどころではない。
「騎士団が……来て、くれないんですか?」
「冒険者ギルドとの関係が微妙なのは知ってるな?」
「は、はい」
賊を引き渡そうとしたら、手数料を取られるほどなのだ。
確かに王都の治安を悪くしているのは、堕ちた冒険者かもしれない。
それにしても嫌われすぎである。
「エドから連絡が来たんだが、朝イチで報告に行ったら真偽の調査を行うからと断られたらしいんだな」
「真偽の調査——ですか。確かにそれはそれで必要かもしれませんが……時は一刻を争うもの。騎士団の対応は、間違いではありませんが……」
「エドは冒険者ギルドの長! それが直々に報告に行ったのに、騎士団長は多忙を理由に会いもしなかったらしいんだな!」
揺れた。
いや、そこではなく。
テーブルを殴ったベリアーヌの怒り具合に、シシリィも「まあまあ」と両手を揺らして宥める。
しかしながらつまり、騎士団は冒険者ギルドが嫌いすぎて応援を拒んでいるということだ。
人の命が、村や町の存命がかかっているというのに、いがみ合いをここまで持ち込むとは。
大人気ないというか、騎士らしからぬというか。
ケイトが昨今の騎士団にがっかりしている気持ちも、わかってきてしまう。
「しかも商人ギルドからも『ラッキーエアリスを渡すならば、物資を売らない』って連絡きたらしいな!」
「タータを、ですか!?」
「多分シシリィのタータだと思ってないと思うな。エルンが最近町を見て回ってたからだろうな」
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