33 / 51
町を守るために 2
しおりを挟むなんでエルンがお貴族様の娘を連れてきたのか。
そりゃあ、わけもわからないだろう。
迂闊なことも言えないから、固まる他ない三人。
「あ、あの、落ち着いて聞いてほしいんだけど……」
事情を一から説明すると、最初、エルンの活躍の部分は嬉しそうに聞いてくれた彼らも魔獣大量発生が起こりそう、というところまでくると顔つきが変わる。
みんな不安げに顔を見合わせたあと、大将が「そういうことなら、こっちだ」と宿の裏手にある食糧庫へ二人を案内してくれた。
「各々、家の中に最低限の備蓄はあるはずだが、うちの食糧庫は町になにかあった時用に常に多目に備蓄がある。それと、同じように食糧庫の中に特別製の井戸があってな。他の地下水路とは違う水路を使ってるから、表の井戸になにかあってもこっちは使えるって寸法よ」
「素晴らしいです! 王都でもなかなか見ない設計ですが、ふむふむ、これは見習うべきところが多いですね! 侵入者防止用の防御結界はもとより、地面からの侵入にも備えて床も石造になっており、倉庫の外はねずみ返し、万が一に備えて石材により地面より高い場所に造られている……素晴らしい!」
「おお、そこまでわかってくれるか! そうなんだ!」
エルンには見慣れた食糧庫だが、そんな細やかな仕組みがたくさんあったとは思わなかった。
ほえー、と口を開ける。
シシリィが倉庫の中も「素晴らしい! これは耐火性が高い炎陽樹が使用されているのですね!」とさらに食糧庫を褒めてくれた。
知識が豊富な人だと思っていたが、よもや建築関係まで明るいとはすごすぎる。
(俺、こんな人の隣に、本当に立てるのかな……)
どんどん自信がなくなっていく。
「なあなあ、あの子すげーしすげー可愛いな」
「あ、う、うん」
話しかけてきたのは幼馴染のナット。
シシリィのことをベタ褒めだ。
「俺のスキルが珍しいって、見つけてくれたのもシシリィさんなんだ」
「え! ……そうか、あの子がお前のスキルのことを見つけてくれた“王都のギルドの受付嬢”なのか。やっぱり王都にいる人はすごいんだな」
「うん、王都は本当にすごいところだよ。学ぶべきものがたくさあるし、学んでも学んでも……学べば学ぶほど自分の無知っぷりがわかるというか」
「お、おお……」
「シシリィさんも、俺と同い年くらいなのに『剣聖見習い』でもあるし」
「マジで!?」
「俺なんか本当に田舎のダメなガキだなって、思うよ……」
「お、おお……」
そう。
知識や技術を身につければつけるほどにシシリィのすごさ、優秀さがわかる。
優しく、かわいらしく、細やかな配慮ができるだけでなく、彼女は本当にすごい人なのだ。
自分の中の“やりたいこと”のイメージでは、彼女と肩を並べて迷宮を進む自分が浮かんだが、今の自分では到底彼女の足元にも及ばない。
ならばせめて彼女になにかお礼がしたいと思う。
しかし、そのお礼が思いつかない。
どうしたら彼女に恩返しができるのだろう。
(【限界突破】のスキルで『巫女見習い』の上限を上げて以来、特になにもしてないしなぁ!)
あれはエルンの【限界突破】がどのような効果を発揮するか調べるために、実験も兼ねて行われたものだ。
とても恩返しとは呼べない。
あれ以降シシリィから頼まれる事柄は、主に簡単なエルンにもできる範囲の些細な仕事ばかり。
(あれ、俺もしかしてギルド職員としてもまだ『研修職員』の扱い——!?)
気づかなくていいことに気づいてしまった。
「来なさい、ジェッツ!」
シシリィが倉庫の前で召喚したのはタータではなくアーク・コンドルという鳥型の魔獣。
ジェッツというネームのそれは羽ばたいて食糧庫の屋根の上に留まる。
「魔獣!?」
「召喚獣っていうんだ。『魔獣使い』の職業スキルで、テイムした魔獣を影に潜ませて必要な時に召喚できるんだよ。俺も一体テイムして、今影の中にいるんだ」
「へ、へええ、あの子『魔獣使い』の職業も持ってるのか。すげーな、本当に。でもあの魔獣なんなんだ?」
「アーク・コンドルだな。視力がものすごくいいんだけど、アーク・コンドルは夜行性で夜目も利くんだ。主な主食は腐肉や死肉で、鳥だけど鼻がいいんだ」
「へぇ~。魔獣に詳しくなってるなエルン」
「あ、うん」
一応『魔獣博士』の職業も持っている。
まだまだ勉強中の身ではあるが、だんだんと役に立つことが増えてきたように思う。
「ジェッツには夜間の食糧庫警備をお願いします。ジェッツは普通にレベルが高いので、弱い鳥型魔獣が襲ってきてもなんとかしてくれるでしょう」
「コオオオァン」
「はい、よろしくお願いします、ジェッツ。頼りにしていますね」
「キュオオオォン!」
強い信頼だ。
タータといい、シシリィの『魔獣使い』としてのレベルはエルンより高いだろう。
(あ、いや、俺そもそもまだ『魔獣使い見習い』しか持ってなかった……)
レベル以前の問題である。
「ですが、食糧自体は想定よりも少ないです。魔獣大量発生が起これば、より多くの冒険者や騎士団がこの町を拠点にします。ことが起きてから王都より食糧を転送して運び込むよりも、備えられるのであれば備えましょう!」
11
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
幼子家精霊ノアの献身〜転生者と過ごした記憶を頼りに、家スキルで快適生活を送りたい〜
犬社護
ファンタジー
むか〜しむかし、とある山頂付近に、冤罪により断罪で断種された元王子様と、同じく断罪で国外追放された元公爵令嬢が住んでいました。2人は異世界[日本]の記憶を持っていながらも、味方からの裏切りに遭ったことで人間不信となってしまい、およそ50年間自給自足生活を続けてきましたが、ある日元王子様は寿命を迎えることとなりました。彼を深く愛していた元公爵令嬢は《自分も彼と共に天へ》と真摯に祈ったことで、神様はその願いを叶えるため、2人の住んでいた家に命を吹き込み、家精霊ノアとして誕生させました。ノアは、2人の願いを叶え丁重に葬りましたが、同時に孤独となってしまいます。家精霊の性質上、1人で生き抜くことは厳しい。そこで、ノアは下山することを決意します。
これは転生者たちと過ごした記憶と知識を糧に、家スキルを巧みに操りながら人々に善行を施し、仲間たちと共に世界に大きな変革をもたす精霊の物語。
地味な薬草師だった俺が、実は村の生命線でした
有賀冬馬
ファンタジー
恋人に裏切られ、村を追い出された青年エド。彼の地味な仕事は誰にも評価されず、ただの「役立たず」として切り捨てられた。だが、それは間違いだった。旅の魔術師エリーゼと出会った彼は、自分の能力が秘めていた真の価値を知る。魔術と薬草を組み合わせた彼の秘薬は、やがて王国を救うほどの力となり、エドは英雄として名を馳せていく。そして、彼が去った村は、彼がいた頃には気づかなかった「地味な薬」の恩恵を失い、静かに破滅へと向かっていくのだった。
元皇子の寄り道だらけの逃避行 ~幽閉されたので国を捨てて辺境でゆっくりします~
下昴しん
ファンタジー
武力で領土を拡大するベギラス帝国に二人の皇子がいた。魔法研究に腐心する兄と、武力に優れ軍を指揮する弟。
二人の父である皇帝は、軍略会議を軽んじた兄のフェアを断罪する。
帝国は武力を求めていたのだ。
フェアに一方的に告げられた罪状は、敵前逃亡。皇帝の第一継承権を持つ皇子の座から一転して、罪人になってしまう。
帝都の片隅にある独房に幽閉されるフェア。
「ここから逃げて、田舎に籠るか」
給仕しか来ないような牢獄で、フェアは脱出を考えていた。
帝都においてフェアを超える魔法使いはいない。そのことを知っているのはごく限られた人物だけだった。
鍵をあけて牢を出ると、給仕に化けた義妹のマトビアが現れる。
「私も連れて行ってください、お兄様」
「いやだ」
止めるフェアに、強引なマトビア。
なんだかんだでベギラス帝国の元皇子と皇女の、ゆるすぎる逃亡劇が始まった──。
※カクヨム様、小説家になろう様でも投稿中。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
荷物持ちを追放したら、酷い目にあった件について。
しばたろう
ファンタジー
無能だと思い込み、荷物持ちのレンジャーを追放した戦士アレクス。
しかし――
彼が切り捨てた仲間こそが、
実はパーティを陰で支えていたレアスキル持ちだった。
事実に気づいた時にはもう遅い。
道に迷い、魔獣に襲われ、些細な任務すらまともにこなせない。
“荷物持ちがいなくなった瞬間”から、
アレクスの日常は静かに崩壊していく。
短絡的な判断で、かけがえのない存在を手放した戦士。
そんな彼と再び肩を並べることになったのは――
美しいのに中二が暴走する魔法使い
ノー天気で鈍感な僧侶
そして天性の才を秘めた愛くるしい弟子レンジャー
かつての仲間たちと共に、アレクスはもう一度歩き出す。
自らの愚かさと向き合い、後悔し、懺悔し、それでも進むために。
これは、
“間違いを犯した男が、仲間と共に再び立ち上がる”
再生の物語である。
《小説家になろうにも投稿しています》
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……
karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる