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間章
面倒ごとの予感(1)
しおりを挟む「——いや、でも確かにあの『神の手を持つ悪魔』なら魔法という新技術を編み出して、世界に植えつけるぐらいするかも……」
「……しそうだね」
「だろう?」
「ええ……?」
顎に指をあてがい、ナルミさんが神妙な面持ちでなんか言い出した。
それにデュレオもシズフさんも賛同する。
本当どういう人なんだよ三号機の登録者の人ぉ!
「あいつ、ギアンの人格データから作られた擬似人格でしょ? ヒューマノイドにダウンロードさせないでよ? ナルミ」
「さすがのオレもあいつの人格データをダウンロードする気にはなれないねぇ。三号機の登録者は本当に災難としか言いようがない」
…………。ん?
人格データ? 擬似人格?
あ? なんかそういえば前もそんなような話を、聞いたような。
……ああ、三号機の登録者も幼い頃に登録者になってしまって、しかも戦いに向かない性格だったから生存させるために擬似人格が植えつけられたんだっけ?
ギア・フィーネヤベーって思ったけど、確かに7歳か8歳くらいの頃じゃ、一号機の登録者と同じ末路だったかもしれないもんなぁ。
「デュレオ」
「あ? なに?」
「デュレオの歌が聴きたい」
「…………。は? は? な、なに、言ってんの?」
そしてやはりシズフさんは電波系ど天然すぎないか。
脈略がなさすぎる。
今までの会話からの、どうしてそうなった?
そりゃデュレオじゃなくても「は?」ってなるわ。
「本当いきなりなに言い出すの。意味わかんなくて引くんだけど」
「——待てよ……? お茶会は無理だけどライブならすぐ開けるんじゃないか?」
「ちょっと王子サマ?」
ピーンときてしまった。
お茶会は貴族の勢力図を調べ直すところからだが、デュレオという『美と芸術の神』のお披露目ってことにして学院の広場に人を集めたら楽に現在の貴族の情勢も調べられるし、平民生徒たちに学院の外のお客の対応をさせれば学年関係なく大勢にバイトをさせることができるのでは?
シズフさんはデュレオの歌を聴けるし、ついでにデュレオの歌で石晶巨兵新型試作機とデュレオの歌が本当に聖女の魔法と同じ効果を発揮するかどうかも調べられるし一石二鳥……いや四鳥ぐらいあるぞ!
「なんで俺が——!」
「それに、俺もデュレオの歌をまともに聴いてみたかったし!」
「っぐ……!」
「前は戦闘中だったし、色々それどころじゃなかったからちゃんと聴いてみたかったんだよな~。千年前の大人気歌手だったんだろ? ディアスが『俺でも名前を知っている』って言ってたし!」
「っっっ……」
「わたしも聴いてみたいです! 結晶化津波の時は二曲も歌っていましたけれど、どちらも違う曲だったからびっくりしました! もしかして、他にも色々な曲を歌えるんですか!?」
レナ、参戦。
っていうか、結晶化津波の時二曲も歌ってたんだ……!
本当に全然まともに聴けてなかったんだな、俺。
「ヒューバートとレナが聴いてみたいなら、ぼくも聴いてみたい!」
ジェラルド、参戦。
無垢な瞳でキラキラ見上げてる。
これは、凄まじい威力。
「俺は今聴きたい」
「ぐっ……うっ……」
「でないと、眠くなってくる……」
「そういう意味かよ!」
シズフさん寝ないためにデュレオの歌をご所望だったのか!
神格化したけど、シズフさんは生まれつき細胞に異常がある人。
だからラウトの結晶病に感染したまま、破損部位が結晶魔石として体外に排出され続ける。
ナルコレプシーは脳の神経細胞が“起きている”ために、必要な物質を作り出せなくなった状態の病。
本来薬で補えるらしいが、現代にそんなもんはない。
なんならこの人はその手の薬が体内の身体強化用ナノマシンに阻害されて、効かなかったとか。可哀想。
でもデュレオの歌を聞くと戦闘時みたいに目が冴えるんだって。不思議だね。
「っていうか別に寝ればいいじゃん! 危ないものとかないんだしさぁ!」
「なに照れてるの? プロの歌手なんだから歌えばいいじゃん」
「プロだからこそ安売りもしねーんだよ!」
ナルミさんが間違いなくデュレオを揶揄う意味で便乗してきたが、逆効果だったー!
ああああ、聴くチャンスがー!
「でもコンサートはやろう」
「切り替え早。まあ、お給料出るならやるけど。プロなので」
「お給料かぁ。お金でいいのか?」
「いいよ。お金ってどの時代でもいくらあっても困らないし」
現実的ぃ。
「『美と芸術の神』のお披露目だし、聖殿の予算から捻出するとしよう」
「おやおやおやおや、さすがヒューバート殿下。なかなかのことをお考えになりますねぇ。いいと思います」
「でしょー?」
リーンズ先輩にお墨付きをいただいたぜ。
「そうだ。あと、ナルミさん」
「なんだい?」
「セドルコ帝国のことなんですが、なにか新しい情報は入ってますか? メリリア元妃が逃げた件も」
「「え!」」
ああ、レナとジェラルドは進級試験でいっぱいいっぱいだったから、メリリア元妃のことは聞いてなかったのか。
めっちゃびっくりさせてしまった。
「そうだねぇ……帝国の使者をダシに使って、その隙に帝国の影部隊が塔から連れ出したみたい。メリリアが帝国に接触したというよりは、帝国側からメリリアに目をつけて接触したみたいだよ」
「やっぱり……」
「ん~? メリリア様を帝国が助ける意味、なにかあるの?」
と、首を傾げるのはジェラルドだ。
まあ、側から見るとそう思うだろう。
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