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小説と現実の部屋
しおりを挟むあれからの時間の経過は本当にわからない。
ただ、地下であることはまず間違いない。
階段を下った回数は一回で、階段を上った記憶がないからだ。
まあ、奴隷呪の首輪で階段を上った記憶を消されていたらわからないけれど……さすがにそんなことはできないよね?
目隠しは地下室らしき部屋に入れられてから外され、部屋を見回してみた時、あまりの豪華さにゾッとした。
赤いビロードの天蓋つきベッド。
シーツもブランケットも枕もクッションも高級なシルクで作られており、寝間着も同じく最高級シルク。
スリッパもおそらく異国の動物毛を使ったもので編んだもの。
家具もモルゾドール様の家にあったものよりも光沢のあり、頑丈そうで装飾品がふんだんに使われてる。
しかも、その装飾品の細工の細かさたるや。
上を見上げれば部屋の大きさに不釣あいなぐらいのシャンデリア。
無駄としか思えない花瓶や絵画、タペストリーが部屋中に飾られている。
別の意味で戦々恐々となる調度品の数々。
ガシャンと音が鳴り、振り返ると扉が壁になっていた。
食事はいつの間にか食器棚の中に置いてあり、調べると奥に小さな扉のようなものがある。
触れるがびくともしないので、多分隣の部屋からロックがかけられるようになっているのだろう。
とはいえ、この食器棚が壁に埋まっているものではないのでここの部分だけ穴が開けられている?
そしてトイレやお風呂は逆隣にあった。
水は通っているし、タオルなどの備品も取り揃えてあり完全に上位貴族の客間のようだ。
食事にはナイフやフォークも普通に出されているし、天蓋にはカーテン留めが普通についていることから自殺されるなんて微塵も疑っていない。
奴隷呪の首輪の力が絶対にそれをさせないと確信しているんだろう。
実際このままじっとしているわけにはいかないのに、逃げ出す気はまったく起きない。
生贄として殺されるのを待つばかり。
なら、意識を変えてはどうだろうか。
この部屋の中に散りばめられている仕掛けを解く……と、考えたら?
食事が食器棚に出てくるということは、この部屋と風呂トイレの部屋の外には人の行き来ができる空間があるということ。
まあ、僕がここにいる時点で当たり前だけれど。
ここに入れられた、という事実。
出入り口が間違いなくあるという事実。
生贄としてるいつかは出られるという確信。
でも、そうなった時にはもう遅い。
その前に、ええと……そうだ、逃げるのではなく、ヘルムート様の家に家事を教わりに、行かなければ。
そういう思想なら、どうだろう?
体は……動く?
――立てた。
逃げ出すのではない、別のことをしにいく。
そう思うと呪いの効果外になるらしい。
意外に判定が限定的みたいだ。
いや、そもそも思考低下で逃げることそのものを思いつかないから、強制力を分散できるのではないだろうか。
奴隷呪の首輪について調べておいてよかった。
改めて、部屋の周りを見る。
もしも監視があったらとしたら僕の様子を見てなにか動きがあると思う。
逆になにもなければ監視もなく、奴隷呪の首輪頼りになっているってこと。
そっとヘルムート様の自宅離れに“家事を教わりに行く”のは無理じゃないかもしれない。
問題は、部屋の中から外へ出る仕掛けがない可能性があるところだろうか。
でもこの部屋の調度品の数々を見るとただ仕掛けを隠すために置かれているとは思えない。
なにか、高貴な人を保護したり、高貴な人の――処刑待ちの部屋、みたいな……まあ、小説の中での印象で現実は違うかもしれないけれど。
第一、もし本当にそんな部屋が存在するのなら公的機関にあると思う。
そんな場所を侯爵様とはいえ無断で使えるとは思えない。
それとも、侯爵様が場所を管理しているのだろうか?
公爵様ならそこまでしていてもおかしくはない、かも?
いや、でもさすがに無断で使うのはまずい、よね?
「あ……」
思わず声が漏れそうで慌てて口を両手で覆う。
確か、名探偵クロイドシリーズの4巻に『調度品の多い牢獄』があった。
実家で読んだものだから、記憶があいまいだけれど調度品に隠された仕掛けを見つけて謎を解き、脱出する話だったような……。
そういえばあれも異国の邪教が適役で、邪教に捕らわれた探偵の助手が探偵の思想を真似て謎を解いていく少し毛色の違うお話だった。
まず、探偵助手は部屋の調度品を見回していた。
調度品の共通点、配置、大きさ、種類の観察。
「あれ……」
部屋の四隅に僕の腰くらい大きな壺がおいてある。
すべて同じ柄、同じもの。
でも他の調度品に同じものはない。
なんとなく、この部屋のものは一点ものなんじゃないだろうか?
そんな中で同じものが部屋の隅に四つ。
近づいて一つ一つ中身を覗いてみると、一つだけ底に水が張っている。
それを見て思わず目を見開き、息を飲んでしまった。
小説の中とまったく同じじゃないか……!
無意識に部屋の中を見回して、監視がないのを確認してしまった。
呼吸を整えてから、胸を撫で下ろして心を落ち着ける。
確か、作者ヒューズ・ロッセの名探偵クロイドシリーズに感銘を受けたファンの貴族がお金をかけて、同じような仕掛け部屋を再現したいという申し出があった――のようなことを7巻のあとがきに書いてあったけれど、本当に“趣味で”造った人がいたのか……!
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