“用済み”捨てられ子持ち令嬢は、隣国でオルゴールカフェを始めました

古森きり

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15話

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「えっと……湖畔の辺り、って言ってたよね」
「キキィ」

 宿を回り込むと、大きな樹があった。
 その根本に食い込むように扉がある。
 湖畔の一部に柱が打たれ、家が樹の一部のように建てられている。
 なんでオシャレなの! 素敵!
 いいなぁ、こんな素敵なところに住んでみたい!

「ご、ごめんくださーい」

 声をかけるが反応はなく。
 その代わり、室内から音楽のようなものが漏れ聞こえる。
 なんだろう?
 ちょっと懐かしさの感じる音。
 階段を登り、玄関の前まで来ると改めてノックして声をかける。

「ごめんください! アーキさんに言われてお届けものを持ってきました!」
「キキー!」

 リオハルトが背中でうごうご、うーうー言ってる。
 起きたみたいだけど、見たことのない場所に興奮してるみたい。
 よしよし、と声をかけてドアをもう一度ノックしようとしたら、ドアが開いた。

「はい」
「あ……あの……」

 黒い髪、眼鏡で覆われた深緑の瞳。
 幼さは残るものの、とても整った顔立ちはコバルト王国というより、前世の日本人に近い。
 ちょっと童顔のアイドルみたいだ。
 服装もこの国の人というより、黒の胸元のあいたTシャツにジーンズ風のズボン。
 とてもラフな格好。
 不思議だ。
 この人だけが、この世界から切り取られたような感覚。
 別の世界のようだ。

「ア、アーキさんから、お食事と調味料を渡されて……」
「あ、ありがとうございます。……もしかしてマチトさんが拾ってきた人間の……」
「そ、そうです」
「あー、なるほど。……いいですよ、入って。散らかってますけど。どうぞ」
「お、お邪魔します!」

 なにか察されてしまったような、気がしないでもない。
 家に入れてもらうとなるほど、散らかっている。
 服は少ないけれど、なんだろう? 部品?
 木材や工具、刃物系はまずいと思う。
 テーブルやおそらくキッチンと思しき場所は洗ってないお皿や生ゴミなどが散乱。
 頭を抱えたくなる。
 これはアーキさんが吊り目になるのもわかる荒れ具合。

「ルイといいます」
「あ、私は……ええと……」

 名乗るのに躊躇う。
 でも、向こうはちゃんと挨拶して自己紹介してくれたのに……。

「…………。……すみません、名前は……」
「いいですよ、別に。この国に来る時点でワケアリですもんね、お互い」
「うっ」

 色々考えてしまうの。
 名乗ったことで、周りの人——助けてくれた人たちを巻き込んでしまうんじゃないかって。
 人間がこの国にいる時点でワケアリ。
 だとするのなら、名乗るのを躊躇ったところで無意味かもしれない。
 それでも……。

「これ、アーキさんからです。あの、あと、それから……部屋を片付けてやってほしいと」
「うっ」

 そこまで言われてはいないけれど、この有様を見ればそういうことだと思う。
 ルイさんは居心地悪そうにしているので、怒られる自覚はあるんだろうなぁ。

「あの、その代わりこの国について教えてもらってもいいでしょうか? 私、コバルト王国には帰れなくて……」
「あー……はい、いいですよ。食べながらでよければ……」

 片付けを手伝うつもりはないんですね。
 了解です。
 ではまず散乱する木材や工具から片付けよう。
 ルイさんは手渡したバスケットを開けると、サンドイッチを手に取る。

「まず、この世界……というか、コバルト王国とドルディアル共和国ですが、戦争が続いている理由はご存じですか?」
「え? えーと……コバルト王国では、ドルディアル共和国側から戦争を仕掛けられていると教わりました」

 無論もう信じてはいない。
 コバルト王国の方に問題があるとも、あまり思いたくはないけれど。

「なんかややこしいんですけど」
「え? は? はい」
「この世界の成り立ちから関わってる問題なんでそうです」
「え?」

 サンドイッチを食べながら、なにやら話がいきなり壮大になった。
 けれどそれは、聞けば納得の理由でもあった。
 この世界の神様『アレンクォーツアース』は元々人間が生み出したAI。
 人間が科学により惑星を滅亡させてから、生命を呼び込んだ『惑星の管理人』。
 ここまではコバルト王国でも語り継がれている。
 AI、というのは多分この世界の人間には通用しない単語だろう。
 でも、それを用いている。
 この人……もしかして……。

「世界の成り立ちというか、目に見えないことわりのようなものに、死後の輪廻転生というシステムがなければならないそうです。でも、一度滅んだこの世界は、神の代行者である『アレンクォーツアース』によって甦らされ、必要なシステムの多くが欠けており、代理のシステムで運用されている」
「は、はあ」
「コバルト王国はそれを秘匿していますが、こちらの国では常識のようです」
「っ……」

 コバルト王国とっては不都合、ということなのだろうか?
 ちょっとかなり信じ難い話ではある。
 私が転生者でなければ絶対信じられなかっただろう。
 ともかく、世界は欠陥だらけ。
『惑星の管理人』が世界を代用システムを用いながら運営している。
 かなり綱渡りな状況、ということのようだ。
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