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16話
しおりを挟む「中でも特に問題が大きいのは輪廻転生のシステムです。輪廻転生機能がないせいで、魂が転生しません。転生できないと、命は繋がらない。そこで『アレンクォーツアース』は死んだ魂の行き場を用意しました。それが亜人族や獣人族、魔人族です。それらが住むこの国……ドルディアル共和国は、人間が死んだあとに来る死者の国。ここで魂は記憶や罪悪を洗い流され、無垢なものになり、死んで人間に転生するんだそうです。けれど、魂の転生機能はとても不安定で、定期的に入れ物の方を破壊しなければならない。……そこで人間……コバルト王国は、ドルディアル共和国側から戦争を仕掛けられているとして虐殺を行い入れ物から魂を解放してコバルト王国で子どもが産まれるように調整を行うんですよ」
「…………」
片付けの手が止まる。
止まるに決まってる。
瞳が揺れて、体が震え出した。
「……な、ん、ですか……そ、れ……」
信じ難いにも、程があるでしょう。
「驚きますよね。これ、この国では常識なんですよ。……あまりにも歪んでる」
「……ひ、ひどい……! ひどすぎす、そんなの……! だって、そ、それじゃあ……戦争は終わらない……終わらせられないじゃないですか……! コバルト王国はこの国の人を、殺さなきゃいけなくて……この国の人たちはそれを受け入れてるっていうんですか!?」
「ドルディアル共和国の民はとても無垢です。……それが世界に必要なことだと受け入れています。俺も初めて知った時はとてもショックでした」
「……っ!」
もしかしたら、『アレンクォーツアース』にそう思うように、受け入れるように“設定”されているのかもしれない。
この国の人たちは“入れ物”としての役割からか繁殖を行えず、国の中央にある『生命樹』に祈ることで子を得るという。
個体数は士官たちが管理しており、それはコバルト王国側も同じ。
そして、定期的に外から——異世界から魂をもらってきては、数を調整する。
コバルト王国で勇者や聖女、賢者などを異世界から【召喚】するのは、主にその調整が理由なのだという。
多分、私も……『転生者』もその調整のためなのだろう。
なんてこと……。
「だからコバルト王国で生活できないのであれば、この国で生活するのは問題ないです。ただ、結構精神にきます。それを忘れて過ごすのは、相当無神経な人間だと思うので」
「ルイさんは——」
どうしてこの国に、と聞こうとして、止めた。
ワケアリなのだ、彼も、私も。
言葉を呑み込み、工具の片付けと木材の片付けに移る。
それにしても、いったいなにをやっているんだろう、この人は。
木材が散乱してるってことは、木工職人かなにかなのだろうか?
木片も履いて捨てないと——。
「あれ? これ、オルゴールですか? わあ、かわいい!」
「!」
窓際に並ぶ箱。
どれも可愛らしい動物が蓋に彫ってある。
他にもダンスする人形。
動物の列。
そういえば入口をノックする前に音楽が聴こえたっけ。
そうか、オルゴールの音だったんだ。
「鳴らしてみてもいいですか?」
「どうしてそれがオルゴールだって知ってるの」
「え」
口調と声色が変わった。
顔つきも先程の柔らかく同情的なものではなく、無表情で読み取りづらい、冷たい目線。
「この国はもちろんコバルト王国にもオルゴールの文化はない。オルゴールの存在を知っているのは異世界から招かれた者だけだ」
「っ……!?」
「君……もしかして、召喚者?」
ビリビリと、空気が重く尖ったものになる。
まるで怒りに満ちた父と対峙している時のような——いえ、父の比ではない。
息もしづらい。
コルトが怯えて私の後ろに隠れるほど。
「おぎゃあ、あぎゃあ!」
「あ……えっと」
背中で泣き出したリオハルトをあやしながら、どうしたらいいか考える。
召喚者——異世界から来た者へのこの態度。
私もリオハルトも間違いなくそれに近いものに該当する。
で、でも、逆に言うと“オルゴールを作っている”彼もまた……。
「わ、私は、前世が異世界だった、です。あ、あなたこそ……」
「……前世? ……転生者? 異世界から? そんなことがあるの?」
「あ、あるもなにも……」
剣呑な空気はあまり変わらない。
少し不満そうな表情にはなったけれど……。
「あ、あの、少し落ち着いて話を聞いてくれますか?」
「別に……いいけど……」
今の感じで確信したことがある。
——ルイというこの青年、強い。
威圧感、存在感、圧迫感。
どれをとっても今まで会ったどんな人間よりも凄まじい。
椅子に座り、リオハルトを泣き止ませてもコルトはルイんさに近づこうとしないほど。
とにかく、彼を敵に回すのは得策ではない。
仕方なく、私は自分のすべてを彼に話すことにした。
前世でワンオペ育児の結果、自分とこの子を——晴翔を死なせてしまったこと。
転生したあと『異界の子』として処女受胎でこの子を授かったこと。
それにより家に居場所を失い、兄にとても迷惑をかけてしまったこと。
この子を産んだあとのことも、すべて。
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