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22話
しおりを挟むしかし、涙止まらず。
「今日は休んで、明日改めてルイと相談するといいさ。なぁに、あの子放っておくと変なもんばっかり食べるからね、明日もなにか作って持っていってもらおうと思ってたんだ」
「す、すみません……」
「びゃっ、ぅっ、びゃぅ」
「リ、リオハルト?」
私がズビっと鼻を啜ると、リオハルトもぐずり出す。
そういえばそろそろおしめを替える時間だ。
まいったな、マチトさんにも助けてくれたお礼を言いたかったんだけど……こんな顔全体ズビズビじゃ……。
「そういえば、赤ちゃん風呂入らなくて大丈夫かい?」
「そうでした! それも言おうと思ってたんでした!」
この国に来てからは、リオハルトのお世話をお客さんや従業員さんに任せきり。
自分でお風呂にも入れられないダメ母のようになっていた。
今日こそは、私がこの子をお風呂に入れます、と言おうと思っていたのに涙がまた落ちる。
「……そんなぷるぷる震えてたら湯船の中に赤ちゃんを落っことしそうで怖いよ。アンタもうほんと今日は休みな」
「うー! すみませんー!」
背中からおんぶ紐を解いてリオハルトのをアーキさんへ預ける。
多分、私がぼろぼろ泣いているからリオハルトも悲しい気持ちになってしまったんだろう。
ごめんね、リオハルト。
別に悲しいだけの涙ではないの。
確かに、今まで自分がどれだけ捨ててきたのかを、犠牲にしてきたのかを自覚した。
それは悲しいの。
でも、自分の好きなものを思い出せたことは嬉しいのよ。
ただ自分で思ってたよりもドバッとキて自分で制御できなくなっているだけで——!
「夕飯は?」
「アーキさんの作ったミートソースグラタンが食べたいですっ!」
「食欲はあっていいね!」
***
翌朝。
この国に来て四日目となる。
昨日の涙のせいで顔が赤くパンパン。
しかし、とりあえず若さで乗り切れそう。
いかに若さで乗り切れそうとはいえ、張ったところは痛いので朝、宿の裏の井戸に水をいただきにやってくると……。
「「あ」」
そこにいたのはアーキさんよりやや大きなオーガ。
忘れもしない、私がコバルト王国で倒れる直前に見たあのオーガだ。
「あ、あなたは——」
「っ」
「ま、待ってください!」
私が姿を見るなり、顔を隠して水がたっぷり入った桶を持ち上げ、厨房の方へ走っていこうとする。
それを引き留め、駆け寄った。
「マチトさん、ですよね?」
「う、す、すまねぇ。すぐあっちに行く」
「い、いえ、待ってください! お礼を言いたかったんです、ずっと!」
「え?」
ようやく振り返って私を見てくれた。
とっても大きいオーガ。
下唇から牙が突き出てる。
見た目は怖い。
でも、この人こそ、私とリオハルトを助けてくれた人。
「あの、マチトさん。私とリオハルト、あと、コルトを、助けてくれてありがとうございました。おかげで命が助かりました」
ずっと言いたかった。
よかった、ようやく、言えた。
頭を下げて心から。
「あ、頭をあげろ」
焦ったような声に顔をあげる。
見れば実際とても焦って、あちこちに顔を向けていた。
「おれ、おれは、人間族にとってはおっかねぇんだろ。無理しなくていい」
「っ」
頭の後ろを掻きながら私と顔を合わせないようにしている。
ああ、本当に優しいひとなんだ。
そうだよね、アーキさんの旦那様だものね。
「いえ、助けてくれて、ありがとうございました。本当に」
「……そ、そうか。いや、いいんだ。じゃあな」
「はい、頑張ります!」
アーキさんにどのくらい私のことを聞いているかはわからないけれど、決意表明を伝えた。
ひとつだけ——マチトさんにお礼を伝える目標を達成できたわ。
次はルイさんのお店を一部借りてカフェをできないか、相談する、ね!
「おはよう。今日の朝ご飯はどうする?」
「おはようございます、アーキさん! あの、今日は私が作ってもいいでしょうか! カフェを開くにあたり、メニューを試食してほしいんです! あ、もちろんルイさんに相談したあとなんですけど、相談するためにも、といいますか!」
「ああ、そうだね、いいね! アンタの料理も食べてみたい」
というわけで、まずは——あ、いえ、その前にもう一つ!
「あの、アーキさん」
「うん?」
「私、訳あって本名を名乗れません。命に関わることなので」
「ああ、聞いてるよ?」
「だから、ティータと名乗ることにしたんです。リオハルトも、リオ、と。あの、とても遅くなってしまったんですが……これからは、その……」
名を、あえて聞かずにいてくれたアーキさん。
そんなアーキさんへ、昨日決めた偽名を名乗る。
偽名とはいえ、これからは“本名”になる名前だけれど。
「ティータ! いい名前じゃないか! リオハルトは“リオ”だね! わかったよ! コルトはこのままコルトでいいのかい?」
「はい」
「うんうん、いいねいいね! じゃあ改めてよろしくね、ティータ! 朝飯楽しみにしてるよ!」
「はい! 頑張ります!」
よーし、報告も終わったしリオハルト——リオのことも預けたしやるわよー!
まずはフライパンを熱魔石にかざしてあたためる。
オリーブオイルを敷いて、広げて、まずはみじん切りしてある玉ねぎと、小さく切った鶏肉を炒めてそこへ昨日の残りのご飯を投入。
ケチャップはないので、塩と胡椒とトマトピューレ、ニンニクを入れてしっかり炒める。
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