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23話
しおりを挟むピューレだからちょっと水分が多いな。
ケチャップの作り方はうろ覚えだけど、トマトと玉ねぎ、ニンニク、香草、酢、赤唐辛子、塩、砂糖——だったかな?
ケチャップもあとで試作してみよう。
でも、まずは続き!
チキンライスをお皿に盛って、次に卵に取りかかる。
卵を解いて、牛乳、砂糖、お塩を少々。
あたためたフライパンに入れてトントン、と持ち手を軽く叩きながら中火でじっくり焼いていく。
表面がしっかり固まったらチキンライスの上に乗せて完成!
「できました! オムライスです!」
「あらあらー」
「ほぉ」
「ウキィー!」
「コルトはこっち。バナナよ」
「ウキキーーー!」
アーキさんとマチトさん、そして自分用の三つのオムライス。
そしてコルト用のカットバナナ。
リオにはこれからミルクです。
いえ、そんなことよりも!
「ケチャップはこれから作ろうと思ってるんですけど、ひとまずメニューの一つとしてどうかな、って」
「いいんじゃないかい? まあ、けど味見させてもらうよ」
「はい、よろしくお願いします!」
「どれ……もぐ、もぐもぐ……」
アーキさんとマチトさんは厨房にもよく入るプロ。
二人に通用すると認めてもらえないと、お店はとてもやっていけないだろう。
自分の分も食べてみるけど、やはりピューレだと水分量が多いし味がとっ散らかってる感じがする、かな。
「うん、美味いね。けど、少し水分が多くて米がベタついてるかもね」
「私もそう思います。この辺りは改善点ですね」
「ケチャップ? ってのはなんだ?」
「トマトと玉ねぎ、香草、酢、塩、砂糖、あとは赤唐辛子を加えて液状になるまですりつぶして煮込んだものですね。香草の種類や砂糖以外に果物などで甘さや酸味の調整をするんですけど、実家ではたまに作っていました」
「へぇー」
「他にもマヨネーズがおすすめです。新鮮な卵と酢、油のみで作るんですけど、サラダにとても合います。もちろんサラダ以外、料理にも使えますね。香草を入れると味わいが変わって面白いですよ」
実家——トイニェスティン侯爵家のことではない。
前世の——郁夫との結婚初期の話だ。
不妊治療の過程で体にいいものを考えつく限り試していた結果、調味料もお手製のものを作るようになった。
作り方を知っているのは、その時に覚えたから。
今となっては、という感じだけれど。
「調味料ってのは塩と砂糖と胡椒がありゃいいと思ってたぜ」
「あとはバターとかねぇ」
「……そんな気はしていました」
厨房を見たけど、割と乱雑に置いてあったんだよね、調味料。
酢みたいなものも見かけなかったし。
これは調味料作り苦労するかも?
「他にはどんなメニューを考えてるんだい?」
「そうですね。サラダ二種類、スープ二種類、パスタ三種類、サンドイッチやカレー、スイーツを五種類くらい。それから飲み物を三種類くらい。細かくはこれから試作していこうかと」
「そうだねぇ。まあ、あんまり多すぎてもね」
「お、多いですか?」
「あんた一人で賄うにしちゃあ、多くないかい?」
そ、そうだろうか?
多いかな?
でも、座席数にもよると思うし。
お客様にはたくさんきてほしいけど、あまりたくさん入るようにすると確かに回せなくなりそう。
「ルイさんは料理……」
「期待しない方がいいねぇ、あの子……」
「そ、そうですか」
ア、アーキさんの首の振り方がひどい。
なんなら顔色も青白い。
ルイさん、まさか料理音痴?
まあ、場所だけ貸していただければ、食事は私が作ればいいしね?
「あんた、ルイのとこで店をやりたいって話だったな」
「はい。ルイさんにはテラスをお借りできたらと思っています」
ほぼ無言で食べ終えたマチトさんに答える。
するとやや言いづらそうに「テーブルや椅子、食器や食器棚、テーブルクロスやメニュー表は」とボソボソ呟く。
けれど、その内容に私は顔から血の気が引くようだった。
「な、なにも考えてませんでした。その、業者の方とか、い、いるんですよね」
「店を始めるのにも、資金は必要だろ? ど、どうするとか、あ、あてはあるのか?」
「…………」
ない。
ありません。
滝のように流れる汗。
「あっはっはっはっはっ! やーっぱり勢いだけで言ってたのかい!」
アーキさんにはバカウケしたが、笑いごとではない。
恥ずかしながら、本当に勢いだけで——思いつきだけで言っていた。
ここまで判断能力が落ちてたなんて、情けないわ。
「ま、まずはカフェを始めるための資金が必要なんですねっ」
「それならいい考えがあるよ。ルイと結婚しちまえばいい」
「ふぁ!?」
なななななななに言ってるの、アーキさん!?
ルイさんと、け、けけけけ! 結婚んんん!?
なに言ってるの!? なに言ってるの!?
「結婚すると多額の祝い金が貰えるし、アンタ身を隠したいんだろう? ルイもそうだけど、独り身より夫婦の方がバレにくかろうよ。人間は珍しいからね、この国は」
「あ……」
言われてみれば、確かに。
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