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24話

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 いずれ新たに召喚された勇者と聖女により、結界の要たる聖剣が引き抜かれることもあるかもしれないけれど……裏切り者の勇者は目障りに違いない。
 そうか、そこまで考えが及ばなかったけれど、ルイさんも狙われている可能性は高いんだ。
 人間の男一人、子連れの女一人……それで聞き込まれたら、一発でバレる。
 でも、私とルイさんが夫婦という形でいれば人間は珍しかろうが『人間の男一人』と『子連れの女一人』で探されるよりはバレにくい。

「でも、それってルイさん次第ですよね……?」
「あの子だって居場所を特定されたくはないでしょう。もうバレてはいるかもしれないけどねぇ」
「え、ええ……」

 もうバレてる!?
 けど、それもそうか。
 前勇者が召喚されたのは五年前。
 ルイさんがコバルト王国を裏切ったのがいつかはわからないけど——ルイさんは『ステータス』を表示できていた。
 コバルト王国の国王に能力を把握される『ステータス』を。
 居場所までわかるものだとは聞いたことないけれど、コバルト王国もそれなりに密偵などは使っているだろうから、王国側に居場所はバレてても不思議じゃないのね。

「でも、やっぱり心配なのよ。あの子、アタシらのためにはちょっと無理する子だからね」
「ああ……あんな子どもの時から人の生き死にの場に連れて行かれて……可哀想な子だ……。それなのにおれたちのことばかり心配して……」
「…………」

 五年前に【召喚】されたルイさん。
 今、十八と言っていた。
 五年前——ルイさんは十三歳。
 その年齢に気づいて口を両手で覆ってしまった。
 十三歳の男の子が、戦争のために——虐殺のために召喚されたのだ。
 なんとおぞましい……!
 未成熟な心と体は、さぞ戦争の負荷に苦しんだことだろう。
 考えただけで私までしんどい気持ちになる。
 鎮痛な面持ちのアーキさんとマチトさんは、勇者時代のルイさんを知っているのね。
 だから心配してるんだわ。
 コバルト王国はルイさんを見つけたらどうするつもりなのだろう。
 父は『失敗』と断じていたけれど、どちらが失敗なのかわかったものではない。

「ああ、ごめんね。アンタも大変なのに。アタシらあの子のことばっかりで。……あの子とのつき合いの方が長いからついね」
「いえ。……どのくらい一緒にいるんですか?」
「あの子が召喚されたのは五年前なんだけど、アタシらはあの子が攻め込んできた時に会ってるから……そうだね、三年くらいだね」
「三年……」

 三年前に戦争があったの?
 私知らない……。
 三年前のこと思い出すと、なぜかうまく思い出せない。
 思い出そうとすると、勉強机に積まれた本の山ばかり思い出す。
 あ、ああ……勉強漬けになっていた頃かぁ!
 コバルト王国の王族と貴族の名簿と家系図、関係者の見取り図みたいなやつがずるずる思い出されてくる……!
 あ、いいですこういうの、今はもう役に立たないので!
 あとは刺繍の練習や宝石や絵画の真贋見極め試験がきつかったなぁ、くらいな!
 あの頃から簡単な料理もさせられるようになり、頭の上には常に丸い花瓶を載せて生活しなければならなくて本を読む時は特に張り詰めていたのを思い出す。
 あー、しんどいしんどい!

「私、戦争があったなんて知りませんでした……」
「そうなのかい? まあ、コバルト王国じゃあうちの国に攻め込んでくるのは日常茶飯事だろうからねぇ」

 最悪すぎる日常茶飯事だなぁ。

「ルイが来てからは、それもなくなったな」
「そうだね、こんなに平和な日々が長く続くのは初めてだよ」
「な、なんかすみません」
「アンタが謝ることないさ。まあ、とにかくだ、そういう意味でも、夫婦になるのはいいことだと思うんだよ。どうだい?」
「ル、ルイさんがご迷惑でないなら?」

 私の一存では決められないだろう、そんな大事なことは。
 なので、ケチャップを作ってもう一度オムライス二人分お弁当に詰める。
 アーキさんとマチトさんに改めて厨房を使わせてもらったお礼を言い、湖畔の家に向かう。
 それにしても、なかなか大胆な作戦だな。
 夫婦のふり、かぁ。

「こんにちは~」
「キー!」

 コルトは扉を叩くなり、背負ったリオの後ろに隠れる。
 よっぽど昨日威圧をかけられたのが怖かったのねぇ。

「はい。どちら様ですか」
「ルイさん、ティータです。お弁当をお持ちしました」
「あ、ああ、また……すみません、わざわざ。も、もう、アーキさん、別に自炊くらいできるのに」
「…………」

 そうは見えないんだよなぁ。
 昨日ある程度片づけた台所が、使用済みの食器でごちゃごちゃ……。

「あ、えーと……今日は私が作ってきました。オムライスなんですけど、食べられますか?」
「え! オムライス!?」

 ぱあ、と満面の笑み。
 ルイさんのこんな笑顔、初めて見た。
 いや、浅い仲なので初めてもなにもないのだけれど。
 こんなに年下に見えるような笑顔、できる人なんだ。

「オムライス大好き!」

 小学生みたい。
 でもそんなに喜ばれると、もう嬉しくなってしまう。
 家の中に招かれて、バスケットの中からお皿を取り出す。
 オムライスを見た途端、ますます瞳が輝いた。
 可愛い……。
 一応肉体年齢は年上なのに、こんなに幼く見えるなんて。
 本当に好きなんだなぁ。

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