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25話
しおりを挟む「わあ、嬉しい! こっちの世界、ケチャップがないみたいだったから諦めてたんだー!」
「あ、ああ、そういえば……」
「どうやって作ったの!?」
「ケチャップですか? 手作りました。あっちの世界の一般的なケチャップとは違うので、お口に合えばいいんですが……」
「えー! すごい! ティータさんすごい! ケチャップ作れるの!?」
「つ、作り方さえ知っていれば誰でも作れますよ」
テンションが、高い。
本当に好物を前にした子どもそのもの。
でも、この人がこの世界に来たのは十三歳の時。
まだ子どもだ。
そんな子どもに戦争という名の虐殺侵略を強要し、正義は我にありとかやってた母国を思うと頭を抱えたくなる。
勇者としては強くなったのだろうし、体は大人になったのだろうけど……きっと、この人はどこか子どものままでいたかったところがあるのだろう。
それが食べ物——好物なら、とても可哀想で可愛らしい。
「食べてもいい!?」
「どうぞ」
味見はしたけど、自信はないな。
彼のハードルが駄々上がりしてる。
重ねて「手作りのケチャップなので期待しないでください、期待しないでください!?」と釘は刺したが効果はなさそう。
仕方ない、彼にしてみれば五年ぶりのオムライス。
こちらの世界にあるトマトピューレではケチャップのオムライスの味は再現できない。
朝自分で作ってみて実感したのだから間違いない。
スプーンがケチャップと卵、チキンライスを程よい量で割って載せる。
ルイさんがそれを口に運び、入れた。
未だかつて料理を食べてもらうのに、これほど緊張したことがあっただろうか?
いや、ない。
お店の一画を借りたいという話や、偽装結婚の話もすべて頭からすっ飛んで咀嚼するルイさんを見つめた。
「美味しい……」
「よ、よかった」
しみじみ、呟くように。
けれど、美味しい、と言ってくれた割にそこからスプーンが進まない。
ルイさんの動きがなくなった手元が心配になって、顔の方へと視線を上げると昨日見たのとはまた違う——慈愛に満ちたような幸せそうな笑みを浮かべていた。
こっちの方がいい。
直感的にそう思った。
多分これが彼の本来の姿。
彼はこの方がいいと思う。
思わず私まで顔が笑ってしまった。
「美味しいですか?」
「うん、もったいなくなっちゃった」
「また作ってあげますよ」
「本当?」
「はい」
こんないい笑顔をされたら、またいくらでも作ってあげたいじゃない?
それに、思い出した。
カフェの話をしなきゃ。
「あの、それでですね」
「?」
「私、この国で生きていくことにしました。リオもその方がいいって」
「んぁー」
モゾ、モゾ、と背中で動くリオ。
その後ろからコルトも顔を出して「キキ」と短く鳴く。
どうやらコルトも私たちに賛成らしい。
「それで、このお店、とても広くて陽当たりもいいので、厨房とテラスを間借りしてカフェを経営させてもらえないかと」
「カフェ?」
「はい。私……前世でカフェに憧れがあって……幸い料理は嫌いじゃないし、アーキさんやマチトさんも賛成してくれてて」
「カフェ……」
微妙な反応だな。
やっぱりダメだろうか?
「カフェってご飯食べるところ、ですっけ?」
「えーと、そうですね。軽食や飲み物、ゆっくりできる空間ですね」
「ふーん。うちのテラスで?」
「はい。厨房もお借りできたらと」
「まあ、俺のオルゴールは売れないし、厨房は使いこなせてないからいいけど」
と、後ろを見たルイさんの視線の先にある汚れたお皿の溜まった厨房。
呆れて言葉もない。
あとで片づけないとなぁ。
「あ、でもルイさんのオルゴールは是非そのまま売ってほしいんです!」
「へ?」
「オルゴールカフェって素敵じゃありません?」
私は一晩考えたのだ。
ルイさんのお店を間借りするのだから、ルイさんにも旨味がなければ。
そして、ルイさんの商売に少しでも還元したい。
だってオルゴールの音色、とても素敵なんだもの。
「うーあー、うー」
「どうしたの、リオ?」
「うー、うーんぁー」
「あ、リオもオルゴールが聴きたいのね」
「あー、あー」
髪を引っ張りれ、リオが手足をバタつかせる。
テーブルの端にあった木製の箱。
蓋を開けて鳴らすタイプだと思う。
手に取って、ルイさんに「鳴らしてもいいですか?」と確認を取ると「どうぞ」と言われた。
許可をいただいたのでありがたく蓋を開くと、これは、アニメの曲だ。
題名はうまく思い出せないけど、多分。
前世の……科学にまつわるものは、思い出せない。
転移してきた人はそうではないのだろうか?
少し羨ましいなぁ。
「オルゴールの音色を聴きながら食事したり、飲み物を楽しみながらまったり過ごすの……素敵じゃありませんか? ほら、音色や曲が気に入ったら、オルゴールもお買い上げいたたける、みたいな。お土産にもなりますよ、って」
「な、なるほど」
うん、いい考え!
ルイさんも「それなら」と頷いてくれる。
けれど、ここからがもう一踏ん張り。
「そ、それでですね」
「はい? ま、まだなにかあるんですか?」
「私もリオもコバルト王国に身バレするわけにはいきません。アーキさんとマチトさんに、ルイさんも同じだと聞きました」
「ま、まあ、そうですね」
息を吸い込む。
落ち着け、これは必要なこと。
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